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蝶人物見遊山記第216回
幕末に長崎にきて活躍したドイツの博物学者フォン・シーボルトの死後150周年ということで「国立科学博物館」と「江戸東京博物館」で同時に2つの展覧会が開催されています。
前者「日本の自然を世界に開いたシーボルト」展では植物学、動物学、鉱物学などの学者・研究家・収集家だったシーボルトに焦点を当て、1万点以上をコレクトしたという植物の標本などの一部を展示してあります。彼は日本で集めた標本の大半を帰国後オランダのライデンやドイツのミュンヘンに保管し、多くの学者の研究に委ねたのでした。
新種のアジサイの標本には滞日中の妻お滝の名前が学名に織り込まれ、彼の愛情を察することができます。
なおこの博物館には忠犬ハチ公と南極犬ギロの剥製が隣り合わせに展示してあり、毎度のことながらその大きさには驚かされます。
次の会場は私の大嫌いな「江戸東京博物館」で、本当は東京で一番醜悪なこんな建物なんかに足を向けたくないのですが、目をつぶって潜り抜けると偶にはいいこともあるもので、その日に限って65歳以上の年寄りは入場が無料なのでした。
こちらの「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」展は、前者の動植物以外の江戸時代の庶民の暮らしを再現するありとあらゆる民芸品や衣食住にまつわる生活雑貨、芸術品、さらにはシーボルトの日本追放の原因となった伊能忠敬制作の日本地図などが所狭しと展示してあります。
よくもこれほど多くのアイテムをかき集めたものと驚嘆するほかはありませんが、おかげで私たちはたった100年前の先祖の暮らしぶりをありありと偲ぶことができるのです。
3度目の訪日を夢見ながらついに果たせなかったシーボルトは、これらの膨大なコレクションを欧州各地で開催した博覧会をつうじて日本文化の多彩な魅力を多くの公衆の眼にやきつけ、そのイメージアッップとプロパンガンダ役を果たしてくれたのです。
彼のジャパンコレクションの大半は現在ミュンヘンの博物館にありますが、その受け入れの主役を演じたのは、かのビスコンティの映画「ルートヴィヒ」で有名な藝術に理解のあるバイエルンの狂王ルートヴヒ2世なのでした。
なおこれらの展覧会の会期は、国立科学博物館の「日本の自然を世界に開いたシーボルト」展は12月4日、江戸東京博物館の「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」展は11月6日までずら。
菊竹清訓が設計せし「江戸東京博物館」は史上最悪最低の建築物なり 蝶人