私は40代半ばまでニコチン中毒症で、毎日朝から晩まで常習的に喫煙していた。中毒からの離脱は自力でできたけど、結構時間はかかったし、いろいろ悩み、苦労もした。なんとかタバコ無しでも生きていられるということを理解し、この10年は吸っていない。最近タバコの煙、すなわち副流煙のことが心配になってきた。こちらにもニコチン、タール、一酸化炭素ほか多数の発がん物質が含まれている。何より心配なのは副流煙のせいでニコチン中毒が生じてしまうかもしれないということ。そう、副流煙にはタバコの罠が仕掛けられているということに気がついたのだ。
タバコを常習的に吸っている人から吐き出される副流煙中のニコチンを常習的に吸わされていたら、吸わされるほうもニコチンを吸収してしまうということになる。主流煙(喫煙者が吸う煙)の3倍近くのニコチンが副流煙に含まれているそうだ。そうすれば、当然のことながらニコチン中毒に陥る可能性が高い。
「俺も吸ってみようかな?」そんな感じで、喫煙者の輪は広がっていく。もしかしたら、かつての私の友人で、私がきっかけとなった人がいるかもしれないと思うと、心が痛む。もしかすると、駅のホームで毎朝私の吐き出した煙をすわされていた人の中にそういう人がいたかもしれない。
「親父が吸ってるタバコ、面白そうだな」ということで、軽くニコチン中毒になっている中坊が吸う最初の1本は親父のタバコで、それが見つかって親父に殴られる。考えてみると無茶苦茶な話だが、昔は副流煙なんて気にもしていなかった。子供のいるところで、親は絶対にタバコを吸ってはいけない。時々、タバコの煙を子供に吹きかけている親がいるが、あれは虐待だ。
「あなたの吸っているタバコ、私も吸ってみたいな」私の周りの女性喫煙者がタバコを始めたきっかけは、付き合っている喫煙者の男性のタバコが最初だったという人が少なくない。そういう女性にとって、喫煙はかつて付き合っていた男のニコチン中毒という影をニコチン中毒(=喫煙者)という形で引きずっているということになる。物理的に別れていても、ニコチン中毒という形で昔の男が潜んでいるということになる。そんなことを問いただしても認める女性などほとんどいないだろうから、有無を言わさずやめてもらうように頼むか、そのことが我慢できなけれが別れたほうがいい。
友人、親族、恋人、なんでもいいけど、そういう身近な人が振りまく副流煙の中のニコチンにも中毒症状を発症するメカニズムが隠されている。
私は今ではニコチン中毒からはほぼ離脱できている、というかニコチンがなくても生きていられるが、一体いつどこでタバコに手を出してしまうことになるかいつも不安だ。一緒に飲んでいる人が喫煙者であったりすると、その人のタバコをもらいたくなる気持ちが起こらないわけではない。アルコールはニコチンとの親和性が高いので、副流煙中のニコチンがアルコールの力で体内に吸収され、さらにアルコールのせいで前頭葉機能が抑制されて気がでかくなってしまって、「一本ちょうだい」と言って、つい吸ってしまうということは十分起こりうるのだ。
今年の忘年会はあらかた終わったところだろうけど、年明けにだって酒を飲む機会はいくらでもあるので、気をつけないといけない。ニコチン中毒でない人(非喫煙者)は、副流煙のそばすなわち喫煙者のそばにどうやったら近づかないで済むかを考えたほうがいいだろう。
ニコチン無しでもあなたは生きている