「黄金伝説展」 国立西洋美術館

国立西洋美術館
「黄金伝説展 古代地中海世界の秘宝」
2015/10/16~2016/1/11



国立西洋美術館で開催中の「黄金伝説展 古代地中海世界の秘宝」を見てきました。

古来より不老不死や富、権力の象徴として重用されてきた黄金。主に古代の地中海文明における金製品を紹介する展覧会です。


「らせん状のディアデマ」 紀元前4世紀末-紀元前3世紀初頭 金 ブルガリア、スヴェシュタリ出土
ソフィア国立考古学研究所・博物館


会場内にはトラキア、エトルリア、ローマの金製品がずらり。中には世界最古とも言われる6000年前までの金製品までが登場します。


マルカントニオ・バッセッティ「ダナエ」 1620-30年頃 油彩・カンヴァス
国立西洋美術館


ただし重要なのはタイトルにもある伝説です。これこそが展覧会を支える基盤として良いかもしれません。とするのも黄金には富や権力が象徴されるだけでなく、ギリシャ神話などの古い物語に多く引用されています。言わば黄金が伝説を生むわけです。そこに画家が触発されます。彼らは時にこぞって黄金をテーマとした絵画を描きました。


ギュスターヴ・モロー「イアソン」 1865年 油彩・カンヴァス
オルセー美術館


よって冒頭からして絵画でした。まずはエラスムス・クエリヌスの「金の羊毛を手にするイアソン」です。元になるのはギリシャ神話のアルゴー船の伝説。英雄イアソンが金の羊毛を目指して黒海周辺を冒険します。甲冑を身に付け、羊毛を手に束ねるのがイアソンです。足から腕まで筋肉は隆々、勇ましい姿を見せています。またモローも同じイアソンを描きました。しかしながら雰囲気は大きく異なります。得意の甘美でかつ中性的な人物像です。ちなみにイアソンへ寄り添うのが王女メディアです。羊毛は円柱に掛けられています。足元には倒したという竜がひっくり返っていました。

イアソンが旅した黒海沿いの王国。1972年、同じく黒海沿岸の街で大量の金製品が出土しました。それがヴァルナ銅石器時代墓地です。いわゆる死者の副葬品、時代は今から6000年も前のことです。これこそが世界最古の金製品です。うち会場では43号墓を再現しています。骨こそレプリカですが、出土した本物の金製品をそのまま石棺(レプリカ)に入れて見せていました。

黄金に因んだ物語で有名なのはパリスの審判です。黄金の林檎を巡って争われた3人の女神、ルノワールが「パリスの審判」に描きました。元はルーベンスの作だそうです。ちなみに出品数こそ金製品が多くを占めていますが、こうした絵画も見どころの一つでもあります。


「ヴァルチトラン遺宝」 紀元前14世紀後半-紀元前13世紀初頭 金 ブルガリア、ヴァルチトラン出土
ソフィア国立考古学研究所・博物館


トラキア、つまり現在のブルガリアから「ヴァルチトランの遺宝」がやってきました。時は紀元前13世紀頃。全部で13点です。いずれも金製の杯や柄杓、そして蓋。見るも鮮やかです。輝きは失われていません。これらは今から100年前に偶然、農作業中の人物が発見したものだそうです。


「パナギュリシュテ遺宝/アンフォラ形リュトン」 紀元前4世紀-紀元前3世紀 金 ブルガリア、パナギュリシュテ出土
プロヴディフ考古学博物館


同じくトラキアの「パナギュリシュテ遺宝」も目を引きました。先のヴァルチトランから1000年後、ヘレニズム時代に製作された金製品です。こちらも眩い。ハイライトと言っても良いのではないでしょうか。時代が進んだからか意匠は精巧。リュトンには鹿や女性の頭部も象られ、神や英雄の姿も浮彫で表現されています。一部にはヘラクレスを題材とした神話も描かれていました。その物語をモローが「ヘラクレスと青銅の蹄をもつ鹿」に表しています。一つの黄金伝説が時の離れた金製品と絵画を繋ぎあわせています。

ラストはエトルリアとローマです。うち惹かれたのはエトルリアの金製品でした。そもそもエトルリアでは死後の世界が信じられていたため、立派な墓を作り、死者を豪華な装飾品とともに埋葬していたそうです。それゆえか金の細工の技術も高く、作品も緻密。魅せるものがあります。


「腕輪」 紀元前675年-650年 金 イタリア、チェルヴェテリ、ソルボ墓地、レゴリーニ・ガラッシの墓出土
ヴァチカン美術館


レゴリーニ・ガラッシの墓から出土した「腕輪」が立派でした。表面には幾何学模様が刻まれ、3体の女性像が浮彫状に打ち出されています。大変に細かい。ライオンの姿も垣間見えます。


「首飾り」 紀元前4世紀 金、練りガラス イタリア、オルヴィエート出土
ヴィラ・ジュリア国立考古学博物館


ほか青いガラスを合わせた「首飾り」も美しい。エトルリアの墓の多くは古くから盗掘され、なかなか当時の状態を保っていないそうですが、このレゴリーニ・ガラッシの墓は奇跡的に免れました。2500年も手付かずだった金製品。まさに財宝と呼ぶに相応しい品々ではないでしょうか。

時代も地域も幅広く広大。様々な金製品が文明を横断して登場します。時代しかり、伝説と金製品との関係を行き来するのにやや手間取りました。キャプションでの補完はありますが、ギリシャ神話の知識を前もって頭に入れておくと、より深く楽しめるかもしれません。

[黄金伝説展 古代地中海世界の秘宝 巡回予定]
宮城県美術館:2016年1月22日(金)~3月6日(日)
愛知県美術館:2016年4月1日(金)~5月29日(日)


「パナギュリシュテ遺宝/頭部の文様を施したフィアレ」 紀元前4世紀-紀元前3世紀 金 ブルガリア、パナギュリシュテ出土
プロヴディフ考古学博物館


会場には余裕がありました。2016年1月11日まで開催されています。*年末年始休館日:12/28~1/1

「黄金伝説展 古代地中海世界の秘宝」 国立西洋美術館
会期:2015年10月16日(金)~2016年1月11日(月・祝)
休館:月曜日。但し11月2日、11月23日、1月4日、1月11日は開館。11月24日、及び年末年始(12月28日~1月1日)は休館。
時間:9:30~17:30 
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
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