「みんなのミュシャ」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム
「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ─線の魔術」
2019/7/13~9/29



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ─線の魔術」を見てきました。

アール・ヌーヴォーを代表するチェコの美術家、アルフォンス・ミュシャ(1860〜1939)は、グラフィックなポスターでも人気を集め、日本や西洋を問わず、後世のデザイナーや漫画家に多くの影響を与えました。

そうした影響関係を追ったのが「みんなのミュシャ」で、ミュシャのポスターや装飾パネルを発端に、1960年から70年代の英米のレコード・ジャケットやアメリカンコミック、はたまた日本の明治の文芸雑誌の挿絵から現代のマンガなど、約200点の作品を紹介していました。

会場内の一部の撮影が可能でした。(グレーの線の外より可。)



冒頭ではミュシャがポスター画家としての地位を確立するまでのプロセスを追っていて、モラヴィアの伝統工芸のガラス画や花瓶、また日本の七宝の花瓶や中国の刺繍、それにロココ風の家具などが展示されていました。こうした品々は、いずれもミュシャのコレクションとしてアトリエを飾っていたもので、制作のインスピレーションの源泉となっていました。言うまでもなく、ミュシャは当時、ヨーロッパで流行していたジャポニスムの影響を受けていて、初期のカリカチュアには北斎漫画との関連が見られるなど、日本美術についても深い関心を寄せていました。



続くのがミュシャのイラストレーターとしての活動に光を当てた内容で、主に1880年代にチェコの雑誌のために手がけた初期作品から、アール・ヌーヴォーの本のデザイン、それにイラストや雑誌などが並んでいました。パリ市の紋章で飾られたマントを羽織りながら、堂々たる姿で人々を見下ろすカーニヴァルの女王を描いた、「オー・カルティエ・ラタン」などの鮮やかなポスターも目を引くかもしれません。


女優サラ・ベルナールをモデルとした「ジスモンダ」などの、ミュシャの代表的な劇場ポスターもハイライトの1つでした。細かな装飾モチーフを衣装などに描きこみ、曲線や円などのパターンを組み合わせては、女性の立ち振る舞いを表現していて、まさに甘美でかつ優雅なミュシャ様式を目の当たりに出来ました。



ミュシャが欧米のグラフィック・アーティストらに影響を与えた1つの切っ掛けが、ミュシャの没後24年経過した1983年、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で開かれたミュシャ展でした。当時は冷戦下だったため、東欧のミュシャの記憶は、西側において幾分薄れていましたが、業績が再び顕彰されると、ミュシャの異世界的なイメージが、アメリカやイギリスのアーティストらの心を捉えました。とりわけ顕著だったのがロックのアート・ワークやコンサート・ポスターで、ローリング・ストーンズのアルバムなど、多くのイラストレーターらがミュシャ風の作品を作りました。



そうした一連のジャケット・デザインなども数多く出展されていて、ミュシャの作品と合わせ見ることが出来ました。この他、1990年代のテリー・ムーアやジョー・ケサダといったアメリカン・コミックも出展されていて、ミュシャとの影響関係について触れていました。率直なところ、ミュシャ展でアメコミが登場するとは思いませんでした。数多く開催されてきたミュシャ関連の展示の中でも、特にオリジナルでユニークな内容と言えるかもしれません。

今回、私が最も興味深かったのが、日本におけるミュシャの受容に関した展示でした。明治33年、与謝野鉄幹の主宰の「明星」の表紙にミュシャを彷彿させる挿画が登場すると、よほど評判を得たのか、次々と文芸誌や女性誌の表紙にミュシャやアール・ヌーヴォー風の女性像が描かれました。ミュシャの作品は20世紀初頭にはパリに留学していた学生らによって日本に紹介され、藤島武二も多くミュシャ風のデザインも手がけるなど、美術家にも影響を与えました。また与謝野晶子の歌集しかり、女性の近代的自我の象徴としてミュシャ様式が重視されたとの指摘もなされていました。



ラストは日本の現代のマンガやグラフィック・アーティストで、とりわけ目を引いたのがファイナルファンタジーシリーズのデザインを手がけた天野喜孝の作品でした。実のところ私も初期のファイナルファンタジーをいくつかプレイした記憶がありますが、当時はキャラクターデザイン等にミュシャやアール・ヌーヴォーとの関係を意識したことが全くなかっただけに、意外な邂逅に思わず見入ってしまいました。

私にとってロックやアメコミなど未知な作品も多い分、ミュシャとの関係などに発見の多い展覧会でもありました。おそらくアートファン以外にも大きく引きのある内容ではないでしょうか。



最後に巡回の情報です。Bunkamuraでの展示を終えると、全国各地へ以下のスケジュールで巡回します。

京都文化博物館:2019年10月12日(土) 〜2020年1月13日(月・祝)
札幌芸術の森美術館:2020年1月25日(土) 〜4月12日(日)
名古屋市美術館:2020年4月25日(土) 〜6月28日(日)
静岡県立美術館:2020年7月11日(土) 〜9月6日(日)
松本市美術館:2020年9月19日(土) 〜11月29日(日)

お盆休み中に観覧してきましたが、待機列こそなかったものの、会場内はかなり賑わっていました。実際、同展の公式サイトによれば、現在、土日の昼間の時間を中心に混み合っています。よって金曜、土曜の夜間開館(21時まで)も有用となりそうです。



9月29日まで開催されています。 *掲載写真は全て「みんなのミュシャ」会場風景。撮影OKコーナーで撮影しました。ラスト1枚は会場外のパネル。

「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ─線の魔術」@mucha2019) Bunkamura ザ・ミュージアム@Bunkamura_info
会期:2019年7月13日(土)~9月29日(日)
休館:7月16日(火)、7月30日(火)、9月10日(火)。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金・土は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学・高校生1000(800)円、中学・小学生700(500)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。要事前予約。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。
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