都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「俺たちの国芳 わたしの国貞」 Bunkamura ザ・ミュージアム
Bunkamura ザ・ミュージアム
「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」
3/19~6/5

Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」を見てきました。
幕末の浮世絵界の「ツートップ」(キャプションより)こと歌川国芳(1797-1861)と歌川国貞(1786-1864)。彼らの師は初代歌川豊国です。いわゆる兄弟弟子の関係にありました。
後に国芳は武者絵や戯画で名を馳せ、国貞は役者絵や美人画で一世を風靡します。ともに時代を切り開いた稀代の人気浮世絵師でもありました。
題して「くにくに展」です。国芳と国貞の画業を相互に俯瞰。対決展ならぬ「激突」(チラシより)です。出品は世界屈指の浮世絵コレクションを誇るボストン美術館。怒涛の170点です。いずれも保存状態の良いものばかりでした。
さて今回の「くにくに展」。ともかく切り口はキャッチー。エンターテイメント色も全開です。それでいて国芳国貞画における現代性を強調しています。

歌川国芳「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」 嘉永4、5 (1851、52)年頃
William Sturgis Bigelow Collection, 11.26999-7001
Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston
何せ章立てからして個性的です。例えば一幕目の三のテーマは「畏怖大海原」。てっきりそのまま「いふおおうなばら」かと思いきや「ホラー・オブ・ウォーター」と読ませます。ここで引用されるのは国芳の「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」。例の有名作です。為朝を救おうと巨大な鰐鮫が波間からザブンと姿を現しています。
確かにスペクタクル。ホラーと言われれば確かにホラーです。あまりにも迫力のある鰐鮫を前にして畏怖の念を感じないわけではありません。

歌川国芳「相馬の古内裏に将門の姫君滝夜叉妖術を以て味方を集むる 大宅太郎光国妖怪を試さんと爰に来り竟に是を亡ぼす」 弘化元(1844)年頃
William Sturgis Bigelow Collection, 11.30468-70
Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston
さらに一幕目の二、「物怪退治英雄譚」はどうでしょうか。読みは「モンスターハンター&ヒーロー」。登場するのは国芳の「相馬の古内裏」です。例のぬっと現れた大骸骨。妖術を仕掛けたのは滝夜又姫です。中央の大宅太郎へ襲いかかります。国芳は空想上の登場人物を歌舞伎役者に重ねて人気を博しました。ここではほかに「清盛入道布引滝遊覧 悪源太義平霊討難波次郎」も引用。全体として三枚続の大判の作品が多いのもポイントです。ともかくインパクトのある作品をこれでもかというほどに並べたてています。

歌川国貞「見立三十六歌撰之内 在原業平朝臣 清玄」 八代目市川團十郎 嘉永5(1852)年
William Sturgis Bigelow Collection, 11.42663
Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston
国芳と国貞の違いについても言及がありました。「異世界魑魅魍魎」(これでゴースト&ファントムとルビがつきます)では幽霊や物怪をモチーフとした作品を展示。国芳は人の恨みなどを強調して物語を描くのに対し、国貞は役者の人間味の生み出す怖さを表します。一例が国貞の「見立三十六歌撰之内 在原業平朝臣 清玄」です。両手を前で交わしながら垂らす男。背を大きく曲げて青白い顔をぬっと突き出します。いかにも幽霊といった出で立ちです。モデルとなる役者は8代目の團十郎。おそらく国貞は彼の風貌を丹念に写したことでしょう。亡霊になりきった演技には迫真性が感じられます。
それにしてもこれらのポップなテーマタイトル。個々のキャプションにまで徹底しているから驚きです。かんざしをアクセサリーと読ませ、背徳をパンクとする。お気に入りのメンバーは推しメンとルビが振られます。もちろん乗るか乗らないかは個人の自由ですが、一度乗ってしまえば楽しいもの。江戸の文化を現代に引きつけて感じ取ることが出来ます。
とはいえ主役は浮世絵そのもの。国芳に強く惹かれた作品がありました。「和田合戦 義秀惣門押破」です。「吾妻鏡」の一場面、ともかく凄まじいのは惣門の描写です。ボキッと折れた門のかんぬき。へし折られたのでしょう。門はガラガラと割れては崩れ落ちます。さらにバラバラと瓦が降ってきました。武士たちは押しつぶされてしまいます。この動きにこの迫力。映像的としたら言い過ぎでしょうか。思わず手に汗を握ってしまいます。

歌川国芳「水瓶砕名誉顕図」 安政3(1856)年
William Sturgis Bigelow Collection, 11.38179a-c
Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston
国芳画の類稀な動的表現。もう一枚挙げるとしたら「水瓶砕名誉顕図」ではないでしょうか。舞台は戦国時代。主役は柴田勝家です。右からドドドと馬に乗って駆けてきました。敵陣への斬り込みです。右手に槍を持ち、左手で血の付いた刀を振り回します。恐れ慄く敵兵たち。驚かんばかりの怪力です。何と槍で敵が吹き飛ばされています。逆さになって宙に浮く武将。解説に「ストップモーション」という言葉がありました。言い得て妙です。確かに一瞬間の動きそのものを捉えています。

