照る日曇る日第860回
辻邦夫の歴史小説の特徴は、その真実らしさと叙述の晴れやかなリリシズムにある。
どんなに優れた内容を物語っていようとも、その語り口が陰鬱であったり妙な歪みや毒が含まれていたりすると、もうそれだけで放り出したくなってしまう短気な読者のわたくしですが、彼のちょっとモザールの調べに似ていなくもない透明でのびやかな散文に接すると、いつまでもその身をゆだねたくなってしまうのである。
そんな著者がここで取りあげたのは、戦国時代の武将、織田信長であるが、この謎多き英雄の真実を、当時本邦を訪れていた外国人キリシタンの視線を通じてにはるかそうとする大胆な試みは、完璧とはいえないまでも、鮮やかに成功したと評すべきでしょう。
イタドリのぶっとい茎の空洞でうつらうつらと昼寝する蛇 蝶人