三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「母性」

2022年11月25日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「母性」を観た。
映画『母性』オフィシャルサイト。11/23(水・祝)公開 bosei-movie.jp

映画『母性』オフィシャルサイト。11/23(水・祝)公開 bosei-movie.jp

11/23(水・祝)公開 映画『母性』公式サイト。戸田恵梨香×永野芽郁×『告白』湊かなえ衝撃作映画化!

映画『母性』オフィシャルサイト

 ちょっと頭でっかちな作品だ。廣木隆一監督は割と原作に忠実だから、演出というよりも、原作のせいかもしれない。同監督の公開中の映画「あちらにいる鬼」に比べると、やや深みに欠けていた気がする。
 戸田恵梨香も永野芽郁も、大地真央も高畑淳子も熱演で好演だったが、誰にも感情移入できなかった。全員が鬱陶しい性格をしているのだ。映画「告白」も、同じように登場人物全員が嫌なやつだったから、やっぱり原作に厭世主義の底流があるのだろう。
 永野芽郁の焼鳥屋のシーンが最悪である。自分が迷惑を被った訳でもないのに、隣の客に注意する。誰が見ても独善的で迷惑な女性で、本当に嫌なやつである。こんな歪んだ性格がどこから来たのだろうか、というのが本作品のテーマだ。
 
 戸田恵梨香のルミコと永野芽郁のサヤカのモノローグによって、同一の出来事が違った見方として表現される。弁当箱を落とすシーン、その後の母娘の密やかな会話、そして嵐の夜のシーン。嵐の夜のシーンは、ルミコとサヤカのそれぞれが本当に求めるものを表現しているつもりなのかもしれないが、パニックの中での行動としてはリアリティに欠けていて、説得力がまったくない。
 もっとも欠けていたのが、ルミコとサヤカの夫であり父親である男に対する感情である。まるで存在していないかのように扱われるが、ストーリーが進むときにこの男の意思や感情が関係しないはずがない。にもかかわらず力技で背景に押しやる。この男が関わらないから、人間関係が平板になってしまった。
 メルヘンチックな自分の中だけの愛情に溺れて現実をシャットアウトする女たち。他人の気持ちを考えると言いながら、ただ他人に阿るだけの生き方。独りよがりの鬱陶しい女たちの群像劇を描きたかったのだとすれば、成功していると言えるだろう。

 主題歌は作品に合わなかったが、劇中の音楽はとてもよかった。音響の効果がなければもっと陳腐な作品になっていたと思う。


映画「宮松と山下」

2022年11月25日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「宮松と山下」を観た。
香川照之主演『宮松と山下』11月18日(金)公開

香川照之主演『宮松と山下』11月18日(金)公開

香川照之主演最新作、関友太郎・平瀬謙太朗・佐藤雅彦 初長編監督作品『宮松と山下』11月18日(金)新宿武蔵野館、渋谷シネクイント、シネスイッチ銀座ほか全国公開!

香川照之主演『宮松と山下』11月18日(金)公開

 上演時間ぎりぎりに入館すると、ほぼ満席である。しかも普段の年配ばかりと違って若い観客が目立つ。香川照之は若い子に人気があるのかなと思っていたら、上映後にバタバタと舞台挨拶がはじまった。本作品を監督した監督集団「5月」という3人が登壇した。どうやらこの3人が人気のようである。
 香川照之にはちょっぴり残念な話かもしれないが、そんなこととは無関係に、本作品の香川の演技は凄かった。夜の歯磨きのシーンでの僅かに浮かべる笑みや、実家の庭で妹に見せる横顔の微笑みといった表情が、その時の心情や真実を物語っている。テレビドラマでの顔芸が有名な俳優だが、こういう細かい表情ができるところに芸の細やかさがある。
 スキャンダル報道は残念だが、映画や芝居を観るときは本人の人柄を切り離して観るようにしている。芝居が上手であれば、役者の個人事情などを思い浮かべる余地などなくなる。本作品の香川の演技は鬼気迫るものがあった。
 作品自体もかなり面白い。余計な台詞を削ぎ落とした俳句みたいな演出で、表情豊かな香川照之の演技を最大限に生かして物語を進めていく。言葉が溢れる会話劇みたいな映画が多い中で、無言の演出は観客の想像力を刺激するという意味でも洒落ている。過去に何があって現在はどうなっていて今後はどうなるのかを、あれこれ想像しながらの鑑賞となる。すると宮松の孤独や不安がこちらまで押し寄せてきて、なんとなく心許ない気分になった。優れた作品は心を揺さぶってくるものだ。

 映画の舞台挨拶は登壇者が互いに褒めあって、最後はSNSでの拡散をお願いするという形が多いので、たいして役に立たないが、本作品の舞台挨拶はちょっと面白かった。
 編集で泣く泣くカットしたシーンがたくさんあったそうで、実家の庭を兄妹が歩くところを俯瞰で撮影したシーンがあるらしい。たしかに本作品のストーリーにはそぐわないが、兄妹の関係性や互いへの心情などが思い浮かべられそうで、そのシーンを観たいと思った。
 一番面白かったのが、カップ焼そばのエピソードである。カップ焼きそばの湯切りをするシーンが二度あって、一度目は三角コーナーにお湯を捨てているのに、二度目は三角コーナーの外に捨てている。実は二度目は、その後カップの麺をこぼしてしまうシーンだったそうだ。一度目は上手くやっているのに二度目はどうして失敗したか、それが本作品のストーリーにとても重要なポイントとなっているのだが、ちょっとやりすぎだということで、麺をこぼしてしまうシーンはカットになったらしい。しかし麺をこぼしてしまったときの香川の表情がとてつもなくいい表情で、その表情を公開できなかったことはとても残念だと言っていた。なかなかいい舞台挨拶だった。