都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「瀬戸内アートの楽園 直島を1日で巡る旅」 前編:ベネッセハウスミュージアム・李禹煥美術館・地中美術館
1992年にベネッセハウスミュージアムが開館し、後に地中美術館、李禹煥美術館などがオープンした香川県の直島は、いわば現代アートの聖地として多くの人々を集めてきました。
宿泊先の岡山を8時半前に出て、高松行きの快速マリンライナーに乗車し、茶屋町で宇野線に乗り換えて約30分ほど経つと、終点の宇野駅に到着しました。宇野は岡山県側の直島への起点で、島へは駅の目の前にある宇野港からフェリーに乗船する必要がありました。
9時20分過ぎのフェリーに乗ると、船内はツアー客などで賑わっていて、特に外国の方々の姿が多く見受けられました。
直島の玄関口の1つである宮浦港への所要時間は約20分ほどで、瀬戸内海の景色を眺めながら、のんびりと船に揺られると、すぐに草間彌生のかぼちゃのオブジェがある宮浦港に着きました。
現代美術の展示施設は概ね島の中南部に点在していて、観覧に際しては、基本的にはバスで周遊する形となっていました。各施設の行き来に定まったルートはありませんが、私はまず、バスルートで最も港から遠い地中美術館などのある島南部の美術館エリアを目指すことにしました。
港から満員の町営バスに乗車し、終点のつつじ荘で下車して、ベネッセアートサイトの無料場内バスに乗り換えると、高低差のある狭い一本道を進み、海を望む高台へと上がりました。そこに位置するのがベネッセハウスミュージアムでした。
ベネッセハウスミュージアムは1992年、「自然・建築・アートの共生」をコンセプトに、安藤忠雄の設計によってオープンした美術館で、ホテルの機能も兼ね備えています。
山の斜面に沿って建てられていて、ギャラリー部はほぼ地下に埋めこまれ、地下と1階、2階部分に、約20名の現代美術家の作品が公開されていました。なお昨今、撮影の可能な美術館も増えてきましたが、直島では原則、各施設の展示室内の写真を撮ることは出来ません。
建物は円筒形の部分と、窓から光の差し込む縦に長いスペースに分かれていて、思いの外に広く、リチャード・ロングやブルース・ナウマンなどの大作のインスタレーションも展示されていました。またコレクションの一部は作家が同地で制作していて、リチャード・ロングの「瀬戸内海の流木の円」も直島の素材も使用していました。
2階にはカフェとショップがあり、そこから外の景色については撮影も可能でした。ともかく海を望む抜群のロケーションで、この日は快晴だったこともあり、瀬戸内海に浮かぶ島や行き交う船などが眺められました。
ベネッセハウスミュージアムを後にして、再び無料バスに乗ると、すぐに李禹煥美術館に辿り着きました。美術館エリアとしては最も新しい2010年に建てられた施設で、もの派の作家として知られるとして李禹煥のコレクションが収められています。
李禹煥美術館で特徴的なのは、建物の外のスペースも効果的に用い、作品と景観を融合させていたことでした。
ちょうど美術館はベネッセハウスミュージアムと地中美術館の間の谷間に建てられていて、バス停から階段を降りると正面に柱の広場があり、左手には海に面したスペースに「無限門」などの大規模な作品が設置されていました。
大きな半円を描く「無限門」は海を借景として取り込んでいて、実にダイナミックな景観を築き上げていました。
一方の柱の広場では、高さ18メートルを超える柱、「関係項ー点線面」が設置されていて、建物の壁の水平面とは対比的な垂直軸を生み出していました。
「沈黙の間」や「影の間」、それに「瞑想の間」などから構成された美術館内部も、李の新旧の作品が空間と巧みに調和していて、あたかも洞窟を辿りつつ、修道院の中へと迷い込むかのような神秘的な体験を得ることも出来ました。
李は美術館の建設に際し、「静かに瞑想する空間を作りたい」と考えていたそうですが、設計の安藤忠雄の力も借りて、自らの世界観を見事に体現していたのではないでしょうか。私としては美術館エリアの安藤建築の中で、最も心に惹かれたのが李禹煥美術館でした。
李禹煥美術館から地中美術館へは適当な時間のバスがなかったため、徒歩で移動することにしました。場内シャトルバス路線内はバスと徒歩のみ通行可能で、自転車も走行することが出来ません。しばらく歩き、右手に池を見やると、地中美術館のチケットセンターが姿を現しました。
地中美術館は建物の大半が地下に埋設された美術館で、安藤忠雄の設計の元、2004年に建てられました。そして地中へ降り注ぐ自然光を用いた展示室に、クロード・モネ、ウォルター・デ・マリア、ジェームス・タレルの3名の作家の作品が恒久設置されました。
チケットセンターで事前に手配したチケットを引き換え、モネの睡蓮の池を模した「地中の庭」の小道を歩くと、美術館の建物のゲートが見えてきました。
