都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「晩秋の磐梯高原と会津への旅」 後編:鶴ヶ城と会津若松のレトロな街歩き
「中編:会津さざえ堂と東山温泉向瀧」から続きます。磐梯高原と会津若松へ行ってきました。
会津若松市内を公共交通にて観光するには、まちなか周遊バス「ハイカラさん」と「あかべぇ」が便利です。ともに会津若松駅や飯盛山、また東山温泉に鶴ヶ城、七日町を経由して走る循環バスで、それぞれ30分から1時間に1本程度の本数にて運行していました。
東山温泉駅から「あかべぇ」にてまず向かったのは、会津若松のシンボルともいうべき鶴ヶ城でした。
古くは室町時代の蘆名家にさかのぼる鶴ヶ城は、伊達家、蒲生家、保科家、松平家などと領主をかえていて、江戸幕末の戊辰戦争においては約1ヶ月にも及ぶ篭城戦が繰り広げられました。その後、会津藩の降伏に伴い、天守閣は政府の命令によって取り壊され、現在は1965年に鉄筋コンクリートで外観復元された天守閣が建っています。
5層の天守には歴代藩主や戊辰戦争などに関する資料が展示されていて、郷土博物館として会津の歴史や文化を紹介していました。
そして最上部は展望スペースとなっていて、東西南北を山に囲まれた会津の街並みを一望することができました。ともかく昨日から天気が良かったため、遠くの山々までを眺められました。
鶴ヶ城の城跡のある公園はかなり広く、本丸には千利休の子の小庵が会津に匿われていた際、当主蒲生氏郷のために造ったとされる茶室「麟閣」が公開されていました。
戊辰戦争により荒廃した鶴ヶ城でしたが、麟閣は茶人の森川善兵衛が城下にあった自らの屋敷に移築していて、約120年もの間大切に保存されてきました。そして1990年、会津若松市の市制90年を記念して元の場所へと復元されました。
麟閣の庭ではお茶をいただくことでもできて、のんびりと寛いでいる方の姿もちらほらと見受けられました。鶴ヶ城は団体や個人、それに修学旅行と思しき学生のグループなどが多く、観光客でかなり賑わっていました。
本丸から二の丸、そして出口へと歩くと、三の丸の跡地に福島県立博物館が建っていました。1996年に開館した同館は、福島県の古代から現代までの歴史を民俗、あるいは自然資料などで紹介する施設で、館内には考古、歴史、美術などからなる常設展示室と、さまざまな企画展を行う企画展示室がありました。
企画展示室では秋の企画展として「ふくしま 藁の文化」が行われていて、福島のみならず、東北から関東へ至る藁に関する資料が一堂に公開されていました。
福島の歴史をたどる広大な常設展示室を足早に鑑賞しているとランチタイムとなったので、会津若松市の繁華街である七日町へとバスで移動しました。
この日利用したのは七日町にあるイタリアンレストラン「パパカルト」で、会津の土地の野菜を用いた前菜とクリームパスタのコースでした。前菜はどれも手が混んでいた上、程よく濃厚なクリームの味が美味でした。
また白を基調とした店内も極めて落ち着いていて、表通りの喧騒とは無縁の静かな時間を過ごすことができました。
会津藩の西の玄関口でもあった七日町界隈には、昔ながらの蔵や洋館を利用した飲食店や土産物店が多く集っています。
そのうちセレクトショップを運営する福西本店は、江戸中期に会津に移った初代伊兵衛以来、約300年の歴史を誇る福西家の商家建築が残されていて、母屋蔵や座敷蔵、それに離れなどからなる建物を見学することができました。
戊辰戦争のあおりを受けた福西家は、一度財を失うも、明治後期から大正時代には復興を遂げ、九代伊兵衛の時代には銀行や電力会社、鉄道会社の役員に名を連ねるなど繁栄を極めました。表の大町通りに面した黒漆喰の3つの蔵は大正3年に完成しました。
建物の中に福西家が長らく収集してきた書画や調度品が公開されているのも特徴で、床の間の美しい設えとともに楽しむことができました。
そのうち1925年のパリ万博へも出展された可能性のある、細密な寄木細工による飾り棚には目を見張りました。
また仏間や座敷、母屋のいずれもが蔵によって作られていて、生活と蔵が大変に密接に関わっていたことがよく分かりました。なお母屋蔵に関しては現在、ギャラリースペースとして一般向けに貸し出しされています。
