都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「野生展」 21_21 DESIGN SIGHT
21_21 DESIGN SIGHT
「野生展:飼いならされない感覚と思考」
2017/10/20〜2018/2/4

人類学者の中沢新一が、「野生の発見方法を紐解く」(公式サイトより)というユニークな展覧会が、21_21 DESIGN SIGHTにて開催されています。
それにしても、美術はともかく、デザインとはあまり近しいとは思えない野生を、一体、どのような方法で紹介していたのでしょうか。

「丸石神」 *写真:遠山孝之
いきなり現れるのが石でした。縄文時代に遡るとされる丸石神を模した作品で、川を流れ下りながら、自然に丸く造形された石に、人々は神聖なものが宿るとして祀っていました。いずれもが記紀神話の神社よりも古く、まさに太古の野生的な神の体現とも言えるのかもしれません。現在では、山梨県の笛吹川沿いに多く見られるそうです。

aircord「Finding Perceptions」
続くのは一転、何ともアクティブな映像インスタレーションでした。光やテクノロジーを用いて表現を行うクリエイティヴスタジオ、「aircord」による作品で、脳の未開拓の部分の可視化することに挑戦しています。一面に広がるのが神経細胞のネットワークで、カメラが来場者を発見すると、その間に電気信号を伝えるかのごとく、映像が反映し、リアルタイムで変化し続けました。つまり鑑賞者も作品の一部と化しています。

「南方熊楠が使っていた実験道具」/青木美歌「あなたに続く歌」
この作品の背景にあるのが、明治時代の博物学者、南方熊楠の思想でした。南方は、脳に野生状態を取り戻すと「脳力」が高まり、それまで見えなかった物事の本来的な結びつきが、直感的に分かると考えていたそうです。また脳内の組織が、因果的な様式から、縁起的なネットワークへと転換するとも主張しました。俄かには理解しにくいかもしれませんが、そうしたネットワーク的展開こそ、常識などの因果に囚われず、より新しい発見なり発明がなされると説いていたようです。

「遮光器土偶」(レプリカ) *レプリカ制作:伊澤孝臣
かわいいも野生を表す一つのキーワードです。中沢は、古くから日本人は野生を表現すると、かわいく造形する傾向があると指摘しています。一例が、太古の土偶や埴輪です。さらに時代を超えて鳥獣戯画などから、現代のキャラクターまでを参照し、日本人が見出してきたかわいいの系譜を追っていました。

「郷土玩具」 協力:明治大学野生の科学研究所
さらに身近な野生として、木彫の人形や郷土玩具なども並べていました。確かに郷土玩具には、土地特有の信仰なども反映されています。そこに原初的な野生味を見出せるのかもしれません。

田島征三「獣の遠吠え」
私が直感的に野生的と感じたのが、田島征三の「獣の遠吠え」と題したインスタレーションでした。たくさんのキャンバスの上には茶色の細長い物体が付着し、何やら嵐を示すかのようにとぐろを巻いていますが、実際にはモクレンの木から落ちてきた実を用い、力強く吠える獣の声を表現しています。迫力は十分でした。

「メンディドール」(パプアニューギニア)
端的にプリミティブなのが、オセアニアからアフリカの仮面でした。またパプアニューギニアのメンディドールも目を引きます。呪術的な要素も感じられました。

「石見神楽・大蛇」ほか 西村裕介
さらに民俗芸能も野生の一側面として捉えています。いずれも西村裕介による写真で、東日本大震災後、被災者を供養するために舞う芸能団体の姿に触発され、一連の作品を撮り始めました。黄金色の仮面に赤々しい龍などは、日本の地方に根付いた土着的な文化の現れかもしれません。

青木美歌「あなたに続く歌」
現代美術では、菌類や微生物をガラスで象る、青木美歌の作品が印象に残りました。ともかく振り幅の広い展覧会です。テーマは野生と簡潔ながらも、内容は多岐にわたっていました。
どれほどまでに内容へ踏み込めたかどうか自信はありませんが、そもそも「野生」という価値観について再考を促すような展示なのかもしれません。ディレクターの中沢の思想が色濃く反映されていて、独特の切り口には、率直なところ、戸惑いを覚えましたが、事前に著作に触れておくと、理解も深まるのかもしれません。

「野生展」会場風景
ロングランの展覧会です。2018年2月4日まで開催されています。
「野生展:飼いならされない感覚と思考」 21_21 DESIGN SIGHT(@2121DESIGNSIGHT)
会期:2017年10月20日(金)〜2018年2月4日(日)
休館:火曜日。年末年始(12月26日〜1月3日)。
時間:11:00~19:00
*入場は閉場の30分前まで。
料金:一般1100円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料。
*15名以上は各200円引。
住所:港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
交通:都営地下鉄大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅、及び東京メトロ千代田線乃木坂駅より徒歩5分。
「野生展:飼いならされない感覚と思考」
2017/10/20〜2018/2/4