原則、入れ替え制になっているため、さほど混んでいないのかと思いきや、ベネッセハウスミュージアムや李禹煥美術館よりも明らかに人が多く、想像以上に賑わっていました。ちょうど昼時だったからかカフェもほぼ満席で、タレルの「オープン・フィールド」の体験型展示には行列も出来ていました。
私として印象に深いのはモネの睡蓮の展示室で、真っ白な壁面に浮かび上がる青みがかかった色彩の渦は殊更に美しく思えました。2センチ角の大理石の床も足に独特な触感をもたらしていて、まさに全てが睡蓮のために作られた空間であることが感じられました。また正面の「睡蓮の池」は2枚合わせて横幅6メートルもあり、これほど大きな睡蓮を見たこと自体も初めてでした。
一方でウォルター・デ・マリアの展示室は、作品が安藤建築に対峙するかのように設置されていて、不思議な緊張感を醸し出していました。その階段状の空間をはじめ、金箔で覆われた柱などからは、祭壇や教会のイメージも浮かび上がるかもしれません。
空を切り取ったタレルの部屋でしばらく休み、列に加わって「オープン・フィールド」で光を浴びた後は、地中美術館を退館し、無料バスに乗車して、終点のつつじ荘へと戻りました。
後編:本村地区・家プロジェクトへと続きます。
「ベネッセアートサイト直島」 地中美術館、ベネッセハウスミュージアム、李禹煥美術館、家プロジェクトほか
休館:月曜日。但し祝日の場合開館し、翌日休館(地中美術館、李禹煥美術館、家プロジェクト)。無休(ベネッセハウスミュージアム)。
*メンテナンスのための臨時休館あり。
時間:3月1日~9月30日 10:00~18:00、10月1日~2月末日 10:00~17:00(地中美術館、李禹煥美術館)。8:00~21:00(ベネッセハウスミュージアム)。10:00~16:30(家プロジェクト)
*各館毎に最終入館時間の設定あり。
料金:2100円(地中美術館)。1050円(ベネッセハウスミュージアム、李禹煥美術館、家プロジェクト)。
*各施設ともに15歳以下は無料。
*ベネッセハウスミュージアムは宿泊客無料。
*地中美術館はオンラインチケット予約制。
*家プロジェクトは共通券。ワンサイトチケット(420円)あり。「きんざ」は完全予約制。
住所:香川県香川郡直島町3449-1(地中美術館)。香川県香川郡直島町琴弾地(ベネッセハウスミュージアム)。香川県香川郡直島町字倉浦1390(李禹煥美術館)。香川県香川郡直島町本村地区(家プロジェクト)。
交通:宇野港、または高松港より四国汽船フェリーにて宮浦港。(本村港へのルートあり)直島島内は路線バス、及びつつじ荘乗り換えの場内無料シャトルバスを利用
宿泊先の岡山を8時半前に出て、高松行きの快速マリンライナーに乗車し、茶屋町で宇野線に乗り換えて約30分ほど経つと、終点の宇野駅に到着しました。宇野は岡山県側の直島への起点で、島へは駅の目の前にある宇野港からフェリーに乗船する必要がありました。
9時20分過ぎのフェリーに乗ると、船内はツアー客などで賑わっていて、特に外国の方々の姿が多く見受けられました。
直島の玄関口の1つである宮浦港への所要時間は約20分ほどで、瀬戸内海の景色を眺めながら、のんびりと船に揺られると、すぐに草間彌生のかぼちゃのオブジェがある宮浦港に着きました。
現代美術の展示施設は概ね島の中南部に点在していて、観覧に際しては、基本的にはバスで周遊する形となっていました。各施設の行き来に定まったルートはありませんが、私はまず、バスルートで最も港から遠い地中美術館などのある島南部の美術館エリアを目指すことにしました。
港から満員の町営バスに乗車し、終点のつつじ荘で下車して、ベネッセアートサイトの無料場内バスに乗り換えると、高低差のある狭い一本道を進み、海を望む高台へと上がりました。そこに位置するのがベネッセハウスミュージアムでした。
ベネッセハウスミュージアムは1992年、「自然・建築・アートの共生」をコンセプトに、安藤忠雄の設計によってオープンした美術館で、ホテルの機能も兼ね備えています。
山の斜面に沿って建てられていて、ギャラリー部はほぼ地下に埋めこまれ、地下と1階、2階部分に、約20名の現代美術家の作品が公開されていました。なお昨今、撮影の可能な美術館も増えてきましたが、直島では原則、各施設の展示室内の写真を撮ることは出来ません。
建物は円筒形の部分と、窓から光の差し込む縦に長いスペースに分かれていて、思いの外に広く、リチャード・ロングやブルース・ナウマンなどの大作のインスタレーションも展示されていました。またコレクションの一部は作家が同地で制作していて、リチャード・ロングの「瀬戸内海の流木の円」も直島の素材も使用していました。
2階にはカフェとショップがあり、そこから外の景色については撮影も可能でした。ともかく海を望む抜群のロケーションで、この日は快晴だったこともあり、瀬戸内海に浮かぶ島や行き交う船などが眺められました。
