西暦2016年文月蝶人酔生夢死幾百夜
地下鉄から地上に出た私が、駅前広場で風船に空気を入れ、大きく膨らませて巨大レストランを作っていると、まわりには早くも同業者たちが現れて色もデザインも異なる風船食堂を次々に立ち上げているのだった。7/1
私がロシア兵に「待て」といおうとして、そのロシア語を思いだそうとしている間に、ロシア兵は発砲したので、私はその場にどうと倒れた。7/1
古い録音テープが出て来たので聞いてみると、かの天才クライバーよりも凄いベートーヴェンの7番の演奏であった。これはいったい誰の指揮か?。私自身は4番と8番しか振ったことはない。7/2
私たちは、思い思いに好きな女優を連れて「ねぶた祭り」を見に行ったが、友達がどんな連れと一緒なのかが気になって、「ねぶた」の鑑賞どころではなかった。7/2
長年の夢がかなって、とうとう大金持ちになったのだが、後で考えるといかにも下らないことにばかり湯水のように金を使っているわたくしなのであった。7/3
パーティで知り合った、なんてことのない、しかしちょっと可愛い女の子に誘われた私は、いかんいかんと思いつつ、ずるずると深間に嵌り込んでしまった。7/3
アルバイトで高校の理科の先生を頼まれ、理科は不得意なので固辞したのだが、「完璧なアンチョコがあるから大丈夫」と請け合われたので、やることにした。今日は生物の授業に使うために、小川にドジョウを取りに行ったのだが、不気味な口をした獰猛な肉食の魚しかいなかった。7/4
むかし別れた腐れ縁の女と再会したら、ドイツの軍人の妻になっていた。なんでもロスで日本人の夫と離婚したあとで、いわゆるひとつの心の間隙に割り込んできたのだという。よくある話だ。7/4
私の料亭のおお女将のところに若い子分がやってきて、今月からみかじめ料を取るというから、「いったい誰がお前んとこの台所のダシを作ってやったのか、もう忘れたんか。はよ帰って、親分によういうとけ」といって追い返した。7/5
小西屋に集英社のメンノの山本大介とその仲間たちを招待したら、その噂を聞きつけた京阪神の親戚のひとたちが、「ほんなんやったら、うちらあも御馳走になりたいわあ」というて、綾部に大集合したので、大弱りに弱ってしまった。7/6
会社で仕事をしていると、総会屋の大男が、「やあこんちは、今日はわしらの大先生をお連れしました」というので、振り向くと、死んだはずの右翼の大物のコダマ某を先頭に、見るからに人相の悪いヤクザが1ダースほど私を睨んでいたので、いっぺんで肝が冷えた。7/6
A子さんの写真に、イイネをクリックしようとしたら、「A子さんは美人だね」や「A子さんはオシャレだね」や「A子さんは大金持ちだね」にクリックしてからでないと、そこまで辿りつけないことが分かった。7/7
PCに出てきた「音楽」という言葉にマウスで触れると、すぐに曲名や作曲者名の欄に飛び、そのどれかにタッチすると、スピーカーもないのに、いきなり未知の音楽が嵐のように鳴り響いた。7/7
先行する私の車の尻の臭いを嗅ぐようにぴったり後をつけてくる妙な車があったので、私が「停まれ」と念ずると、その場で釘づけになった。7/8
私が発明した特殊な枕で眠ると、眠りながらお経を読んだり、対立する2人をなだめすかしたり、蚊取り線香を取り替えたりすることができます。7/8
私たち3人は、オリンピックに備えて特別訓練に明け暮れていたが、毎日賞味期限の過ぎた「インアウタントラーメン」ばかり喰わされている間に、いつのまにか選手としての賞味期限が過ぎてしまった。7/9
こんにちはみなさん。僕、ここで挨拶するように誰かに頼まれたのでここへやってきましたが、ここでどういう挨拶をしたらいいのか分からないので困っています。きっと困ると思ったので「萬金丹」をもってきましたので、とりあえずこれを飲んでから、様子を見てみたいと存じます。7/9
井出君は突如キャンペーン大好き人間に大変身し、売り場巡回の際にバッハの「イタリア協奏曲」をBGMに掛けさせて、いきなり裸踊りをやってのけた。7/10
「この映画をみて、我が国に行ける政治的経済的社会的長所と短所を、映像を添付しながら説明しなさい」という課題が出されたので、学生たちは懸命に映像を取り込み、それを各シーンごとに再分割して番号を振り、いつでも必要なデータが取り出せるように加工していた。7/11
