都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「カラヴァッジョ展」 国立西洋美術館
国立西洋美術館
「日伊国交樹立150周年記念 カラヴァッジョ展」
3/1~6/12
国立西洋美術館で開催中の「日伊国交樹立150周年記念 カラヴァッジョ展」のプレスプレビューに参加してきました。
イタリア・バロック絵画の巨匠、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571~1610)。国内での本格的な展覧会としては、2001年に東京都庭園美術館で行われた「カラヴァッジョ 光と影の巨匠」以来のことです。
世界に残るカラヴァッジョの真筆はおおよそ60点強。中には移動の困難な祭壇画も含まれます。2001年に来日した作品は全部で8点でした。
それを今回は上回ること11点。もちろん過去最多の作品数です。さらにカラヴァジェスキと呼ばれる継承者、また周辺の画家の作品も加わります。あわせて50点です。カラヴァッジョ、ないしはカラヴァジェスキの作品を相互に参照しながら、カラヴァッジョの切り開いた芸術世界や影響力を明らかにしていました。
右:ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「女占い師」 1597年 ローマ、カピトリーノ絵画館
最初の一枚はカラヴァッジョ。「女占い師」でした。画業初期では最大の作品、若い男女が描かれています。男の身形は立派です。裕福なのでしょう。幾分と間の抜けた表情で女を見据えています。一方の女は占い師です。左手で男の手を握ってはやや卑猥な笑みを浮かべています。手を添えているのは手相を見るため。ただし本当の目的は別です。男の指輪でした。つまり手相を見るふりをしながら指輪を抜き取ろうとしているわけです。その瞬間の光景をカラヴァッジョは切り取っています。
左:シモン・ヴーエ「女占い師」 1618-20年 フィレンツェ、ピッティ宮パラティーナ美術館
これと同じタイトルの作品がもう一枚あります。シモン・ヴーエの「女占い師」です。騙されるのはもちろん中央の男。情欲を露わにしているのでしょうか。歯を剥き出しにしています。左がジプシーの女。さらに右にはもう一人。老婆です。ある意味で彼女こそ実行犯。後ろから男に寄っては左手で財布を抜き取ろうとしています。このジプシーの女占い師のモチーフはカラヴァッジョが生み出したもの。カラヴァジェスキの中でも大いに流行しました。
身振りや表情によって人間の心理を巧みに表現するカラヴァッジョ。その一例が「トカゲに噛まれる少年」ではないでしょうか。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「トカゲに噛まれる少年」 1596-97年頃 フィレンツェ、ロベルト・ロンギ美術史財団
トカゲは右手中指の先です。確かに噛み付いています。驚いたのは少年です。眉間にしわを寄せ、咄嗟に口を開けています。あっと声をあげているのかもしれません。あまりにも痛さのゆえでしょうか。肩をビクッとあげては左手を振り上げています。トカゲの周囲の静物もリアル。筆は緻密です。ガラス瓶の縁には光の差し込む窓が写り込んでいました。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「果物籠を持つ少年」 1593-94年 ローマ、ボルゲーゼ美術館
その静物の写実表現がより昇華しているのが「果物籠を持つ少年」かもしれません。たくさん果物を盛った籠を持ってはポーズをとる少年。ブドウには透明感があり、リンゴには瑞々しさがあります。そして何と言っても籠の実在感。細かな目地は本物と見間違うほどです。少年はやや首を斜めにしては口を半開きにしていました。うっとりとしたかのような表情。どことない官能性を感じたのは私だけでしょうか。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「バッカス」 1597-98年頃 フィレンツェ、ウフィツィ美術館
