「特別展 三国志」 東京国立博物館・平成館

東京国立博物館・平成館
「特別展 三国志」
2019/7/9~9/16



東京国立博物館・平成館で開催中の「特別展 三国志」を見てきました。

2世紀末の中国において、後漢の勢力が衰えると、多くの武将が覇権を得るべく戦いを繰り広げ、魏、蜀、呉が天下を分かつ三国時代へと入りました。そして三国時代の動向は、正史「三国志」や小説の「三国志演義」などに著され、特に後者は中国のみならず、日本でも長らく親しまれてきました。

その三国志に関する文化財が中国から海を越えてやって来ました。出展数は162件に及び、うち同国で特に貴重な有形文化財として位置付けられる1級文物が、42件ほど含まれていました。


「関羽像」 明時代・15〜16世紀 新郷市博物館

まずは三国志の英雄、チラシ表紙も飾った「関羽像」が威容を放っていました。三国志において最も神格化された関羽の明時代の像で、甲冑に身を包み、太い左足を前に出しては、厳しい表情で座る姿をブロンズで象っていました。長い髭がトレードマークでもあり、美髭公とも称された関羽ですが、同像においては殊更に髭を強調することもなく、いわば有り体に武将の姿を捉えていました。


「関帝廟壁画」 清時代・18世紀 内蒙古博物院

その関羽を祀る関帝廟の壁画も目を引きました。内モンゴル自治区のフフホト市の寺に伝来する清時代の作品で、盟友の劉備や張飛らと黄巾の軍を打ち破る姿や、関羽が兵書を読む場面などを描いていました。各場面の表現は稚拙味もあり、素朴絵のような味わいも感じられました。


横山光輝「三国志」原画 新書判第1巻「桃園の誓い」

さて今回の三国志展において、中国に由来する文化財の他に、展示構成上、重要な意味を持つ作品がありました。それが横山光輝の漫画「三国志」の原画と、昭和57年より3年間、NHKで放送された「人形劇 三国志」で使われた人形でした。


右:「曹操」、左:「劉備」 飯田市川本喜八郎人形美術館 *NHK「人形劇 三国志」より

これらが基本的に各章の冒頭に配されていて、三国志の大まかなあらすじを紹介するとともに、曹操、劉備、孫権をはじめ、関羽、諸葛亮、曹丕、甘寧らの人形を通して、それぞれの英雄の略歴なり概要について学べるようになっていました。もちろん事前に演義などの内容を踏まえておくに越したことはありませんが、たとえ三国志を知らずとも極力楽しめるように工夫されていました。


「儀仗俑」 後漢時代・2〜3世紀 甘粛省博物館

2世紀から3世紀にかけての後漢、三国時代の考古遺物も多く出展されていました。「儀仗俑」は、現在の甘粛省、つまり後漢時代の涼州に当たる張将軍と呼ばれる有力者の墓に副葬された品で、後漢末期に宮廷の権力を握った董卓も同じ涼州出身であることから、董卓の部下であったとの指摘もなされています。


「儀仗俑」 後漢時代・2〜3世紀 甘粛省博物館

粛々と長い隊列を組む光景が再現されていましたが、異様なまでに口を大きく上げては鳴き叫ぶような馬の造形も面白いかもしれません。


1級文物「多層灯」 後漢時代・2世紀 涿州市博物館

「多層灯」も同じく後漢時代の副葬品でした。死後の世界を照らすため土製の灯りで、4つの部品を積み重ねつつ、各段にひとや動物、樹木などの像がつけられていました。同時代の副葬品の灯りとしては、かなり複雑に作られていると言われています。


「環頭太刀」 後漢〜三国時代(蜀)・3世紀 綿陽市博物館

後漢から三国時代の武器も見逃せません。火薬のない当時の主要な武器は、剣、刀、槍と弓で、城の攻防戦では、石を飛ばす投石機も用いられました。また鉄製が鎧も普及しつつありましたが、革製も用いられていました。


1級文物「弩」 三国時代(呉)・黄武元(222)年 湖北省博物館

「弩」は、弩機に木臂と呼ばれる部分がともに残った珍しい資料で、呉の年号、黄武元年が記されていました。いわゆるクロスボウでもある弩は、弓に比べて矢のスピードも早く、重いために、殺傷力が強く、戦いで重要な役割を果たしました。なお呉の武器は、年号や所有者などを刻むのも特徴であるそうです。

今から約1800年前もの古い時代ゆえに、明らかでないことも多く、なかなか三国の特色を定めるのは難しいかもしれませんが、魏、蜀、呉の各地より出土した文物を比べるのも興味深いのではないでしょうか。


