都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」 埼玉県立近代美術館
埼玉県立近代美術館
「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」
4/5~5/22
埼玉県立近代美術館で開催中の「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」を見てきました。
おそらくは遊具の上に乗ってはポーズをとる3人の子供たち。時に大きく胸を張っては、まるで飛行機が編隊を組むかのような姿を見せています。
表情は笑顔で楽しそうです。どこか親密な気配、ないしは満たされた幸福、愉悦感が伝わってはこないでしょうか。
モデルの一人は写真家の長男のダニ。その友達との光景です。場所はカンヌ。旅先でした。ジャック=アンリ・ラルティーグ(1894~1986)は、一生涯に渡って、自らの人生と家族との時間を写真におさめました。
ラルティーグの生まれはフランスのクールブヴォア。大変に裕福な家庭に育ったそうです。技術者でもあった父の趣味は写真です。ラルティーグにも7歳の時にカメラが与えられます。以来、彼は毎日のように写真を撮影。身近な日常を記録していきます。
ジャック=アンリ・ラルティーグ「ぼく、ポン・ド・ラルシュ(パパ撮影)」 1903年
10歳の時にカメラを新調したラルティーグは「動き」を捉えることに関心があったそうです。身近なところでは人のジャンプです。家族や友人らが階段から飛び降りる瞬間を撮影しています。
ジャック=アンリ・ラルティーグ「レーシングカー「ドラージュ」、A.C.F.グランプリ、ル・トレポー」 1912年6月26日
それこそお金持ちのラルティーグ家、「動き」も身近な人のジャンプだけにとどまりません。まずは自動車です。フランスは世界で初めて自動車競技が行われた国でもあります。ラルティーグもレースに出かけては疾走するレーシングカーを捉えました。
さらには飛行機までが登場します。ちょうどライト兄弟が動力飛行に成功した頃です。ラルティーグも兄が自作の飛行機を飛ばす様子を写しています。
写真はいわば日記と化していきました。彼の70年に渡る人生おいて生み出された記録は1万ページ。アルバムにして135冊と膨大です。そこには写真だけでなく、日付、天気、場所、人物、さらにはカメラの種類なども細かに記しています。かなりマメです。
ラルティーグ自身はいわゆるアマチュアのカメラマン。写真を売って生活していたわけでもなく、専門的な教育を受けたわけではありません。むしろ画家として活動していたそうです。それゆえに芸術家との交流も少なくありません。パリに出かけては当時の最先端のファッションを写したりもしました。
ジャック=アンリ・ラルティーグ「スージー・ヴェルノン、ロワイヤン」 1926年9月
「スージー・ヴェルノン、ロワイヤン」こそ、タイトルの「幸せの瞬間」を体現する作品ではないでしょうか。海岸線、砂浜の上です。水着姿の女性が両手両足をあげてはジャンプしています。そこに駆け寄るのは一匹の犬。ペットかもしれません。尻尾を振っています。構成にも妙がありました。というのも影がちょうど砂に浸る水に写り込んでいます。地面を境にして上下対称になっていました。
人生の記録とは成長の証でもあります。先に登場した息子のダニ。いつの間にか大きくなっては父親としても登場します。抱きよせるのは幼子。ラルティーグの孫です。幸せそうに眠っています。ダニは満面の笑みを見せていました。
全部で11万点にも及ぶ写真のうち3分の1近くはカラー作品です。元々、1920年代にオートクロームと呼ばれるカラー技法にチャレンジしますが、うまく「動きを捉えられなかった」(キャプションより)ため、一度離脱。再び戦後になってカラー写真を手がけるようになりました。
ジャック=アンリ・ラルティーグ「フロレット、ヴァンス」 1954年
これら戦後のカラー作品の大半は日本初公開だそうです。モチーフ自体は家族の姿や旅先の風景と変わりませんが、時に色のコントラストを強調した作品は、モノクロとは異なった魅力が感じられます。どこかInstagramの写真を連想したのは私だけでしょうか。鮮やかな色彩が目に焼きつきました。
ラルティーグが写真家として世に知られるようになったのは1960年代です。アメリカへ旅した彼はMoMAのキュレーターと出会います。よほど強い印象を与えたのでしょう。1963年には同館でデビュー。さらにライフ誌上でも特集が組まれます。折しもケネディ大統領の暗殺を報じた号でした。そういうこともあってか大いに話題となったそうです。
展示では彼の日記などの資料をはじめ、制作した無声映画、さらには日本での受容などにも言及しています。写真作品も160点。回顧展とするのに不足はありませんでした。
2度の大戦を経験したラルティーグ。もちろん実情は不明とはいえ、ごく一部の写真を除けば不穏な空気は殆ど感じられません。まさに天真爛漫。幸せの記録集です。ともかくもう写真が好きで好きで仕方がない。そんな写真家自身の楽しみが伝わってくるような展覧会でした。
5月22日まで開催されています。
「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:4月5日 (火) ~ 5月22日 (日)
休館:月曜日。但し5月2日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大高生800(640)円、中学生以下は無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」