甘く美しい男性表現もカラヴァッジョ画の魅力の一つです。「バッカス」はどうでしょうか。さも見る者に差し出すように杯を持つバッカス。ほろ酔いなのでしょう。頬は赤く、目はややとろんとしています。右半身をはだけては寛いだ姿で座っていました。前にはたくさんの果物があります。なかなか気が付きませんが、左のガラス瓶には画家本人の姿が僅かに描きこまれているそうです。また神を描きながらも爪が汚れているという指摘には興味深いものがありました。肉体としての実在感を優先したのかもしれません。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「エマオの晩餐」 1606年 ミラノ、ブレラ絵画館
カラヴァッジョは闇に光を与えた画家でもあります。「エマオの晩餐」です。新約聖書の有名なワンシーン。画家はこの場面を2回描いたそうです。本作は2作目です。当初の構想では左に窓がありましたが、あえて消し、暗く閉ざされた室内に置き換えました。手前のテーブルの上にはパン。乾ききっています。壺や食器も並びます。壺の向こうにはグラスが隠れるように置かれ、ワインが半分ほど注がれていました。中央のやや左にキリスト。まさに祝福する瞬間なのでしょうか。目を伏しては右手を上げています。ただしあまり大仰ではありません。晩年の静謐な画風を伝えてもいます。
右:ジャコモ・マッサ(?)「聖ヒエロニムス」 ローマ、バルベリーニ宮国立古典美術館
このカラヴァッジョの光は多くの追従する画家にインスピレーションを与えました。カラヴァジェスキらは様々な光を絵画に表現。ジャコモ・マッサの「聖ヒロエニムス」やラトゥールの「煙草を吸う男」も目を引くのではないでしょうか。ともに蝋燭を引用した夜の景色。それ明かりだけが画面を照らし出しています。
乱闘騒ぎを引き起こし、殺人事件を犯したカラヴァッジョ。とかく生前から素行が悪かったことでも知られ、勾留や投獄された経験も一度だけではありません。そうした画家の激しい性格を反映したと指摘されているのが斬首のモチーフです。好みの主題だったのでしょうか。斬首の場面を数多く描いています。そしてこれが後の画家にまた影響を与えました。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「メドゥーサ」 1597-98年頃 個人蔵
カラヴァッジョの「メドゥーサ」を筆頭にした「斬首」のセクションでは、ボルジャンニ、ヴーエ、そしてグエルチーノによる「ダヴィデとゴリアテ」の作品を比較して見ることも出来ます。うちボルシャンニの作は斬首そのものの場面を描いています。迸る血の飛沫。あまりにも生々しく、また痛々しい。図版はあげません。直視するのが阻まれるほどでした。
右:ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「洗礼者聖ヨハネ」 1602年 ローマ、コルシーニ宮国立古典美術館
ラストは聖人や聖母です。うち特に優美であるのが「洗礼者聖ヨハネ」でした。手を右についてはやや屈み、体をくねらせるようにして左の方向を見やります。左手元にあるのはおそらくは十字架。手にとって立ち上がろうとしているのかもしれません。背景は闇に包まれています。光に浮かび上がるやや白んだ肌。赤いマントとは対比的です。ただ胸元のみ仄かに赤い。ブロンドの髪の毛にはボリュームがあります。長い睫毛に隠れた目はあまり明らかではありません。特に左目は髪の毛に隠れていました。やや憂いを帯びたような表情です。中性的とも言えるのではないでしょうか。とかくポーズにも特徴がありますが、それは当時、ローマで発掘された古代彫刻に着想を得たとも考えられています。
真筆と確認されてから世界で初めての公開です。タイトルは「法悦のマグダラのマリア」。一目見ても非常に強い印象を与える作品ではないでしょうか。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「法悦のマグダラのマリア」 1606年 個人蔵
青白い顔色をしたマリア。焦げたような金色の髪をだらりと垂らしています。もはや失神しては、全てを失ったかのように反り返っています。僅かに開いた目は白目。半開きの口には歯が覗いています。背景はほぼ真っ暗闇ですが、目をこらすと草むらのようなモチーフが描かれていることに気がつきました。洞窟の開口部です。確かにぼんやりと明るい。さらに十字架も微かに表されています。