バイカル湖を訪ねて、リニューアルされた引き揚げ船の興安丸に乗りこんだら、昔の懐かしの女と再会した。なんでも最近夫と別れて、LAからここへやってきたという。船室に連れ込んで欲情を解放してから、「今度はいつどこで?」と尋ねたら「いつかあの世で」という答えが返ってきた。7/12
夢の中で私は「1月侍」だったが、しばらくすると大きく成長して「10月侍」となった。7/13
オグロ選手に率いられた我ら風来坊ライター集団は、某国の新しい工業団地に潜入して、その住民たちを虱潰しに夜討ち朝駆けで取材して回った。7/14
どんどん病が重くなっていくので、名医と評判の黒田先生を紹介されて某大病院を訪ねたら、50人くらいの黒服の男たちが、机に頭を伏せてグウグウ寝ているので、「黒田先生はいらっしゃいますか」と声を掛けたら、男たちはいきなり気をつけの姿勢を取って、「フワーーイ」と返事した。7/14
私は、彼女が泊まっているホテルの部屋をつきとめ、おびえきった彼女を相手に、自分がやりたいことを全部やりつつ、朝まで過ごした。7/15
日替わりで会社の受付嬢が会社のいろいろな施設に変ってゆくので、じっと見ていると大観覧車のように目が回って仕方がない。7/17
最近開かれた「日本建築学界2016年総会」は、吉田吉雄の温泉プロジェクトに特別賞を与えようとしたのだが、選考委員会がもめにもめて流会してしまったので、私と妻は峠の秘境の温泉に入ったのだが、妻がなかなか出てこないので心配だ。それに夕方になって雨が降り始めた。7/19
私は党大会の直前に山東省の委員の資格をはく奪されたので、山奥の郷里に戻って炭焼き職人になって一生を終った。7/21
客の中には富裕層から貧民層まで、さまざまなタイプが混在していたが、私はそれらすべての階層にヒットするセールス方法を開発することに成功したのだった。7/23
今日私の親友の娘の結婚式があるので、ホテルをチェックアウトしようとしたら、中国からの観光客がいっぱいなのでいらつく。その時になって私は、私の礼服を別のホテルに置いてあることをふと思い出した。昨夜結婚式の前祝いだと称して、どこかのレストランで友人たちとドンチャン騒ぎをしたのだが、そのあと別のホテルに泊まってしまったようなのだ。7/24
さっき、これでお別れと思って、白くて長いドレスを着た女とソナチネを演奏した後、映画の試写会に行ったのだが、よく見たらさっきのヴァイオリンをまだ右手に持ったままだったので帰ろうとしたのだが、「ちょっと待って、いま幻の大スターに紹介しますから」といわれたので待っているのだが。7/25
大阪の肉加工業に従事している親戚の子供から電話で相談があって、東京に出て別の仕事をしたいという。さてどうしたものか。7/26
私は携帯も、ましてやスマホも持たずに長く働いていたのだが、会社の偉いさんが「ちょっと相談したいことがあるので、役員室まで来てくれ」というので、だんだん不安になってきた。7/26
私は家の金庫にあった1万円をこっそり取り出して、自分の好きなものを買っていたのだが、すぐにそれがばれてしまったので「やはりこういうことをすれば、こういうことになるよな」と思いながら、祖父の前で神妙に頭を下げて詫びを乞うていた。7/27
部長と課長に連れられて某所へ行った。急に2人の姿が見えなくなったので、慌てて探すと食事をしているので、私もその隣に座ると、本格的なコース料理が出てきた。美味い美味いと食べていると、向かい側に高峰秀子と磯村氏が座っている。これはどういう集まりなのか。7/28
A課長がA分校からB分校へ異動になったのは、日本人のシェフがいてうまい料理にありつける、と考えたからだったが、着任早々白クマに食べられてしまったので、それは見果てぬ夢に終わった。7/28
千載一遇、一発逆転の最後のチャンスに失敗した私は、とうとう一文無しになって、自己破産を宣告して、山奥に逼塞した。7/29
共産党の書記長は、政治活動のかたわらアマチュアオケの指揮をするのが趣味だったが、とつぜんウイーンフィルから定期演奏会への出演を頼まれて、困惑しているそうだ。7/30
前回もそうだったが、この中華レストランはサービスが悪い上に、注文をしているうちにどんどんメニューがなくなり、結局頼んだものがなに一つ出てこないので、頭に来た私は「もう二度とこんな店なんか来ないぞ!」と叫んだ。7/31
くねくねと天然ウナギは踊ってるウナサブロウよ人に食わるな 蝶人