晴徨雨読

晴れた日は自転車で彷徨い、雨の日は本を読む。こんな旅をしたときに始めたブログです。

小説 月山   9/13

2012-09-13 | 日記・エッセイ・コラム

2012.9.13(木)晴、曇

 11日の讀賣新聞で「森敦 生誕100年」という記事を見つけた。わたしよりも少し歳上という感じがあっただけに驚きである。1912年生まれと言うから明治から大正に代わった年である。1月の生まれだそうで、実に明治生まれなわけだ。
 「月山」は昭和48年新出、49年出版なので、わたしが買ったのは学生時代で出版されてすぐの事だった。その本は手元に無くて、文庫本で持っているのだが、これほど何度も読んだ本はない。
 最初に読んだときには何が何だか解らなかった。ただ、昔の東北の冬は寒いんだろうなあぐらいの感覚である。第一、月山がどこにあるやらどのような山やらも解らなかったのだから。それほど東北は遠い存在であった。
 出羽三山や葉山信仰などを知るにつけて再度読むこととなったが、それでもさしたる感動を覚えるということはなかった。
 月山の麓まで自転車で辿り着き、ガスで視界の効かない月山に登り、いや登ったというより彷徨って、少し解ってきた。小説のはじまりにある、落合というところを通ったときなど小説の中の風景を思いだしていた。
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旧朝日村の相模地蔵があるところから遠望。


新聞記事の中に「注連寺から周囲を見回せば、なだらかな稜線が連なり、どの山がどの山か分からなくなる。森文学の大きな世界を連想させた。」とある。まさに月山周辺の山々はどれがどれか分からないのだ。


「未だ生を知らず 焉んぞ死を知らん」という孔子の言葉で始まるのが強烈で、生死をテーマにした小説と言われている。
 新聞記事の中でも、「千の風になって」を訳詞、作曲された新井満氏は、「『死の山』とされる月山を描いた作品は、死の文学と語られることがある。だが、死の姿を知ることで、生を知ろうとした希望の文学だ」と書かれている。
 わたしも同感であるが、生も希望もそれほど明るいものでは無いと思うし、生とか希望の象徴は実は脇役のように描かれている十王峠ではないかと思っている。
 現在のように何時の季節でもどこへでも行ける時代には絶対に理解できない事だろうけど、過去の七五三掛(しめかけ)の人々は長く厳しい冬を雪に閉ざされ、じっと耐えて過ごしてきた。それは物理的にも精神的にも耐えがたいほどの閉塞であったと思う。そんな時彼らの唯一の希望は、春になって十王峠を越えてくる行商人なのではないだろうか。もちろん吹雪をついてやってくる密造酒の買い受け人も同様である。実はそれはこういった人たちで無くても良かったのだろう、峠を介して解放された峠の向こうからこの閉塞感を打ち破ってくれるものなら何でも良かったのだ。Img_0492
 
これこそ月山ではないのか?




 だからこそ例えそれが押し売りであっても、村人達は心よく迎えた。
 月山は空から彼らを見つめている月のように遠くて冷たい。十王峠は多分彼らが毎日眺めている山並みの窪みであって、いやひょっとしたらそれは近すぎて直接村人達の眼には入らないのかも知れないが、吹き(吹雪)の中で命を落とすものがあったり、酒の密造を取り締まる税務職員がやってきたりやっかいな存在でもあるのだけれど、自らの閉塞を打ち破ってくれる細々とした、地獄に垂らされた蜘蛛の糸のような存在であったのだろう。
 それは月山の冷厳な姿とは正反対で、生々しくて、氷の中で芽吹いている蕗の薹のように温かみを感じさせるものかもしれない。Img_0499
 



 冬山の山小屋のような月山神社の岩室で、行者姿の若き女性に会った。七五三掛のいわゆるモンペの後家といわれた女性を思いだし、ドキリとしたものである。


 そして主人公わたしは遂に雪の消えた十王峠を越えて行く。鉢に落ちたカメ虫が何度も這い上がって、遂にその縁に達し飛び立ったように。
 小説月山の主人公は実は十王峠ではないかとさえ思うのである。

【晴徨雨読】44日目(2006.9.13)男鹿半島一周~秋田市
 男鹿半島の秋景色を満喫できればいいかとスタートした。入道崎の土産物屋と大音量の演歌には幻滅したが、景色は一級品だった。Img_0627

入道﨑の土産物屋は興ざめ、うんと離れたところで休憩する。


  道中菅江真澄の足跡に出合う。「江戸の旅日記」(ヘルベルト・プルチョウ著)でその名前ぐらいは知っていたが、その足跡に出合ってその偉大さを改めて知らされる。江戸時代に東北、北海道を旅することが如何に困難か想像もつかない。しかも彼は主要街道沿いだけでなく、辺境の地を歩いている。そして50巻を越える旅行記を残していると言うから驚きだ。日本民俗学の父と言われるのは柳田国男かと思ったら、実はこの人物こそふさわしい。Img_0634 Img_0637





【今日のじょん】:今日はおかーが出かけるので朝は忙しい。散歩に出かけるべかと思ったが、庭を嗅ぎ回ってラチが明かない。P1020698




 獣でも来たかなと思ったが、よく考えれば作日ゆきちゃんが来てたのだ。ゆきちゃんアトピーがきつかったので写真は遠慮して、その数日前に来たマーブルの写りの良い写真をご覧あれ。P1020682


コメント
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