二幕目の八「当世艶姿考」(アデモード・スタイル) 展示風景
会場のラスト、二幕目の八、「当世艶姿考」のエリアのみ撮影が出来ました。ここに並ぶのは全て国貞。町家の女性や遊女を艶やかに描き出します。

歌川国貞「見立邯鄲」 文政13/天保元(1830)年 *拡大
「見立邯鄲」が絶品です。能をモチーフにした一枚。長い髪を垂らした女性が蝶を見遣っています。髪は洗いざらし。湿り気を帯びています。親指と人差し指で摘み挟んだ蝶。金物細工です。口元には笑みがこぼれています。そして透けた扇子も美しい。網目も精緻に描かれています。

なお撮影は期間限定、4月18日までです。また混雑時など主催者が判断により中止する場合もあるそうです。ご注意下さい。

歌川国貞「江戸町壱丁目 扇屋内 花扇」、「角町 大黒屋内 大淀」、「角町 大黒屋内 三輪山」 天保前期(1830-39)
なお今回のスケールでボストン美術館から国芳と国貞画を出すのは史上初めて。縦の組み物など見慣れない作品も少なくありません。さらに一度展示すると最低5年間はお蔵入りするそうです。その意味では貴重な機会と言えそうです。
タイミングよく平日の夕方に観覧してきました。そのせいか特に館内は混み合うこともなく、比較的スムーズに見ることが出来ました。

歌川国貞「八百屋お七」四代目市川小團次、「下女お杉」四代目尾上 菊五郎、「土佐衛門伝吉」初代河原崎権十郎 安政3(1856)年
William Sturgis Bigelow Collection, 11.22004a-b
Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston
ただ土日の昼間はかなり混雑しているそうです。一部時間帯には入場規制が行われています。金曜、土曜日の夜間開館も狙い目となりそうです。

「俺たちの国芳 わたしの国貞」会場出口(撮影可能エリア)
会期中は無休です。6月5日まで開催されています。
「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」 Bunkamura ザ・ミュージアム(@Bunkamura_info)
会期:3月19日(土)~6月5日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~19:00。
*毎週金・土は21時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学・高校生1000(800)円、中学・小学生700(500)円。
*( )内は20名以上の団体料金。要事前予約。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。
「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」
3/19~6/5

Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」を見てきました。
幕末の浮世絵界の「ツートップ」(キャプションより)こと歌川国芳(1797-1861)と歌川国貞(1786-1864)。彼らの師は初代歌川豊国です。いわゆる兄弟弟子の関係にありました。
後に国芳は武者絵や戯画で名を馳せ、国貞は役者絵や美人画で一世を風靡します。ともに時代を切り開いた稀代の人気浮世絵師でもありました。
題して「くにくに展」です。国芳と国貞の画業を相互に俯瞰。対決展ならぬ「激突」(チラシより)です。出品は世界屈指の浮世絵コレクションを誇るボストン美術館。怒涛の170点です。いずれも保存状態の良いものばかりでした。
さて今回の「くにくに展」。ともかく切り口はキャッチー。エンターテイメント色も全開です。それでいて国芳国貞画における現代性を強調しています。

歌川国芳「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」 嘉永4、5 (1851、52)年頃
William Sturgis Bigelow Collection, 11.26999-7001
Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston
何せ章立てからして個性的です。例えば一幕目の三のテーマは「畏怖大海原」。てっきりそのまま「いふおおうなばら」かと思いきや「ホラー・オブ・ウォーター」と読ませます。ここで引用されるのは国芳の「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」。例の有名作です。為朝を救おうと巨大な鰐鮫が波間からザブンと姿を現しています。
確かにスペクタクル。ホラーと言われれば確かにホラーです。あまりにも迫力のある鰐鮫を前にして畏怖の念を感じないわけではありません。

歌川国芳「相馬の古内裏に将門の姫君滝夜叉妖術を以て味方を集むる 大宅太郎光国妖怪を試さんと爰に来り竟に是を亡ぼす」 弘化元(1844)年頃
William Sturgis Bigelow Collection, 11.30468-70
Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston
さらに一幕目の二、「物怪退治英雄譚」はどうでしょうか。読みは「モンスターハンター&ヒーロー」。登場するのは国芳の「相馬の古内裏」です。例のぬっと現れた大骸骨。妖術を仕掛けたのは滝夜又姫です。中央の大宅太郎へ襲いかかります。国芳は空想上の登場人物を歌舞伎役者に重ねて人気を博しました。ここではほかに「清盛入道布引滝遊覧 悪源太義平霊討難波次郎」も引用。全体として三枚続の大判の作品が多いのもポイントです。ともかくインパクトのある作品をこれでもかというほどに並べたてています。

