三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「左様なら今晩は」

2022年11月15日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「左様なら今晩は」を観た。
映画『左様なら今晩は』公式サイト

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映画初主演・乃木坂46久保史緒里×萩原利久 ピュアすぎる幽霊×不器用なサラリーマンの奇妙なハートフルラブコメディ♡

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 尾道は小さな町だが、歩いて楽しいところだ。山が海に迫った地形で、坂があって寺があって神社がある。海岸から数百メートルの向かいには、同じ尾道市の向島や岩子島があって、海というよりも大きな用水路みたいだ。一年を通じて穏やかな海は、眺める人も穏やかにしてくれる気がする。映画「転校生」の舞台になったことはあまりにも有名だ。むしろこの映画が尾道を観光都市として有名にしたと言ってもいい。

 本作品は東京から尾道に来てサラリーマンをしている青年のアパートに、若い女の姿をした地縛霊が現われる話だ。前時代的なノリの彼女に対して、優柔不断な現代っ子の男。しかしその後の不動産屋で見せた行動力からすると、優柔不断は相手の権利を慮る優しさでもあることが分かる。出て行った元カノにはそれが理解できず、無責任な男に映ったようだ。しかし古風な地縛霊は、元カノよりも大人で、青年の優しさが理解できた。そういう物語である。悪くない。
 物欲や性欲にガツガツしない草食男子は、それ故に経済力があまりない。男に経済力と優しさの両方を求めるのは、ちょっと無理があるのだ。本作品の陽さんこと、半澤陽平も、草食系である。一昔前の地縛霊が男に優しさを求めたのは、それだけウブだったということだ。もう少し歳を取ってから亡くなった幽霊だったら、半澤に幻滅しただろう。現在の女性はもはや何歳であろうとウブではない。出て行った元カノもそうだ。昔と今とでは、男女の関係性に大きな変化が生じているという訳だ。その辺が面白かった。

映画「ドント・ウォーリー・ダーリン」

2022年11月15日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「ドント・ウォーリー・ダーリン」を観た。
映画『ドント・ウォーリー・ダーリン』公式サイト|大ヒット上映中!

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『ミッドサマー』のフローレンス・ピュー最新作!予想できない展開で観るものを惹きつける 恐怖と欲望が入り乱れる極限のユートピアスリラーの世界|映画『ドント・ウォー...

映画『ドント・ウォーリー・ダーリン』公式サイト|大ヒット上映中!

 かなり面白い作品だった。ひと言で言うと、映画「マトリックス」に似たような世界観である。こちらはSFアクションではなく、SFドラマだ。

 デザイナーがいて小さな世界を構築するが、住民のキャラクターはランダムにしたい。そこでインターネットで公募して、条件に従う者たちだけを登場させる。反体制的な輩は排除するのみだ。
 サラリーマンと専業主婦の画一的な家庭が軒を連ねる住宅街が主な舞台で、ベニー・グッドマンの「Sing Sing Sing」が流れているのと、自動車の形からして、1950年代の世界が理想らしい。アメリカのパターナリズムの全盛時である。

 マインドコントロールや緩やかな思想統制があっても、衣食住が満ち足りているか、十分だと納得していれば、人間は逆らうよりも従うことを選ぶ。いわゆる奴隷根性だ。それに逆らえば不幸が待っている。窓ガラス掃除のときに壁が迫ってきて圧死しそうになるところは、その象徴的なシーンだ。

 人生は自分で選ぶものだという実存的なテーマを、アメリカ映画が取り上げるのは珍しい。設定のディテールに整合性が欠ける部分があるのが憾みだが、本作品はよくあるハリウッドのB級映画ではない。LGBTに反対するようなアナクロニズムに対するアンチテーゼなのだ。現代に相応しいアメリカ映画と言えるのではなかろうか。

 フローレンス・ピューは、映画「わたしの若草物語」と「レディ・マクベス」の演技がいずれも秀逸だったので、最近注目している。外国人女優としては小柄なのに、その存在感は他を圧倒しているのだ。本作品の演技は期待を遥かに上回って、作品の設定も世界観も、この人を中心に回っているような気さえした。作品にさえ恵まれれば、今後も活躍すること間違いなしだ。