4/5~5/22
埼玉県立近代美術館で開催中の「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」を見てきました。
おそらくは遊具の上に乗ってはポーズをとる3人の子供たち。時に大きく胸を張っては、まるで飛行機が編隊を組むかのような姿を見せています。
表情は笑顔で楽しそうです。どこか親密な気配、ないしは満たされた幸福、愉悦感が伝わってはこないでしょうか。
モデルの一人は写真家の長男のダニ。その友達との光景です。場所はカンヌ。旅先でした。ジャック=アンリ・ラルティーグ(1894~1986)は、一生涯に渡って、自らの人生と家族との時間を写真におさめました。
ラルティーグの生まれはフランスのクールブヴォア。大変に裕福な家庭に育ったそうです。技術者でもあった父の趣味は写真です。ラルティーグにも7歳の時にカメラが与えられます。以来、彼は毎日のように写真を撮影。身近な日常を記録していきます。
ジャック=アンリ・ラルティーグ「ぼく、ポン・ド・ラルシュ(パパ撮影)」 1903年
10歳の時にカメラを新調したラルティーグは「動き」を捉えることに関心があったそうです。身近なところでは人のジャンプです。家族や友人らが階段から飛び降りる瞬間を撮影しています。
ジャック=アンリ・ラルティーグ「レーシングカー「ドラージュ」、A.C.F.グランプリ、ル・トレポー」 1912年6月26日
それこそお金持ちのラルティーグ家、「動き」も身近な人のジャンプだけにとどまりません。まずは自動車です。フランスは世界で初めて自動車競技が行われた国でもあります。ラルティーグもレースに出かけては疾走するレーシングカーを捉えました。
さらには飛行機までが登場します。ちょうどライト兄弟が動力飛行に成功した頃です。ラルティーグも兄が自作の飛行機を飛ばす様子を写しています。
写真はいわば日記と化していきました。彼の70年に渡る人生おいて生み出された記録は1万ページ。アルバムにして135冊と膨大です。そこには写真だけでなく、日付、天気、場所、人物、さらにはカメラの種類なども細かに記しています。かなりマメです。
ラルティーグ自身はいわゆるアマチュアのカメラマン。写真を売って生活していたわけでもなく、専門的な教育を受けたわけではありません。むしろ画家として活動していたそうです。それゆえに芸術家との交流も少なくありません。パリに出かけては当時の最先端のファッションを写したりもしました。
ジャック=アンリ・ラルティーグ「スージー・ヴェルノン、ロワイヤン」 1926年9月
「スージー・ヴェルノン、ロワイヤン」こそ、タイトルの「幸せの瞬間」を体現する作品ではないでしょうか。海岸線、砂浜の上です。水着姿の女性が両手両足をあげてはジャンプしています。そこに駆け寄るのは一匹の犬。ペットかもしれません。尻尾を振っています。構成にも妙がありました。というのも影がちょうど砂に浸る水に写り込んでいます。地面を境にして上下対称になっていました。
人生の記録とは成長の証でもあります。先に登場した息子のダニ。いつの間にか大きくなっては父親としても登場します。抱きよせるのは幼子。ラルティーグの孫です。幸せそうに眠っています。ダニは満面の笑みを見せていました。
全部で11万点にも及ぶ写真のうち3分の1近くはカラー作品です。元々、1920年代にオートクロームと呼ばれるカラー技法にチャレンジしますが、うまく「動きを捉えられなかった」(キャプションより)ため、一度離脱。再び戦後になってカラー写真を手がけるようになりました。
ジャック=アンリ・ラルティーグ「フロレット、ヴァンス」 1954年
これら戦後のカラー作品の大半は日本初公開だそうです。モチーフ自体は家族の姿や旅先の風景と変わりませんが、時に色のコントラストを強調した作品は、モノクロとは異なった魅力が感じられます。どこかInstagramの写真を連想したのは私だけでしょうか。鮮やかな色彩が目に焼きつきました。
ラルティーグが写真家として世に知られるようになったのは1960年代です。アメリカへ旅した彼はMoMAのキュレーターと出会います。よほど強い印象を与えたのでしょう。1963年には同館でデビュー。さらにライフ誌上でも特集が組まれます。折しもケネディ大統領の暗殺を報じた号でした。そういうこともあってか大いに話題となったそうです。
展示では彼の日記などの資料をはじめ、制作した無声映画、さらには日本での受容などにも言及しています。写真作品も160点。回顧展とするのに不足はありませんでした。
2度の大戦を経験したラルティーグ。もちろん実情は不明とはいえ、ごく一部の写真を除けば不穏な空気は殆ど感じられません。まさに天真爛漫。幸せの記録集です。ともかくもう写真が好きで好きで仕方がない。そんな写真家自身の楽しみが伝わってくるような展覧会でした。
5月22日まで開催されています。
「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:4月5日 (火) ~ 5月22日 (日)
休館:月曜日。但し5月2日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大高生800(640)円、中学生以下は無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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