福西家には多い時に一族が7世帯居住し、働き手を含めると50名近くがともに生活をしていたそうです。表通り側の店蔵から母屋に離れ、そして庭園と、想像以上に奥行きのあるスペースに驚かされました。
なお見学に際しては地元のガイドの方が一緒に建物を回りながら、建具や調度品、それに福西家の歴史について親切に解説してくれます。その中では福西の歴代の人々の業績や生き様とともに、戊辰戦争において家の中を新政府軍に蹂躙されてしまったとする逸話も心に残りました。ともかく時間に余裕を持って出かけられることをおすすめします。
七日町界隈をしばらく散歩しながらいくつかの土産店へ立ち入っていると、気がつけば14時を回っていました。
この日の会津若松観光でもう1つ目当てにしていたのが、1850年に操業した老舗酒造メーカー、末廣酒造の嘉永蔵を見学することでした。
酒蔵見学は10時から16時までの各1時間毎にスタートし、所要時間は30分ほどで、見学に際しての料金もかかりません。また基本的に予約は必要ありませんが、現在のコロナ禍を踏まえて1回あたりの見学が10名に制限されていました。よって前もって受付に見学する旨を申し出ておく必要があります。
15時の見学コースの欄に名前を記し、併設する蔵喫茶「杏」にて大吟醸シフォンケーキをいただきながら、しばらく時間を過ごしました。ちょうど土曜日で見学希望の方が多かったのか、15時前に受付へ戻ると、すでに定員に達していました。
そして吹き抜けのホールから蔵へ入ると、仕込み蔵や釜場などがあり、そこでスタッフの方が日本酒の定義や作り方について細かく説明してくれました。
長きに渡る嘉永蔵の歴史の中で特に目を引いたのは、日本酒造りの手法である山廃仕込みについてでした。多くの酵母が必要な日本酒の発酵では、かつて酵母を培養するためにお米を潰す山卸と呼ばれる作業を行っていましたが、明治時代に醸造試験所の技師、嘉儀金一郎が醸造方法に改良を加え、山卸作業を廃止、つまり山廃でも味わい深い酒を造ることができることを考案しました。
その嘉儀が大正時代に山廃の試験醸造を行ったのが嘉永蔵で、末廣酒造では今に至るまで嘉儀の山廃の手法を受け継いできました。
この他、昔の酒造りの道具が並ぶ展示室や、20年前から30年前にかけて作られた日本酒が保管された蔵なども見学することができました。基本的に酒は賞味期限がなく、日本酒も保管状態によっては古酒として味わうことができて、価格もビンテージワインに比べれば遥かに安価であるとのことでした。
なお見学ツアーでは最後に試飲タイムも用意されていました。もちろんお気に入りのお酒をショップにて購入することもできます。
今回の会津の旅で移動に便利だったのは、地域を周遊できるパス「会津ぐるっとカード」でした。利用開始日から連続する2日間が有効期間で、会津エリアのバスや列車が乗り放題になるだけでなく、観光施設や飲食店などの割引サービスがついています。価格は大人2720円でした。
このぐるっとカードの対象エリアがかなり広く、例えば猪苗代から諸橋近代美術館へのバス往復、また猪苗代から会津若松までの電車往復、さらに会津若松市内のバスなどがすべてフリーで利用することができました。また喜多方や会津坂下、会津田島方面へもフリーで行き来することが可能です。なかなかお得ではないでしょうか。
私自身、当地を訪ねるのは初めてでしたが、自然に溢れる磐梯高原と長い歴史と温泉を有する会津には見どころがたくさんありました。次回は喜多方などと合わせてもう少し足を伸ばして回りたいと思います。
「鶴ヶ城」
営業時間:8:30~17:00(天守閣への入場。最終入場は16:30)
入場料:大人410円、小中学生150円。団体料金の設定あり。
*天守閣・麟閣の共通券:大人520円。
住所:福島県会津若松市追手町1-1
交通:JR線会津若松駅よりまちなか周遊バス「あかべぇ」、もしくは「ハイカラさん」に乗車し「鶴ヶ城入口」下車、徒歩5分。
「末廣酒造 嘉永蔵」
営業時間:9:00~17:00
無料:嘉永蔵の見学は10時から1時間毎。最終案内は16時。所要時間30分。
住所:福島県会津若松市日新町12-38
