闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.574
こないだ彼等の曲をメドレーで聴いていたら、だんだんおんなじ曲のように思えて眠くなってきたのだが、この映画をみて眼が覚めました。これは、2006年にNYブロードウエイのビーコン・シアターで行われたライヴを主な素材にした音楽ドキュメンタリー映画なんです。
音楽でいちばん大事なのは、かの吉田秀和翁に倣ってわたくし的には歌詞ですが、ストーンズはそれが良くできている。曲と詞の協同では他のバンドの追随を許さないでしょう。曲を支配しているのはもちろんキース・リチャーズのギターとチャーリー・ワッツのドラムスで、私はリンゴ・スターと同様にワッツの太鼓を高く評価しているんだよ。
さらにボーカルのミック・ジャガーは、ボーカルのみならず、ダンスとパフォーマンスが素晴らしい。この天才の肉体が滅びる時、ストーンズはたんなる岩石となるだろう。
いったい何台のキャメラを使っているのか知らないが、スコセッシのキャメラワークと照明、編集は、世のライヴ映像とは全然違う鋭い切れ味を示す。ここに切り取られた映像の中のミック・ジャガーだけがミック・ジャガーである、といいたくなるほどリアルにして幻想的だ。色即是空、リアル即幻影なのだ。
コンサートが終わってメンバーを捉えようとするキャメラに向かってスコセッシが「アップ、アッップ」と怒鳴ると、それはこの由緒ある劇場を出て夜のブロードウエイの上空を舞いあがりNYぜんたいを俯瞰する。
おお、なんと素晴らしい幕切れであることよ!
ミック・ジャガーの肉体が滅ぶ時、ストーンズはたんなる岩石となるだろう 蝶人