「村上隆の五百羅漢図展」 森美術館

森美術館
「村上隆の五百羅漢図展」
2015/10/31~2016/3/6



森美術館で開催中の「村上隆の五百羅漢図展」を見てきました。

近年、世界各地にて大規模な回顧展のほか、様々なプロジェクトを手がけている現代美術家の村上隆。今回ほどのスケールで一度に作品を見られたことはなかったかもしれません。国内では約14年ぶりの個展です。全長100メートルにも及ぶ「五百羅漢図」を筆頭に、いずれも日本初公開の旧新作を交えて、村上の「芸術世界」(公式サイトより)を紹介しています。


「村上隆の五百羅漢図展」会場風景

さて100メートルの「五百羅漢図」。率直なところ、見る前はスケール感の見当すらつきませんでした。ともかく会場が全てを物語ります。モチーフは古代中国の四神、青龍、朱雀、白虎、玄武です。それらが一面ずつ、おおよそ25メートルの幅で展開しています。空間に飲み込まれるとはこのことではないでしょうか。数多くの羅漢たちは振幅も様々です。それこそ魑魅魍魎とばかりに様態を変えては至るところに跋扈しています。

村上が「五百羅漢図」を制作する切っ掛けになったのが東日本大震災でした。大津波や原発事故などで重大な局面を迎える中、「たとえ作り話でも、希望を唱えるお話が必要だ。」(キャプションより)と考え、いわゆる「人々を救済するためにとどまった聖人」(チラシより)こと羅漢を主役とした「五百羅漢図」を描いたそうです。

その源の一つにあるのは幕末の絵師、狩野一信の傑作こと「五百羅漢図」です。同作は10年の歳月を経て96幅まで完成。しかしながら一信は途中で力尽きて没してしまいます。遺志を継いだのが妻と弟子です。ともに協力して残りの4幅を描き、全100幅を芝の増上寺へと奉納しました。その後、しばらくは同寺内の堂で公開されていたもの、次第に忘れ去られ、いつしか収蔵庫の奥に眠る幻の作品と化していました。

時を超えて現代へ。再び「五百羅漢図」が脚光を浴びます。2011年に江戸東京博物館で行われた回顧展です。全幅を一挙に見せる試みでした。しかし直前になって東日本大震災が発生。一度は会期が延期になってしまいます。その後、関係者の努力の甲斐もあって無事開催。多くの人が来場したことでも話題を集めました。


「五百羅漢図 白虎」 2012年 アクリル、カンバス、板にマウント 個人蔵

そして村上の「五百羅漢図」です。ここには羅漢以外にも様々な神仏、ないしは生き物が登場します。その引用は鎌倉時代の仏画であり、江戸の絵画、例えば曽我蕭白の「雲竜図」や若冲の「象と鯨図屏風」であったりと様々です。内容は膨大、とても簡単には一つ一つを追うことはできません。


「村上隆の五百羅漢図展」から下図、資料など

村上は制作にあたり約200名ものチームを組み上げたそうです。元々、村上は工房の持つことでも知られていますが、その集大成こそが「五百羅漢図」だと言えるのではないでしょうか。チームでの制作を示す様々な資料も展示されています。下図、ないし指示書には、村上の容赦ないまでの叱咤の言葉までが記されていました。おそらくは怒号も飛んだことでしょう。村上工房の制作プロセスが露わにもなっています。


「五百羅漢図 青竜」 2012年 アクリル、カンバス、板にマウント 個人蔵

それにしても「五百羅漢図」はまさしく奇妙奇天烈です。ビジュアル自体はもちろん、極彩色の色遣いなり構図もダイナミック。一度見たら頭から離れません。例えば火炎地獄の「白虎」、200人以上の羅漢が描かれていますが、その衣服からして同じものは殆どありません。表情も豊か。不気味な笑みを浮かべたり、何やら挙動不審。ぽかんと上の空の羅漢もいます。「青龍」も凄まじい。破壊的なまでのエネルギーが渦を巻いています。咆哮に飛翔、まさに暴れたい放題です。生きることへの意志、あるいは執念、ないしは欲望のようなものすら感じさせます。


「五百羅漢図 玄武」 2012年 アクリル、カンバス、板にマウント 個人蔵

美術史家の辻惟雄との芸術新潮上での対談、「ニッポン絵合せ」も制作の一つの切っ掛けになったそうです。会場では対談をパネル上で再現。先に挙げた蕭白や若冲をはじめ、蘆雪、永徳、そして一信ら、村上が影響を受けたであろう作品を参照しています。


「五百羅漢図 朱雀」 2012年 アクリル、カンバス、板にマウント 個人蔵

「五百羅漢図」以外も見どころではないでしょうか。やはりこれほどのたくさんの作品を前にしたことはありません。現代美術家としてはあまりにも有名な村上隆という存在。しかしながら自分が痛いほど村上の作品を見ていなかった、そして知らなかったということに気づかされました。いわば初の村上体験です。それがこの物量で迫ります。ひょっとすると初回にしては刺激が強すぎたかもしれません。


「宇宙の産声」 2005年 金箔、FRP、鉄 ほか

否応無しに江戸東京博物館で見た「狩野一信の五百羅漢図」のことを思い出しました。あまりにもの情報量のため、一度には受け止められず、大いに驚き、また惹かれながらも、奇異なまでの世界に戸惑いを覚えた記憶。その体験がそっくり村上の作品の前でも蘇ります。迫力、メッセージという点において、一信が命を削って描いた「五百羅漢」は確かに21世紀に新たな形をまとって再生しました。一端を少なくとも鑑賞という形で共有できるチャンスではあります。その意味では見逃せない展覧会だと言えそうです。

なお現在、増上寺では狩野一信の「五百羅漢図」を展示中。100幅のうち21幅から61幅までが年末年始の入れ替えを挟んで公開されています。(3月13日まで)

「生誕200年記念 狩野一信の五百羅漢図展」@増上寺宝物展示室
前期:10月7日(水)~12月27日(日) 21幅~40幅
後期:2016年1月1日(金)~3月13日(日) 41幅~61幅

「狩野一信の五百羅漢図展」 増上寺宝物展示室(はろるど)

上記リンク先のエントリでもご紹介しましたが、あわせて出かけるも良さそうです。


「欲望の炎ー金」 2013年 金箔、カーボンファイバー ほか

思い思いにポーズをとりながら写真を撮っている方が多いことも印象に残りました。撮影は私用であれば全面的に可能です。


「村上隆の五百羅漢図展」会場風景

会期中は無休です。年末年始のお休みもありません。2016年3月6日まで開催されています。

「村上隆の五百羅漢図展」 森美術館@mori_art_museum
会期:2015年10月31日(土)~2016年3月6日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
 *ただし火曜日は17時で閉館。(11/3は22時まで。) 
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600円、大学・高校生1100円、中学生以下(4歳まで)600円。
 *展望台、屋上スカイデッキへは別途料金がかかります。
場所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。
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