映画「ファミリー・ディナー」を観た。
料理と食事のシーンが何度も出てくる。香草がふんだんに使われるが、主役は肉だ。ホラー映画で肉料理のシーンが登場するとなれば、結末も見えてくるというものである。
人が痩せたい動機は、主にふたつある。ひとつは、自分の見た目をよくしたいという願望だ。思春期以降は、殆どの太っている人は痩せたいと考えると思う。もうひとつは、健康のためである。生活習慣病の大きな原因のひとつに肥満があるのもあるが、太っていると、落としたものを取るのにひと苦労だったり、階段をちょっと登っただけでひどく息切れしたりする。もうちょっとスムーズな日常生活を送りたいというのが、健康のために痩せたい動機である。そして両方が目的というのが一番多い。本作品のシミーもそうだろう。
一方で、食欲は人間の根源的な欲望である。できれば美味しいものを食べたい。日本人の中には、水族館で魚を見ると美味しそうだと思う人もいる。当方もそのひとりである。知り合いの中国人は、牛を見ると美味しそうだと思うそうだ。吉林省出身の彼は、犬も美味しそうに見えるときがあると言っていた。人食い族には、美味しそうに見える人間のタイプがありそうだ。
食欲と並ぶ二大欲望が性欲である。ホラー映画には、このふたつの欲望が欠かせない。本作品は食欲寄りで、性欲の場面が少なかった気がするが、捕食される側には性欲の発散は似合わないから、これでよかったのだろう。
食用の家畜を太らせることを肥育と呼ぶ。あれは肥育なのかと思わせるシーンがある。食べさせないでデトックスさせるシーンもある。本作品でおばさんが使うデトックスという言葉には、アサリに砂を吐かせるみたいなニュアンスがあって、やられるのがどちらかなのか、気になり始める。
オーストリアのホラー映画では、ジェラルド・カーゲル監督の映画「アングスト/不安」を思い出す。理不尽な暴力を振るう男が主人公の不条理ホラーだった。本作品にも似たところがあるが、こちらは宗教絡みの黒魔術風味の作品だ。主人公が怖がらないところが似ていて、ドイツ語を話す人々の特徴かもしれない。そういえば、昭和の頃に、インド人は驚かないという都市伝説があった。
終始、不穏な雰囲気なのがいい。登場人物は4人だけだが、それぞれが典型的で、まるで舞台の芝居を観ているかのような、不思議な臨場感がある。出てくる料理は、美味しそうなのにどことなく気持ち悪い。家族の態度は受け入れているようで拒んでいるし、親切なようで冷酷だ。シミーは不安なようで胆が据わっている。矛盾を内包した各人の関係性はとてもスリリングで、次に何が起きるかわからない。
動物は殺したり傷つけたりできないから、どこかでVFXが使われていたのだと思う。とても上手だ。映像も音楽も控えめで、それが逆に人間の恐ろしさを浮かび上がらせる。とてもよかった。