鈴木志郎康著「攻勢の姿勢1958―1971」を読みて歌える
600頁もある部厚い詩集のド真ん中を開くと、
いきなり飛び出したのは、プアプアちゃん!
腰周りには、番町皿屋敷のお皿サラサラ
何枚何十枚の処女膜ぶら下げ、
「いつでも誰でもいらっしゃい」と、
いといやらしき、危なの腰付き。
きゃああ、純粋桃色小陰唇のプアプアちゃんだあ!
はじめに言葉ありき。
生の混濁とドン詰まりを、性の最先端で一点突破せんと喘ぐ詩人の口先に、
突如京の空也上人、南無阿弥陀仏の5連発のごとく、
天孫降臨城のごとく降り立ったのは、突然変異の守護神ジャンヌ・ダルク、
いやさ、売春処女にして聖処女のプアプアちゃん!
「プアプアちゃん、お元気ですか? あなたの生みの親の、お茶の水博士のような鈴木志郎康さんは、お元気ですか?」
「あーた、そんなことより、今夜のニコライ堂のイベントには行かないの? 深夜同盟暴力員会主催の『聖ニコライ堂で処女の生血を啜ろうぜい!』がそろそろ始まる頃よ」
「えっ、そんな素敵なことして、日韓談判や学費学館バリストやセレブvs貧民の階級闘争はどうなるの?」
「あーた、絶対矛盾の自己同一、知らないの? 一点突破、全面展開、知らないの。
まずは父親と母親を殺して家族帝国主義を粉砕し、父母未生以前の自己を取り戻すのよ。そのためには、みんなで処女の生き血を一升枡で汲み交わさなくちゃ」
「フマやヨシダも来るのかなぁ?」
「そんな一部のはねっかえりだけでなく、全都の学友諸君が、挙って立ち上がる記念碑的な夜なのよ。乾坤一擲、エラン・ヴィタールの爆発なのよ!」
黄金の乳房をゆらゆら揺らすプアプアちゃんの話では、純粋桃色小陰唇の処女プアプアちゃんに加えて、虎の子廃処女キイ子ちゃん、もとい路上血まみれタイガー処女キイ子ちゃん、謎の洞窟処女、私小説的老処女キキ、純粋処女魂グングンちゃんも、全員腕を組み足を踏みならしてラッタラッタラアと参加するという。
そして全員が横浜港の大桟橋からバイカル号に乗り組み、
全世界を一挙に獲得する、革命的なツアーに出るという。
全世界を横領しているツアーリどもを、ことごとく暗殺するという。
お尻ぺんぺん、プアプアちゃん。
なんという、あらましき、かつあほらしき旅立ちであることか!
プアプアちゃんは、家族帝国主義と父母未生以前の生と性への煩悶を一気に立ち截り、絶対矛盾を自己同一化することに成功したかにみえたが、それは一瞬の夢、うたかたの幻。過酷で残酷な国際政治の荒波に翻弄されて、ふたたびみたび、混沌と混迷の闇路を流離う運命にあった。
ムツグーゥーッ、
生の極まるところ、燃え盛る性の炎。
今まさに、薪に油は注がれ、
ムツグーゥーッ、
悶える十字架上の聖女、プアプア・ダルクの断末魔の叫びを聞け!
今日の次に明日という日が来ることをみんな勝手に信じているなり 蝶人