右:「舞踏俑」 後漢〜三国時代(蜀)・2〜3世紀 四川博物院
左:「舞踏俑」 後漢〜三国時代(蜀)・2〜3世紀 重慶中国三峡博物館

うち現在の四川省に位置する蜀は、物産が豊富で、天険にも囲まれていたことから、地域色の濃い文化が花開きました。中でも目立つのは、実に豊かでコミカルな表情をした俑で、琴を弾いたり、踊ったりする人の姿を生き生きと象っていました。


「ガラス連珠」 後漢時代・1〜3世紀 広西壮族自治区博物館 他

一方で長江下流地帯に拠点を置いた呉は、高い造船技術によって、域内に留まらず、東南アジアや南アジアなどの地域とも交流していました。そのうち現在の広東省、江西省などにまたがる交州は、呉に服従すると、当主の孫権へガラス製品などを献納しました。


右:1級文物「神亭壺」 三国時代(呉)・鳳凰元(272)年 南京市博物総館

この他、呉では東晋にかけて焼かれた器、「神亭壺」も目を引きました。壺上に楼閣や家畜や人物などを象っていて、銘より孫権の父、孫堅も務めた長沙太守に因む作品とも言われています。


曹操高陵内部(パネル展示)

展覧会のハイライトであるのが、2008年から翌年にかけ、河南省安陽市で発掘された曹操墓、すなわち曹操高陵の再現展示でした。


1級文物「罐」 後漢〜三国時代(魏)・3世紀 河南省文物考古研究院

ここでは陵墓の空間を擬似的に築いていて、本来は6世紀末の隋が起源とされるものの、300年も前の墓より出土した「罐」と呼ばれる白磁を展示していました。これを一部の研究では、3世紀の後漢末期、現在の湖南省で短い間作られた「原始白磁」だとしていて、6世紀以降の白磁とは焼成工程や造形が異なると考えているそうです。湖南省は三国時代に呉の領域であるため、何らかの形で魏へ渡ったのかもしれません。


1級文物「石牌」 後漢〜三国時代(魏)・3世紀 河南省文物考古研究院

また曹操高陵を特定するに至った「石牌」も重要な資料で、小さな板には曹操を示す「魏武王」の文字が確かに刻まれていました。なお曹操は遺言に際して、葬儀を出来るだけ簡略化することを命じたゆえか、後漢の王や上流層の墓から出土する金細工もなく、概ね質素な副葬品しか残されませんでした。政治と軍事の双方に長け、常に人と時局を冷静に見極めた曹操ならではのエピソードとも言えるかもしれません。


「虎形棺座」 三国時代(呉)・3世紀 南京市博物総館

ラストは蜀や呉の墓からの副葬品、ないし三国時代終焉へのプロセスに関する展示でした。155年に曹操が生まれ、黄巾の乱以降の群雄割拠の時代が続き、魏、蜀、呉と建国して争った三国でしたが、結果的には280年、魏より禅譲を受けた司馬炎の西晋により統一されました。


「墓門」 後漢時代・2世紀 四川博物院

キャッチコピーに「リアル三国志」との言葉もありましたが、あながち誇張ではないかもしれません。ともすると見過ごしてしまいそうな何気ない考古資料が、三国志のストーリーに沿うと、俄然に身近で親しみやすくなり、いわば雄弁に語り出すように思えてなりませんでした。



最後に会場内の状況です。私は7月26日(金)、ちょうど夏のビアガーデンイベント、「トーハクBEER NIGHT!」の行われた日の夕方に行ってきました。まだ日の明るい17時頃に平成館前に到着しましたが、待機列は皆無で、場内もほぼスムーズに流れていました。どの展示も好きなペースで見られました。

現在のところ、会期早々の7月14日(日)に最大で20分の入館の待ち時間が発生しましたが、それ以外は特に規制は行われていません。


とはいえ、土日の昼間の時間帯は混み合っているそうです。既に夏休みの期間にも入りました。当面は金曜、土曜日の夜間開館(21時まで)が有用となりそうです。


「諸葛亮」 飯田市川本喜八郎人形美術館 *NHK「人形劇 三国志」より

会場内、映像展示以外は、全ての作品と資料の撮影が可能でした。(フラッシュ、自撮り棒、三脚、動画は不可。)ただし混雑時は中止される場合もあります。

9月16日まで開催されています。なお東京展終了後、九州国立博物館へと巡回(2019/10/1〜2020/1/5)します。

「特別展 三国志」@sangokushi2019) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:2019年7月9日(火)~9月16日(月)
時間:9:30~17:00。
 *毎週金・土曜は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。7月16日(火)。ただし7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)は開館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生900(600)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
 *本展観覧券で、会期中観覧日当日1回に限り、総合文化展(平常展)も観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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