あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

夢は第2の人生である 第45回

2017-08-31 15:06:52 | Weblog


西暦2016年葉月蝶人酔生夢死幾百夜


政権党の横暴を向こうに回して、かよわい女一匹がプッチーニのオペラ「西部の娘」のミニーのように立向かう、という構図に興奮した多くの選挙民たちは、誰かが「こいつはゴリゴリの右翼でファシストだよ」と囁いても、誰一人聞き入れようとはしなかった。8/1

ナス1キロを販売するには、1週間分のナス料理のレシピを無償で提供しなければ駄目なんだ、ということを、私はコストコで学んだ。8/1

僕は、じつに巧みに、全身鉄で出来た敵兵を撃ち殺していたのだが、その決定的瞬間をテレビが中継してくれないので、頭にきていた。8/2

この駅は、いつも電車が混雑する上に、乗客が振り回されてよく死人が出るので、十分に注意しなければならない。8/3

わしはバンダル王を2度まで破り、国境線の向こう側に放逐したのだが、彼奴はそのたびに王座に戻ってまたしてもわしの王国に挑んできたので、3度目には首を斬ろうと決意していたにもかかわらずそれをしなかったので、それがわしの命取りになったのじゃ。8/5

短いホットパンツの女がしゃがんでいるので、妙に気になった私は、思わず腰を浮かして立ちあがったが、それ以上何もしなかった。後で彼女は、この港町一番の美女だと聞いた私は、もっと積極的にアプローチすればよかった、と後悔した。8/6

どんな詩でも無料で、それなりの詩集にしてくれるというサービスを、ある出版社が始めたところ、注文が殺到したのはいいけれど、残念なことに、すぐに倒産してしまった。8/7

ばせをの如き俳諧師が、我が辞世の句をたちどころに消してみせる、というので、やってみろというたら、「枯れ枝にカラスのとまりけり」という句のカラスに、水をかけて消してしまった。8/7

去年このホテルで知り合ったナガオさんとサトウさんが、今年も同じ女性を同伴していることに気付いた。ナガオさんは女優の卵、サトウさんは和服が似合う粋筋の美女だったが、2人は私の傍に居る北欧の長身のモデルに気づいて驚愕したようだった。8/8

懇意にしているフランス料理屋の主人が、どうも客の入りがおもわしくないという。料理などの改善点について尋ねられたが、このせつはフレンチよりイタリアンだから仕方ないとは言いかねた。8/10

真夜中に蚊に刺されて目を覚ますと突然アメリカ人の若い女性兵士が寝室に入って来て蚊を叩き殺し、刺された私の手足にキンカンを塗ってからウインクして窓の外へと去っていった。8/11

カタログ撮影で南のA島に行くことになり、慌ただしく準備していたら、ナベショーがしゃしゃり出てきて、B島のほうがいいというので、かつて両方の島に遠征したことのある私がその理由を滔々と述べたら、尻尾を巻いて消えてしまった。8/12

環境問題活動家のAさんが、乱暴者に襲われたというので、僕等は急いで病院に駆けつけた。その場に居合わせた電通の岩橋さんの話では、Aさんは釘を打った棒で全身を乱打されたという。8/13

結婚式に招待されたのだが、こびとにはこびと用の椅子と料理が供されたので、さすが塚田家と舌を巻かされた。8/14

私が預かっている女性のうちの3名までは、すでに傷ついていた。8/15

梅小路から自転車で夜道を走っていると、大学の建物が見えた。この学校の一般教養学科の単位がまだいくつか残っているので、私はまだ卒業できない。早く下宿へ帰って勉強しよう。8/15

「立ち論」という題名らしからぬタイトルでなにか書いとくれ。あんたなら立て板に水だろう、と友達からそそのかされたんで、とりあえず台所に立ってみたが、なんの考えも思い浮かばないので、あっさり投げ出してしまった。8/16

そいつは、ともかく全身がいわば抜き身をひっ下げたように、ぬううとそそり立っていて、余りにも不気味だったから、みなに懼れられたが、そのようにそそりたつことが、真剣白刃取りのように過剰な負担になっていたらしく、若くしてあっさり死んでしまった。8/16

全盛時代のイケダノブオはんは、ポップでシュールなスーパーカジュアルな洋服を発明してはお店に並べて。、人気を博してはったけど、いつのまにかブームが廃れて、日本全国何百とあった売り場は、大阪ミナミのすがれた百貨店だけになってしもうた。8/18

しかもその店でも洋服はもう販売されていない。しかし店長がかまへん、かまへん、スーパーカジュアルなウエアの代わりにスーパーカジュアルなフードを売ったらええがな。ここは食品売り場のとなりやさかい誰にも分からへんよと好意的なので鍋焼きうどんを売らせてもらっている。8/18

私は、どうしても給料だけでは食べていけなかったので、往年の大女優、吉野花子の付き人を志願して、アルバイトに励んだ。彼女は最初は迷惑そうだったが、だんだん協力してくれるようになったので、私の晩年は、それほど悲惨にならずに済んだ。8/19

講談社の新男性誌が創刊され編集長のハラダ氏から原稿を依頼されたのでしばらくしてから送稿したところ、「すんまへん、ダブルブッキングで他のライターに書かせてしまいましたあ」というメールが来たので、頭に来て彼の上司の常務に文句を言うたら、速攻ハラダは解任されちまった。8/20

有名デザイナーのアシスタントをしているヒラヤマ嬢は、毎日赤いポストの貯金箱に硬貨を入れていたが、それがなんと2800円になったと喜んでいる。「何に使うの?」と尋ねたら、「男に誘われていざという時」と頬を赤らめて答えた。8/22

別館でうち合わせしていると、銀ラメのロングドレスを着たワタナベナオミが、「巴里のスギハラさんから電話です」という。出ると「ササキさん、ブルータスの10ページをサービスしますがどうですか」といつものようにまくしたてるので、思わず笑ってしまった。8/24

私は編集者なのだが、いくら思案してもいい企画がてんで出ない。それでも苦心惨憺して野坂昭如の自伝を提案したら、「きみい、あの人はもう故人だよ。そんなことも知らないのか」と罵倒された。その故人に書かせるというのが私の企画だったのだが。8/26

没企画ばかり出していた編集者の私は、とうとう会社を首になり、まもなく死んで棺桶の中に入ったのだが、なんとそこには生前に出せなかった私の詩集が置かれていた。8/27

惑星間移動ロケット競技で金賞を貰ったのはうれしかったが、歳月人を待たず、その時すでに私は100歳になんなんとしていた。8/28

夏の終わりにマラソンをしている時、どういう訳か蚊が襲ってくるので、道端でキンチョウの蚊取り線香をじゃんじゃん燃やしていたら、放火犯と間違えられて警察に逮捕されちまった。8/29

私らは特攻に出る前に、京都名産の千枚漬けを全身にふりかけ、ねばねばした液体や昆布を擦りこんだ。「こうしておけば絶対に敵機に撃墜されないぞ」と上官がいうのである。8/30

夏のジャンボ宝籤の抽選で、なんと塩飽寿司なる貴重品が当たった。おそるおそる口にしたが、今まで食べた物の中で最高の味だった。8/31


           長崎の少年帰天し葉月尽  蝶人



   
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