カラヴァッジョとフィレンツェ派の画家のチゴリの「エッケ・ホモ」の比較展示も見どころの一つです。2作はいわゆる競合作。というのも注文主は共に同じ人物。ローマの貴族、マッシモ・マッシミであるからです。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「エッケ・ホモ」 1605年頃 ジェノヴァ、ストラーダ・ヌオーヴァ美術館ビアンコ宮
マッシミは先にカラヴァッジョに「荊冠のキリスト」の対作として「エッケ・ホモ」の制作を依頼。一度、画家は完成させますが、マッシミは出来に満足せず、チゴリに同主題の作品を注文しました。
左:チゴリ「エッケ・ホモ」 1607年 フィレンツェ、ピッティ宮パラティーナ美術館
これはあくまでも推論だそうです。ただやや似た構図などにチゴリがカラヴァッジョ作を知っていた可能性はあるとも考えられています。チゴリ作がややドラマティックなのに対し、カラヴァッジョは物静かで穏やかでもありました。細身で半裸で立つキリスト。また伏し目がちです。何やら諦念に達しているようにも見えます。
「食堂でのアーティチョーク事件」 1604年 ローマ国立古文書館 ほか
ほか会場にはカラヴァッジョの激動の人生を伝える古文書などの資料も展示。彼の人となりも浮き上がらせていました。
世界の真筆のおおよそ6分の1が集まったカラヴァッジョ展。同時代や影響下の画家も丁寧に参照しています。少なくとも国内でこれを超える展覧会を望むのは難しいのではないでしょうか。さすがに充足感がありました。
先々週の日曜日に改めて出かけましたが、多少は賑わっていたものの、思ったよりは混雑していませんでした。
6月12日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。
「日伊国交樹立150周年記念 カラヴァッジョ展」 国立西洋美術館
会期:3月1日(火)~6月12日(日)
休館:月曜日。但し3月21日、3月28日、5月2日は開館。3月22日は休館。
時間:9:30~17:30
*毎週金曜日は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「日伊国交樹立150周年記念 カラヴァッジョ展」
3/1~6/12
国立西洋美術館で開催中の「日伊国交樹立150周年記念 カラヴァッジョ展」のプレスプレビューに参加してきました。
イタリア・バロック絵画の巨匠、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571~1610)。国内での本格的な展覧会としては、2001年に東京都庭園美術館で行われた「カラヴァッジョ 光と影の巨匠」以来のことです。
世界に残るカラヴァッジョの真筆はおおよそ60点強。中には移動の困難な祭壇画も含まれます。2001年に来日した作品は全部で8点でした。
それを今回は上回ること11点。もちろん過去最多の作品数です。さらにカラヴァジェスキと呼ばれる継承者、また周辺の画家の作品も加わります。あわせて50点です。カラヴァッジョ、ないしはカラヴァジェスキの作品を相互に参照しながら、カラヴァッジョの切り開いた芸術世界や影響力を明らかにしていました。
右:ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「女占い師」 1597年 ローマ、カピトリーノ絵画館
最初の一枚はカラヴァッジョ。「女占い師」でした。画業初期では最大の作品、若い男女が描かれています。男の身形は立派です。裕福なのでしょう。幾分と間の抜けた表情で女を見据えています。一方の女は占い師です。左手で男の手を握ってはやや卑猥な笑みを浮かべています。手を添えているのは手相を見るため。ただし本当の目的は別です。男の指輪でした。つまり手相を見るふりをしながら指輪を抜き取ろうとしているわけです。その瞬間の光景をカラヴァッジョは切り取っています。
左:シモン・ヴーエ「女占い師」 1618-20年 フィレンツェ、ピッティ宮パラティーナ美術館
これと同じタイトルの作品がもう一枚あります。シモン・ヴーエの「女占い師」です。騙されるのはもちろん中央の男。情欲を露わにしているのでしょうか。歯を剥き出しにしています。左がジプシーの女。さらに右にはもう一人。老婆です。ある意味で彼女こそ実行犯。後ろから男に寄っては左手で財布を抜き取ろうとしています。このジプシーの女占い師のモチーフはカラヴァッジョが生み出したもの。カラヴァジェスキの中でも大いに流行しました。