人類学者の中沢新一が、「野生の発見方法を紐解く」(公式サイトより)というユニークな展覧会が、21_21 DESIGN SIGHTにて開催されています。
それにしても、美術はともかく、デザインとはあまり近しいとは思えない野生を、一体、どのような方法で紹介していたのでしょうか。

「丸石神」 *写真:遠山孝之
いきなり現れるのが石でした。縄文時代に遡るとされる丸石神を模した作品で、川を流れ下りながら、自然に丸く造形された石に、人々は神聖なものが宿るとして祀っていました。いずれもが記紀神話の神社よりも古く、まさに太古の野生的な神の体現とも言えるのかもしれません。現在では、山梨県の笛吹川沿いに多く見られるそうです。

aircord「Finding Perceptions」
続くのは一転、何ともアクティブな映像インスタレーションでした。光やテクノロジーを用いて表現を行うクリエイティヴスタジオ、「aircord」による作品で、脳の未開拓の部分の可視化することに挑戦しています。一面に広がるのが神経細胞のネットワークで、カメラが来場者を発見すると、その間に電気信号を伝えるかのごとく、映像が反映し、リアルタイムで変化し続けました。つまり鑑賞者も作品の一部と化しています。

「南方熊楠が使っていた実験道具」/青木美歌「あなたに続く歌」
この作品の背景にあるのが、明治時代の博物学者、南方熊楠の思想でした。南方は、脳に野生状態を取り戻すと「脳力」が高まり、それまで見えなかった物事の本来的な結びつきが、直感的に分かると考えていたそうです。また脳内の組織が、因果的な様式から、縁起的なネットワークへと転換するとも主張しました。俄かには理解しにくいかもしれませんが、そうしたネットワーク的展開こそ、常識などの因果に囚われず、より新しい発見なり発明がなされると説いていたようです。

「遮光器土偶」(レプリカ) *レプリカ制作:伊澤孝臣
かわいいも野生を表す一つのキーワードです。中沢は、古くから日本人は野生を表現すると、かわいく造形する傾向があると指摘しています。一例が、太古の土偶や埴輪です。さらに時代を超えて鳥獣戯画などから、現代のキャラクターまでを参照し、日本人が見出してきたかわいいの系譜を追っていました。

「郷土玩具」 協力:明治大学野生の科学研究所
さらに身近な野生として、木彫の人形や郷土玩具なども並べていました。確かに郷土玩具には、土地特有の信仰なども反映されています。そこに原初的な野生味を見出せるのかもしれません。

田島征三「獣の遠吠え」
私が直感的に野生的と感じたのが、田島征三の「獣の遠吠え」と題したインスタレーションでした。たくさんのキャンバスの上には茶色の細長い物体が付着し、何やら嵐を示すかのようにとぐろを巻いていますが、実際にはモクレンの木から落ちてきた実を用い、力強く吠える獣の声を表現しています。迫力は十分でした。

「メンディドール」(パプアニューギニア)
端的にプリミティブなのが、オセアニアからアフリカの仮面でした。またパプアニューギニアのメンディドールも目を引きます。呪術的な要素も感じられました。

「石見神楽・大蛇」ほか 西村裕介
さらに民俗芸能も野生の一側面として捉えています。いずれも西村裕介による写真で、東日本大震災後、被災者を供養するために舞う芸能団体の姿に触発され、一連の作品を撮り始めました。黄金色の仮面に赤々しい龍などは、日本の地方に根付いた土着的な文化の現れかもしれません。

青木美歌「あなたに続く歌」
現代美術では、菌類や微生物をガラスで象る、青木美歌の作品が印象に残りました。ともかく振り幅の広い展覧会です。テーマは野生と簡潔ながらも、内容は多岐にわたっていました。
現在行われている「野生展」は、私たちの「野生」が、デザインにどう影響しているのかを探る展覧会。中沢新一さんは人類学的な見地から、原初的な造形感覚に注目。会場をめぐりながらじっくりと聞いてみましょう。https://t.co/nJ3UqzWNVQ pic.twitter.com/LxQS5qPEP4
— Pen Magazine (@Pen_magazine) 2017年11月16日
どれほどまでに内容へ踏み込めたかどうか自信はありませんが、そもそも「野生」という価値観について再考を促すような展示なのかもしれません。ディレクターの中沢の思想が色濃く反映されていて、独特の切り口には、率直なところ、戸惑いを覚えましたが、事前に著作に触れておくと、理解も深まるのかもしれません。

「野生展」会場風景
ロングランの展覧会です。2018年2月4日まで開催されています。
「野生展:飼いならされない感覚と思考」 21_21 DESIGN SIGHT(@2121DESIGNSIGHT)
会期:2017年10月20日(金)〜2018年2月4日(日)
休館:火曜日。年末年始(12月26日〜1月3日)。
時間:11:00~19:00
*入場は閉場の30分前まで。
料金:一般1100円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料。
*15名以上は各200円引。
住所:港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
交通:都営地下鉄大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅、及び東京メトロ千代田線乃木坂駅より徒歩5分。
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