ベネッセハウスミュージアムを後にして、再び無料バスに乗ると、すぐに李禹煥美術館に辿り着きました。美術館エリアとしては最も新しい2010年に建てられた施設で、もの派の作家として知られるとして李禹煥のコレクションが収められています。
李禹煥美術館で特徴的なのは、建物の外のスペースも効果的に用い、作品と景観を融合させていたことでした。
ちょうど美術館はベネッセハウスミュージアムと地中美術館の間の谷間に建てられていて、バス停から階段を降りると正面に柱の広場があり、左手には海に面したスペースに「無限門」などの大規模な作品が設置されていました。
大きな半円を描く「無限門」は海を借景として取り込んでいて、実にダイナミックな景観を築き上げていました。
一方の柱の広場では、高さ18メートルを超える柱、「関係項ー点線面」が設置されていて、建物の壁の水平面とは対比的な垂直軸を生み出していました。
「沈黙の間」や「影の間」、それに「瞑想の間」などから構成された美術館内部も、李の新旧の作品が空間と巧みに調和していて、あたかも洞窟を辿りつつ、修道院の中へと迷い込むかのような神秘的な体験を得ることも出来ました。
李は美術館の建設に際し、「静かに瞑想する空間を作りたい」と考えていたそうですが、設計の安藤忠雄の力も借りて、自らの世界観を見事に体現していたのではないでしょうか。私としては美術館エリアの安藤建築の中で、最も心に惹かれたのが李禹煥美術館でした。
李禹煥美術館から地中美術館へは適当な時間のバスがなかったため、徒歩で移動することにしました。場内シャトルバス路線内はバスと徒歩のみ通行可能で、自転車も走行することが出来ません。しばらく歩き、右手に池を見やると、地中美術館のチケットセンターが姿を現しました。
地中美術館は建物の大半が地下に埋設された美術館で、安藤忠雄の設計の元、2004年に建てられました。そして地中へ降り注ぐ自然光を用いた展示室に、クロード・モネ、ウォルター・デ・マリア、ジェームス・タレルの3名の作家の作品が恒久設置されました。
チケットセンターで事前に手配したチケットを引き換え、モネの睡蓮の池を模した「地中の庭」の小道を歩くと、美術館の建物のゲートが見えてきました。
原則、入れ替え制になっているため、さほど混んでいないのかと思いきや、ベネッセハウスミュージアムや李禹煥美術館よりも明らかに人が多く、想像以上に賑わっていました。ちょうど昼時だったからかカフェもほぼ満席で、タレルの「オープン・フィールド」の体験型展示には行列も出来ていました。
私として印象に深いのはモネの睡蓮の展示室で、真っ白な壁面に浮かび上がる青みがかかった色彩の渦は殊更に美しく思えました。2センチ角の大理石の床も足に独特な触感をもたらしていて、まさに全てが睡蓮のために作られた空間であることが感じられました。また正面の「睡蓮の池」は2枚合わせて横幅6メートルもあり、これほど大きな睡蓮を見たこと自体も初めてでした。
一方でウォルター・デ・マリアの展示室は、作品が安藤建築に対峙するかのように設置されていて、不思議な緊張感を醸し出していました。その階段状の空間をはじめ、金箔で覆われた柱などからは、祭壇や教会のイメージも浮かび上がるかもしれません。
空を切り取ったタレルの部屋でしばらく休み、列に加わって「オープン・フィールド」で光を浴びた後は、地中美術館を退館し、無料バスに乗車して、終点のつつじ荘へと戻りました。
後編:本村地区・家プロジェクトへと続きます。
「ベネッセアートサイト直島」 地中美術館、ベネッセハウスミュージアム、李禹煥美術館、家プロジェクトほか
休館:月曜日。但し祝日の場合開館し、翌日休館(地中美術館、李禹煥美術館、家プロジェクト)。無休(ベネッセハウスミュージアム)。
*メンテナンスのための臨時休館あり。
時間:3月1日~9月30日 10:00~18:00、10月1日~2月末日 10:00~17:00(地中美術館、李禹煥美術館)。8:00~21:00(ベネッセハウスミュージアム)。10:00~16:30(家プロジェクト)
*各館毎に最終入館時間の設定あり。
料金:2100円(地中美術館)。1050円(ベネッセハウスミュージアム、李禹煥美術館、家プロジェクト)。
*各施設ともに15歳以下は無料。
*ベネッセハウスミュージアムは宿泊客無料。
*地中美術館はオンラインチケット予約制。
*家プロジェクトは共通券。ワンサイトチケット(420円)あり。「きんざ」は完全予約制。
住所:香川県香川郡直島町3449-1(地中美術館)。香川県香川郡直島町琴弾地(ベネッセハウスミュージアム)。香川県香川郡直島町字倉浦1390(李禹煥美術館)。香川県香川郡直島町本村地区(家プロジェクト)。
交通:宇野港、または高松港より四国汽船フェリーにて宮浦港。(本村港へのルートあり)直島島内は路線バス、及びつつじ荘乗り換えの場内無料シャトルバスを利用
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )