音楽千夜一夜第457回
レオン・フライシャー(1928-2020)はアメリカのピアニストで、今年の8月に90歳で癌で亡くなった。
若くしてデビューした彼は、セル指揮クリーブランド管弦楽団と組んだ数々の協奏曲の演奏で名声を博したが、1960年代に病を得て右手の自由を失い、その後はわが舘野泉氏のように左手だけで演奏を続けていたが、2000年代の治療で見事に復活し、多くのファンを喜ばせてくれた。
この23枚の廉価盤を次々に聴いていると、そんな多事多難だった演奏家の汗と涙の長い軌跡がおのずから浮かんでくるようでまっこと感慨深い。
全コンピレーションの中では、やはりセルと録れたベートーヴェンとブラームスが名演であるが、もっとも感動的なのは、癒えた左と長き労苦に耐えた右手を自在に駆使して、2003年3月31日に喜びに満ちて弾き振りしたモザールの23番の協奏曲だろう。

美枝子さんが蜜入りのお水を飲ませたら死にかけの玉虫が甦った 蝶人