交通:R線会津若松駅よりまちなか周遊バス「ハイカラさん」に乗車し「大和町」下車、徒歩1分。
会津若松市内を公共交通にて観光するには、まちなか周遊バス「ハイカラさん」と「あかべぇ」が便利です。ともに会津若松駅や飯盛山、また東山温泉に鶴ヶ城、七日町を経由して走る循環バスで、それぞれ30分から1時間に1本程度の本数にて運行していました。
東山温泉駅から「あかべぇ」にてまず向かったのは、会津若松のシンボルともいうべき鶴ヶ城でした。
古くは室町時代の蘆名家にさかのぼる鶴ヶ城は、伊達家、蒲生家、保科家、松平家などと領主をかえていて、江戸幕末の戊辰戦争においては約1ヶ月にも及ぶ篭城戦が繰り広げられました。その後、会津藩の降伏に伴い、天守閣は政府の命令によって取り壊され、現在は1965年に鉄筋コンクリートで外観復元された天守閣が建っています。
5層の天守には歴代藩主や戊辰戦争などに関する資料が展示されていて、郷土博物館として会津の歴史や文化を紹介していました。
そして最上部は展望スペースとなっていて、東西南北を山に囲まれた会津の街並みを一望することができました。ともかく昨日から天気が良かったため、遠くの山々までを眺められました。
鶴ヶ城の城跡のある公園はかなり広く、本丸には千利休の子の小庵が会津に匿われていた際、当主蒲生氏郷のために造ったとされる茶室「麟閣」が公開されていました。
戊辰戦争により荒廃した鶴ヶ城でしたが、麟閣は茶人の森川善兵衛が城下にあった自らの屋敷に移築していて、約120年もの間大切に保存されてきました。そして1990年、会津若松市の市制90年を記念して元の場所へと復元されました。
麟閣の庭ではお茶をいただくことでもできて、のんびりと寛いでいる方の姿もちらほらと見受けられました。鶴ヶ城は団体や個人、それに修学旅行と思しき学生のグループなどが多く、観光客でかなり賑わっていました。
本丸から二の丸、そして出口へと歩くと、三の丸の跡地に福島県立博物館が建っていました。1996年に開館した同館は、福島県の古代から現代までの歴史を民俗、あるいは自然資料などで紹介する施設で、館内には考古、歴史、美術などからなる常設展示室と、さまざまな企画展を行う企画展示室がありました。
企画展示室では秋の企画展として「ふくしま 藁の文化」が行われていて、福島のみならず、東北から関東へ至る藁に関する資料が一堂に公開されていました。
福島の歴史をたどる広大な常設展示室を足早に鑑賞しているとランチタイムとなったので、会津若松市の繁華街である七日町へとバスで移動しました。
この日利用したのは七日町にあるイタリアンレストラン「パパカルト」で、会津の土地の野菜を用いた前菜とクリームパスタのコースでした。前菜はどれも手が混んでいた上、程よく濃厚なクリームの味が美味でした。
また白を基調とした店内も極めて落ち着いていて、表通りの喧騒とは無縁の静かな時間を過ごすことができました。
会津藩の西の玄関口でもあった七日町界隈には、昔ながらの蔵や洋館を利用した飲食店や土産物店が多く集っています。
そのうちセレクトショップを運営する福西本店は、江戸中期に会津に移った初代伊兵衛以来、約300年の歴史を誇る福西家の商家建築が残されていて、母屋蔵や座敷蔵、それに離れなどからなる建物を見学することができました。
戊辰戦争のあおりを受けた福西家は、一度財を失うも、明治後期から大正時代には復興を遂げ、九代伊兵衛の時代には銀行や電力会社、鉄道会社の役員に名を連ねるなど繁栄を極めました。表の大町通りに面した黒漆喰の3つの蔵は大正3年に完成しました。
建物の中に福西家が長らく収集してきた書画や調度品が公開されているのも特徴で、床の間の美しい設えとともに楽しむことができました。
そのうち1925年のパリ万博へも出展された可能性のある、細密な寄木細工による飾り棚には目を見張りました。
また仏間や座敷、母屋のいずれもが蔵によって作られていて、生活と蔵が大変に密接に関わっていたことがよく分かりました。なお母屋蔵に関しては現在、ギャラリースペースとして一般向けに貸し出しされています。
福西家には多い時に一族が7世帯居住し、働き手を含めると50名近くがともに生活をしていたそうです。表通り側の店蔵から母屋に離れ、そして庭園と、想像以上に奥行きのあるスペースに驚かされました。