身振りや表情によって人間の心理を巧みに表現するカラヴァッジョ。その一例が「トカゲに噛まれる少年」ではないでしょうか。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「トカゲに噛まれる少年」 1596-97年頃 フィレンツェ、ロベルト・ロンギ美術史財団
トカゲは右手中指の先です。確かに噛み付いています。驚いたのは少年です。眉間にしわを寄せ、咄嗟に口を開けています。あっと声をあげているのかもしれません。あまりにも痛さのゆえでしょうか。肩をビクッとあげては左手を振り上げています。トカゲの周囲の静物もリアル。筆は緻密です。ガラス瓶の縁には光の差し込む窓が写り込んでいました。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「果物籠を持つ少年」 1593-94年 ローマ、ボルゲーゼ美術館
その静物の写実表現がより昇華しているのが「果物籠を持つ少年」かもしれません。たくさん果物を盛った籠を持ってはポーズをとる少年。ブドウには透明感があり、リンゴには瑞々しさがあります。そして何と言っても籠の実在感。細かな目地は本物と見間違うほどです。少年はやや首を斜めにしては口を半開きにしていました。うっとりとしたかのような表情。どことない官能性を感じたのは私だけでしょうか。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「バッカス」 1597-98年頃 フィレンツェ、ウフィツィ美術館
甘く美しい男性表現もカラヴァッジョ画の魅力の一つです。「バッカス」はどうでしょうか。さも見る者に差し出すように杯を持つバッカス。ほろ酔いなのでしょう。頬は赤く、目はややとろんとしています。右半身をはだけては寛いだ姿で座っていました。前にはたくさんの果物があります。なかなか気が付きませんが、左のガラス瓶には画家本人の姿が僅かに描きこまれているそうです。また神を描きながらも爪が汚れているという指摘には興味深いものがありました。肉体としての実在感を優先したのかもしれません。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「エマオの晩餐」 1606年 ミラノ、ブレラ絵画館
カラヴァッジョは闇に光を与えた画家でもあります。「エマオの晩餐」です。新約聖書の有名なワンシーン。画家はこの場面を2回描いたそうです。本作は2作目です。当初の構想では左に窓がありましたが、あえて消し、暗く閉ざされた室内に置き換えました。手前のテーブルの上にはパン。乾ききっています。壺や食器も並びます。壺の向こうにはグラスが隠れるように置かれ、ワインが半分ほど注がれていました。中央のやや左にキリスト。まさに祝福する瞬間なのでしょうか。目を伏しては右手を上げています。ただしあまり大仰ではありません。晩年の静謐な画風を伝えてもいます。
右:ジャコモ・マッサ(?)「聖ヒエロニムス」 ローマ、バルベリーニ宮国立古典美術館
このカラヴァッジョの光は多くの追従する画家にインスピレーションを与えました。カラヴァジェスキらは様々な光を絵画に表現。ジャコモ・マッサの「聖ヒロエニムス」やラトゥールの「煙草を吸う男」も目を引くのではないでしょうか。ともに蝋燭を引用した夜の景色。それ明かりだけが画面を照らし出しています。
乱闘騒ぎを引き起こし、殺人事件を犯したカラヴァッジョ。とかく生前から素行が悪かったことでも知られ、勾留や投獄された経験も一度だけではありません。そうした画家の激しい性格を反映したと指摘されているのが斬首のモチーフです。好みの主題だったのでしょうか。斬首の場面を数多く描いています。そしてこれが後の画家にまた影響を与えました。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「メドゥーサ」 1597-98年頃 個人蔵
