3月23日、コミュニティ・デザイナー、山崎亮さんのお話を拝聴する機会がありました。
山崎さんは、地域の課題を住民参加型で解決するためのコミュニティ・デザインに携わっておられ、まちづくりワークショップ、住民参加型総合計画作り、建築および景観デザイン、パーク・マネジメント等、数多くのプロジェクトを手掛けておられます。今回の演題もずばり「コミュニティ・デザイン」でした。
ここでいうコミュニティ・デザインとは、簡単に言うと、地縁型コミュニティが衰退し、高齢化、過疎化など様々な問題が叫ばれて久しい現代社会にあって、地域住民のみならず、地域外からの人たちをも引き付ける、魅力ある地域づくり、すなわちテーマ型コミュニティのデザインのことです。
「魅力ある地域づくり」というと、何か行政の仕事のようなイメージがありますが、山崎さんの特徴は、そこに必ず住民参加があることにあります。お話によると、その原点は1995年の阪神淡路大震災にあり、川沿い避難した被災者の住民達が、家も町も失った中で自生的に協力し合い、コミュニティを再形成している姿にあったそうです。僕と同じ1973年生まれなので、その頃はちょうど翌年(僕の場合はそうではありませんでしたが)には社会に出るという時期。建築デザインを専攻されていた山崎さんは、その時、ただ斬新なだけでなく、社会が抱える課題に対して共感できる形で解決策を提供するという、デザイン本来のあり方を追求し、徐々にコミュニティ・デザインに関わるようになっていたのだそうです。
住民参加型ということで、ご講演の中でまず例に挙げられていたのが、閉店後の商店街にどこからともなく現れる「大阪のおばちゃん」。そのおばちゃんの周りに、地域のお年寄りや体の不自由な方たちが集い、コミュニティを形成する。しかもそのおばちゃんは毎日必ず周辺を清掃してから帰るそうです。そうした、誰に言われるでもない、素人による自生的な空間活用能力を考えた時、本当に何から何までを行政が用意する必要があるのでしょうか?逆に行政が用意してくれなければ本当にコミュニティの再生はできないのでしょうか?これが山崎さんのコミュニティ・デザインの特徴である住民参加型の元型としてあるのではないかと思います。
それは必ずしも地縁型コミュニティを否定するものではありません。長い伝統や文化を保持している地域であれば、それを再発見することによってアイデンティティやコミュニティを再構築することも方法でしょう。しかし、そうした過去の遺産が断絶して久しい地域、あるいは新興住宅地など、新たに開発された地域で、住民のコミュニティ意識が醸成されていないような地域では、別のアプローチも必要になります。それがテーマ型コミュニティと言えるでしょう。
テーマ型コミュニティの事例として最初に挙げられたのが、兵庫県にある
有馬富士公園です。ここは元々典型的な行政によるいわゆるハコモノで、山奥に作った公園にいかに来場してもらえるかが課題でした。山崎さんが発想したのは、お客が集まる=ディズニー・ランドということ。そこでディズニー・ランドのスタイルを分析してみると、そこには管理者であるオリエンタル・ランドとゲストとの間にキャストが介在し、お客さんにディズニーの魅力を伝えています。しかし、県立の有馬富士公園では、そのために予算を割いてキャストを集めることができません。そこで、代わりに地域住民の力を活用するというわけです。
地域には、普段から趣味や高い志を持ってさまざまな活動をしている人たちが沢山います。しかし、彼らにもそれを広く伝える場がなかったり、あるいは自分だけの世界に留まっていたりという課題があります。これを有馬富士公園という「場」を提供することで、双方の課題を解決すると共に、人が集うことによる、公園を媒介とした人のつながりを創出することができます。
実際、道作り、水生物ウォッチング、たこあげ、天体観測など、声をかけた50団体のうち20団体が公園に集い、それぞれ活動を行っています。さまざまなイベントの内容や予定は、公園のホームページから見ることができます。さらに、それぞれの団体がそれぞれのファンを持つようになった結果、2001年の年間集客数41万人(これでも十分凄いと思いますが)が2005年には75万人になったということです。
次に、有馬富士公園の手法をデパートという多層空間に応用したのが、鹿児島の
マルヤガーデンズです。ここでは、各フロアにコミュニティ作りのためのスペースを設け、やはり声をかけた50団体のうち40団体が日替わりで集い、さまざまな活動を行っています。例えば、オーガニック・ファションを発信していた団体と隣接する店舗がつながり、そこでの新ブランドに発展したという例も挙げられていました。僕もちょうど一年前、とある研修で同じように郊外沿線型ショッピング・モールのスペースを活用したコミュニティづくりのアイデアでプレゼンしたことがありますが、単純な思いつきと、実際にそれを行うのとでは雲泥の差があります。「言うは易し、行うは難し」です。
コミュニティ・デザインで山崎さんが目指しておられるのは、「公共的な事業の住民参加を通じて、「担い手」を育成する」ことだそうです。さまざまな人の交流を通じ、それぞれの能力が高まることで、シナジー効果が生まれます。そうすることによって、本当の地域の活力が生まれるのだと思います。そのためには、小さなコミュニティを集め、さらにそれらを相互作用させていくコーディネートが重要だそうです。
そこでのキーワードは「ゆるいつながり」。いつ抜けても構わないコミュニティだからこそ、普通打ち明けられない悩みやアイデアも相談できたり、逆につながりが強まるという逆説があるのです。こうした気軽に相談できる場の創造は、うつ病が原因で年間3万人もの自殺者を出している(イラク戦争とその後数年の米兵の戦死者数でさえ、2万人に達しません)、明らかに異常な社会に対する有効な解決策となりそうな気がします。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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