なお見学に際しては地元のガイドの方が一緒に建物を回りながら、建具や調度品、それに福西家の歴史について親切に解説してくれます。その中では福西の歴代の人々の業績や生き様とともに、戊辰戦争において家の中を新政府軍に蹂躙されてしまったとする逸話も心に残りました。ともかく時間に余裕を持って出かけられることをおすすめします。
七日町界隈をしばらく散歩しながらいくつかの土産店へ立ち入っていると、気がつけば14時を回っていました。
この日の会津若松観光でもう1つ目当てにしていたのが、1850年に操業した老舗酒造メーカー、末廣酒造の嘉永蔵を見学することでした。
酒蔵見学は10時から16時までの各1時間毎にスタートし、所要時間は30分ほどで、見学に際しての料金もかかりません。また基本的に予約は必要ありませんが、現在のコロナ禍を踏まえて1回あたりの見学が10名に制限されていました。よって前もって受付に見学する旨を申し出ておく必要があります。
15時の見学コースの欄に名前を記し、併設する蔵喫茶「杏」にて大吟醸シフォンケーキをいただきながら、しばらく時間を過ごしました。ちょうど土曜日で見学希望の方が多かったのか、15時前に受付へ戻ると、すでに定員に達していました。
そして吹き抜けのホールから蔵へ入ると、仕込み蔵や釜場などがあり、そこでスタッフの方が日本酒の定義や作り方について細かく説明してくれました。
長きに渡る嘉永蔵の歴史の中で特に目を引いたのは、日本酒造りの手法である山廃仕込みについてでした。多くの酵母が必要な日本酒の発酵では、かつて酵母を培養するためにお米を潰す山卸と呼ばれる作業を行っていましたが、明治時代に醸造試験所の技師、嘉儀金一郎が醸造方法に改良を加え、山卸作業を廃止、つまり山廃でも味わい深い酒を造ることができることを考案しました。
その嘉儀が大正時代に山廃の試験醸造を行ったのが嘉永蔵で、末廣酒造では今に至るまで嘉儀の山廃の手法を受け継いできました。
この他、昔の酒造りの道具が並ぶ展示室や、20年前から30年前にかけて作られた日本酒が保管された蔵なども見学することができました。基本的に酒は賞味期限がなく、日本酒も保管状態によっては古酒として味わうことができて、価格もビンテージワインに比べれば遥かに安価であるとのことでした。
なお見学ツアーでは最後に試飲タイムも用意されていました。もちろんお気に入りのお酒をショップにて購入することもできます。
今回の会津の旅で移動に便利だったのは、地域を周遊できるパス「会津ぐるっとカード」でした。利用開始日から連続する2日間が有効期間で、会津エリアのバスや列車が乗り放題になるだけでなく、観光施設や飲食店などの割引サービスがついています。価格は大人2720円でした。
このぐるっとカードの対象エリアがかなり広く、例えば猪苗代から諸橋近代美術館へのバス往復、また猪苗代から会津若松までの電車往復、さらに会津若松市内のバスなどがすべてフリーで利用することができました。また喜多方や会津坂下、会津田島方面へもフリーで行き来することが可能です。なかなかお得ではないでしょうか。
私自身、当地を訪ねるのは初めてでしたが、自然に溢れる磐梯高原と長い歴史と温泉を有する会津には見どころがたくさんありました。次回は喜多方などと合わせてもう少し足を伸ばして回りたいと思います。
「鶴ヶ城」
営業時間:8:30~17:00(天守閣への入場。最終入場は16:30)
入場料:大人410円、小中学生150円。団体料金の設定あり。
*天守閣・麟閣の共通券:大人520円。
住所:福島県会津若松市追手町1-1
交通:JR線会津若松駅よりまちなか周遊バス「あかべぇ」、もしくは「ハイカラさん」に乗車し「鶴ヶ城入口」下車、徒歩5分。
「末廣酒造 嘉永蔵」
営業時間:9:00~17:00
無料:嘉永蔵の見学は10時から1時間毎。最終案内は16時。所要時間30分。
住所:福島県会津若松市日新町12-38
交通:R線会津若松駅よりまちなか周遊バス「ハイカラさん」に乗車し「大和町」下車、徒歩1分。
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