照る日曇る日第982回
同性愛の権化シャルリュス男爵が古今東西の王侯貴族、有名人たちの淫行についてとくとくと語っている間に、彼の出過ぎた振る舞いに怒り狂ったヴェルデュラン夫人のモレルを味方につけのシャルリュス斬り大作戦は着々と進行していた。
一方、得体のしれない謎の女、アルベルチーヌを虜にしていたはずの主人公は、いつのまにか主従の立場が「谷崎もどき」に入れ替わり、ほかの女に惚れた彼女が出てゆくかもしれないという不安と恐怖に苛まれて懊悩の日々を送るうちに、その不吉な予感は突如現実のものとなる。
男と寝るときには性器を、女と寝るときには尻の穴を「割ってもらっていた」などと告白するアルベルチーヌに、金と物を惜しみなく与えて鳥かごの中の小鳥のつもりで可愛がっていた「私」だったが、「本当は愛してもいない女」に捨てられた瞬間、空っぽの存在に転落してしまうのである。
しかし深夜、こんな神経衰弱の羊腸の小径を手さぐりしながら暗中に模索するような心理小説を、プルーストはよくも書き続け、それを歴代の翻訳者は飽きもせずに翻訳し続け、それを私たち読者はけっして退屈することなく読み続けたものである。
教会の階段を降りてくる洒落たコート瀟洒な口髭の男は本当にプルーストだろうか? 蝶人