歌川国貞「見立三十六歌撰之内 在原業平朝臣 清玄」 八代目市川團十郎 嘉永5(1852)年
William Sturgis Bigelow Collection, 11.42663
Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston
国芳と国貞の違いについても言及がありました。「異世界魑魅魍魎」(これでゴースト&ファントムとルビがつきます)では幽霊や物怪をモチーフとした作品を展示。国芳は人の恨みなどを強調して物語を描くのに対し、国貞は役者の人間味の生み出す怖さを表します。一例が国貞の「見立三十六歌撰之内 在原業平朝臣 清玄」です。両手を前で交わしながら垂らす男。背を大きく曲げて青白い顔をぬっと突き出します。いかにも幽霊といった出で立ちです。モデルとなる役者は8代目の團十郎。おそらく国貞は彼の風貌を丹念に写したことでしょう。亡霊になりきった演技には迫真性が感じられます。
それにしてもこれらのポップなテーマタイトル。個々のキャプションにまで徹底しているから驚きです。かんざしをアクセサリーと読ませ、背徳をパンクとする。お気に入りのメンバーは推しメンとルビが振られます。もちろん乗るか乗らないかは個人の自由ですが、一度乗ってしまえば楽しいもの。江戸の文化を現代に引きつけて感じ取ることが出来ます。
とはいえ主役は浮世絵そのもの。国芳に強く惹かれた作品がありました。「和田合戦 義秀惣門押破」です。「吾妻鏡」の一場面、ともかく凄まじいのは惣門の描写です。ボキッと折れた門のかんぬき。へし折られたのでしょう。門はガラガラと割れては崩れ落ちます。さらにバラバラと瓦が降ってきました。武士たちは押しつぶされてしまいます。この動きにこの迫力。映像的としたら言い過ぎでしょうか。思わず手に汗を握ってしまいます。

歌川国芳「水瓶砕名誉顕図」 安政3(1856)年
William Sturgis Bigelow Collection, 11.38179a-c
Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston
国芳画の類稀な動的表現。もう一枚挙げるとしたら「水瓶砕名誉顕図」ではないでしょうか。舞台は戦国時代。主役は柴田勝家です。右からドドドと馬に乗って駆けてきました。敵陣への斬り込みです。右手に槍を持ち、左手で血の付いた刀を振り回します。恐れ慄く敵兵たち。驚かんばかりの怪力です。何と槍で敵が吹き飛ばされています。逆さになって宙に浮く武将。解説に「ストップモーション」という言葉がありました。言い得て妙です。確かに一瞬間の動きそのものを捉えています。

二幕目の八「当世艶姿考」(アデモード・スタイル) 展示風景
会場のラスト、二幕目の八、「当世艶姿考」のエリアのみ撮影が出来ました。ここに並ぶのは全て国貞。町家の女性や遊女を艶やかに描き出します。

歌川国貞「見立邯鄲」 文政13/天保元(1830)年 *拡大
「見立邯鄲」が絶品です。能をモチーフにした一枚。長い髪を垂らした女性が蝶を見遣っています。髪は洗いざらし。湿り気を帯びています。親指と人差し指で摘み挟んだ蝶。金物細工です。口元には笑みがこぼれています。そして透けた扇子も美しい。網目も精緻に描かれています。

なお撮影は期間限定、4月18日までです。また混雑時など主催者が判断により中止する場合もあるそうです。ご注意下さい。

歌川国貞「江戸町壱丁目 扇屋内 花扇」、「角町 大黒屋内 大淀」、「角町 大黒屋内 三輪山」 天保前期(1830-39)
なお今回のスケールでボストン美術館から国芳と国貞画を出すのは史上初めて。縦の組み物など見慣れない作品も少なくありません。さらに一度展示すると最低5年間はお蔵入りするそうです。その意味では貴重な機会と言えそうです。
タイミングよく平日の夕方に観覧してきました。そのせいか特に館内は混み合うこともなく、比較的スムーズに見ることが出来ました。

歌川国貞「八百屋お七」四代目市川小團次、「下女お杉」四代目尾上 菊五郎、「土佐衛門伝吉」初代河原崎権十郎 安政3(1856)年
William Sturgis Bigelow Collection, 11.22004a-b
Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston
ただ土日の昼間はかなり混雑しているそうです。一部時間帯には入場規制が行われています。金曜、土曜日の夜間開館も狙い目となりそうです。

「俺たちの国芳 わたしの国貞」会場出口(撮影可能エリア)
会期中は無休です。6月5日まで開催されています。
「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」 Bunkamura ザ・ミュージアム(@Bunkamura_info)
会期:3月19日(土)~6月5日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~19:00。
*毎週金・土は21時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学・高校生1000(800)円、中学・小学生700(500)円。
*( )内は20名以上の団体料金。要事前予約。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。
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