「ボストン美術館浮世絵名品展」 千葉市美術館

千葉市美術館
「ボストン美術館浮世絵名品展 錦絵の黄金時代 - 清長、歌麿、写楽」
4/26-6/5



「浮世絵の正倉院」とも称されるボストン美術館の浮世絵より、主に天明・寛政期に描かれた諸作品を展観します。千葉市美術館で開催中の「ボストン美術館浮世絵名品展 錦絵の黄金時代 - 清長、歌麿、写楽」へ行ってきました。

昨年より既に神戸、名古屋、また東京の山種美術館で開催されてきた同展覧会ですが、ようやく4月下旬からここ千葉市美術館へと巡回してきました。

ボストン美術館浮世絵名品展公式WEBサイト/@ukiyoeten(ツイッター)

テーマはタイトルにもあるように「錦絵」です。その最も充実した時代と言われる天明・寛政期の清長、歌麿、写楽を中心に、同時代の浮世絵師をあわせて約140点ほどの作品がずらりと勢揃いしていました。

出品リスト(PDF)@ボストン美術館浮世絵名品展(千葉市美術館)

冒頭の清長から一気にヒートアップします。千葉市美術館で以前、半ば伝説と化した超弩級の清長展がありましたが、今回も約40点に及ぶ充実した清長の諸作品が待ち構えていました。


鳥居清長「美南見十二候 九月」(天明4年頃)

まず目を引くのが「美南見十二候 九月」です。美南見とは北の遊里の吉原に対し、南の品川を指す言葉だそうですが、そこでは夜の海を前にくつろぐ遊女たちが細密な筆で描かれています。とりわけ見るべきなのは格子の向こうの夜景です。

黒摺による闇にはぼんやりと月が浮かび、水面には仄かな舟の明かりが灯っています。一番右の女性は清長の真骨頂でもある艶やかな八頭身美人ですが、そうした背景の叙情的な様子にも惹かれるものがありました。

「五代目市川団十郎の横川覚範 三代目沢村宗十郎の狐忠信 中山富三郎の静御前」の鮮やかな色に心躍らせた方も多いかもしれません。ここではそれぞれの登場人物の着衣の朱などの色がくっきりと浮き上がっています。これは義経の物語を題材にしながらも、実際には揃わないという三名の役者をまとめたものだそうですが、清長の作品の中でもとりわけゴージャスでした。

清長を通り越すと登場するのは、浮世絵師最大のスター、喜多川歌麿です。私自身、浮世絵の中では春信と並んで歌麿に強く惹かれますが、今回の展示作品からも改めてその魅力を感じることが出来ました。


喜多川歌麿「高名美人六家撰」難波屋おきた」(寛政7~8年)

好きな作品をあげていくともうキリがありません。歌麿絶頂期の「歌撰恋之部 稀ニ逢」や、それより少し下った「茂兵衛女房 おさんが相」の大首絵の他、有名なおひさなど、あの艶やかでかつ表情豊かな美人画に恋してしまいました。


喜多川歌麿「歌撰恋之部 稀ニ逢恋」(寛政5~6年頃)

余談ですが、1995年に開館した千葉市美術館のオープニングを飾ったのは歌麿展でした。残念ながらそれは見ることが叶いませんでしたが、そろそろまた大掛かりな回顧展を拝見したいものです。

さて写楽では浮世絵に定評のある千葉市美ならではの嬉しいおまけつきです。展示の半ばハイライトとしても位置づけられるのが、一平VS江戸兵衛の対決展示でした。

 
東洲斎写楽「三代目大谷鬼次江戸兵衛」(寛政6年)*千葉市美術館蔵/「市川男女蔵の奴一平」(寛政6年)

これは言うまでもなく写楽でも有名な2点の作品ですが、ボストン美所蔵の一平の隣に、彼から金を奪う悪役の図である千葉市美所蔵の江戸兵衛が並んで展示されています。このサプライズは他会場ではありません。手を開いて闘志を剥き出し、今にも飛びかからんとする江戸兵衛と、とっさに刀を抜いて返り討ちにしようと構える一平の相対する様子はまさに迫力満点です。息をのみました。

ところでこの一平VS江戸兵衛の対決以外にも、会場全体として、他の巡回先ではなかった仕掛けがなされています。それが会場の照明、つまりは本展にあわせて導入されたブレンド4色のLEDのスポットライトです。この照明が用いられたのは国内の美術館で初めてだそうですが、繊細な浮世絵の色をあくまでも自然な感覚で浮き上がらせていました。その効果を、是非現地で確かめてみてください。

山種美術館では会期後半、大変な混雑だったと聞きましたが、少なくとも今の千葉市美ではそうした心配は全くありません。つい先日の土曜のお昼過ぎに出かけましたが、会場内は非常に空いていて、ストレスなく一点一点をじっくり楽しむことが出来ました。

それに千葉市美では夜間開館(金・土は夜8時まで)も行われています。経験上、同館の夜間で混雑していたことはありません。間違いなく狙い目となりそうです。

なお千葉会場ではさらにお楽しみがもう一つあります。同時開催中のコレクション展、「岡本秋暉とその師友」がこれまた充実していました。そちらも別記事でまとめる予定です。

「別冊太陽 浮世絵師列伝/小林忠/平凡社」

会期中は無休です。6月5日まで開催されています。*千葉展終了後、巡回の予定の仙台展(仙台市博物館)は中止されました。

「ボストン美術館浮世絵名品展 錦絵の黄金時代 - 清長、歌麿、写楽」 千葉市美術館
会期:4月26日(火)~6月5日(日)
休館:無休
時間:10:00~18:00(日~木)、10:00~20:00(金・土)
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )