14年の間、看て来た実母がとうとう天国へ旅たち、ポカンと大きな穴があいたような毎日を過ごすようになった。
思えば、母が初めての施設へ引越しの時はほんとうに大変だった。
引越し屋さんに頼んで荷物の整理をすると、軽自動車に山ほどの不用品、そのほか諸々で数万円が必要だった。
それから14年後にまた同じことをすることになろうとは
今、施設の荷物の処理がようやく終わった。
遺品といえば大袈裟だが葬儀の後、妹達が残された品物の中から、思い出の詰まった品々を
それぞれに手にして去り、まだ使えそうな衣類や小道具は施設の方で引き受けていただいたので、
残りはわずかになり、ひとまずかたついた。
ところが、市にひきうけてもらう為に数個のビニール袋に詰めていた品をトラックに積んで行かれた後に
不思議なことが起きていた。
袋から、敗れてとび出していた小さなゴミを集めようと、近くに寄った時、キラッとひかるものが・・・
それは・・・
母の手作りと思われる、白い花びらがエメラルド色の台座にのせられた小さな指輪、
アスファルトの道端にコロンとおちていた。
「私はここにいるよ・・・」とでもいっているような・・
いったいどこに、どういう形ではいっていたのか、全然見当もつかない。
主な品物は確かに妹達がもらって行ったはずなのに。
少し曲がってはいたが、たしかに母の細い指にさされた時もあったのだろう。
ひろいあげて 握りしめた。
つめたくて小さなかわいらしい指輪。
「いつまでも私を、忘れないでね」とでも云っているのだろうか・・・