照る日曇る日第1487回
今年2020年の2月に82歳で他界した、本邦を代表する作家の最後の短編集である。
この「内向」の作家のとても知的な文章は、まさしく本邦特産の正統的な私小説のそれなのだが、ちょうどブルブル震えながらも辛うじて平衡を保っていた秤の一方に、どこからともなく現れた魔物がちょいと圧を加えた途端、それまでの平和な話柄が、突如時空をぶっ飛んで異界に消えるシュルレアリスムを18番とする。
そんな、この作家独自の行き方は、本書に収められた未完に終わった「遺作」を除く「雛の春」「われもまた天に」「雨上がりの出立」の三作にもいろんな形で示され、安心してその文章世界に身を委ねることができる、プロ中のプロの消失地点を、哀しく確かめることができる。

「おばあさんどうして杖で歩いているんですか?」「ベッドから転がり落ちて足を折ったの」蝶人