カラヴァッジョの「メドゥーサ」を筆頭にした「斬首」のセクションでは、ボルジャンニ、ヴーエ、そしてグエルチーノによる「ダヴィデとゴリアテ」の作品を比較して見ることも出来ます。うちボルシャンニの作は斬首そのものの場面を描いています。迸る血の飛沫。あまりにも生々しく、また痛々しい。図版はあげません。直視するのが阻まれるほどでした。
右:ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「洗礼者聖ヨハネ」 1602年 ローマ、コルシーニ宮国立古典美術館
ラストは聖人や聖母です。うち特に優美であるのが「洗礼者聖ヨハネ」でした。手を右についてはやや屈み、体をくねらせるようにして左の方向を見やります。左手元にあるのはおそらくは十字架。手にとって立ち上がろうとしているのかもしれません。背景は闇に包まれています。光に浮かび上がるやや白んだ肌。赤いマントとは対比的です。ただ胸元のみ仄かに赤い。ブロンドの髪の毛にはボリュームがあります。長い睫毛に隠れた目はあまり明らかではありません。特に左目は髪の毛に隠れていました。やや憂いを帯びたような表情です。中性的とも言えるのではないでしょうか。とかくポーズにも特徴がありますが、それは当時、ローマで発掘された古代彫刻に着想を得たとも考えられています。
真筆と確認されてから世界で初めての公開です。タイトルは「法悦のマグダラのマリア」。一目見ても非常に強い印象を与える作品ではないでしょうか。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「法悦のマグダラのマリア」 1606年 個人蔵
青白い顔色をしたマリア。焦げたような金色の髪をだらりと垂らしています。もはや失神しては、全てを失ったかのように反り返っています。僅かに開いた目は白目。半開きの口には歯が覗いています。背景はほぼ真っ暗闇ですが、目をこらすと草むらのようなモチーフが描かれていることに気がつきました。洞窟の開口部です。確かにぼんやりと明るい。さらに十字架も微かに表されています。
カラヴァッジョとフィレンツェ派の画家のチゴリの「エッケ・ホモ」の比較展示も見どころの一つです。2作はいわゆる競合作。というのも注文主は共に同じ人物。ローマの貴族、マッシモ・マッシミであるからです。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「エッケ・ホモ」 1605年頃 ジェノヴァ、ストラーダ・ヌオーヴァ美術館ビアンコ宮
マッシミは先にカラヴァッジョに「荊冠のキリスト」の対作として「エッケ・ホモ」の制作を依頼。一度、画家は完成させますが、マッシミは出来に満足せず、チゴリに同主題の作品を注文しました。
左:チゴリ「エッケ・ホモ」 1607年 フィレンツェ、ピッティ宮パラティーナ美術館
これはあくまでも推論だそうです。ただやや似た構図などにチゴリがカラヴァッジョ作を知っていた可能性はあるとも考えられています。チゴリ作がややドラマティックなのに対し、カラヴァッジョは物静かで穏やかでもありました。細身で半裸で立つキリスト。また伏し目がちです。何やら諦念に達しているようにも見えます。
「食堂でのアーティチョーク事件」 1604年 ローマ国立古文書館 ほか
ほか会場にはカラヴァッジョの激動の人生を伝える古文書などの資料も展示。彼の人となりも浮き上がらせていました。
世界の真筆のおおよそ6分の1が集まったカラヴァッジョ展。同時代や影響下の画家も丁寧に参照しています。少なくとも国内でこれを超える展覧会を望むのは難しいのではないでしょうか。さすがに充足感がありました。
先々週の日曜日に改めて出かけましたが、多少は賑わっていたものの、思ったよりは混雑していませんでした。
6月12日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。
「日伊国交樹立150周年記念 カラヴァッジョ展」 国立西洋美術館
会期:3月1日(火)~6月12日(日)
休館:月曜日。但し3月21日、3月28日、5月2日は開館。3月22日は休館。
時間:9:30~17:30
*毎週金曜日は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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