日航CCU 実った客室乗務員の正社員化 今年は解雇のベテラン復職を
日本航空キャビンクルーユニオン(CCU)は、客室乗務員の全員正社員化という20年来のたたかいを実らせて年明けを迎えました。マタニティーハラスメントを是正する取り組みも、裁判を起こし、職場で前進が生まれています。今年こそは解雇されたベテラン労働者を復職させ、空の安全を守り、女性が働き続けられる職場をつくろうと決意に燃えています。(田代正則)
空の安全を守り、女性が働き続けられる職場にするため奮闘するCCU組合員たち=東京・羽田空港
4月から、日航は、客室乗務職の契約社員制度を廃止し、採用者を正社員として雇用します。在籍する契約制客室乗務員(約1100人)も正社員になります。
昨年12月15日、午後4時の報道発表を前に、会社担当者がCCU事務所に正社員化の提案文書を持ってきました。組合掲示板に、さっそく「正社員化決定!」とニュースを張り出しました。契約制客室乗務員からは「私もすぐ正社員になれるんでしょうか」と問い合わせが相次ぎました。
CCUは、航空各社が1994年に、3年で雇い止めにする契約社員制度を提案したときから、航空会社の枠を超えて連携する客室乗務員連絡会とともに、空の安全と女性が働き続けられる職場を守るために運動を起こしました。このたたかいで、契約社員を3年で正社員に転換する制度に変えました。
2013年に全日空が全員正社員化を決断し、このたび、日航でも実現しました。
現在在籍している客室乗務員は、8割が採用時に契約社員でした。3年間働いて、正社員になることで、やっと正式な入社式が行われます。契約社員時代の3年は、勤続年数から除外されます。
空の安全を守る重要な役割を果たしながら、“正社員になるまでは本当の社員ではない”と言わんばかりの扱い。雇用不安を感じながら、仕事をしなければなりませんでした。
上司からパワハラによる退職強要と雇い止めも行われ、CCUに加入した契約社員が起こした裁判で、2012年に東京高裁で日航のパワハラが認定されました。
正社員になっても初任給から再スタートとなるなど、契約社員制度が処遇を押し下げていました。日航の客室乗務員の平均年収は10年間で250万円下がり、400万円台になりました。
CCUには、これらの職場環境改善にも期待が寄せられています。
妊娠中仕事につけた 日航 マタハラ是正でも前進
日本航空の正社員化提案文書は、「育児をしながら働き続けることを支援する制度を整えるなど女性活躍を推進してきました」と会社の取り組みを説明しています。
ところが実際には、妊娠した客室乗務員に対し、無給休職を命令するというマタハラ事件を起こしています。
この間題でも、日本航空キャビンクルーユニオン(CCU)組合員の神野知子さん(40)がマタハラ是正裁判をたたかい、職場に変化をつくりだしています。
神野さんが東京地裁に提訴したのは、昨年6月でした。
客室乗務員は妊娠すると、母性保護のため、乗務することができません。日航には、妊娠中に休職するか、地上勤務に転換するかを選択できる「産前地上勤務制度」があります。
しかし、2008年、会社は「生産性の向上」を口実に、地上勤務は「会社が認める場合に限る」と規定を改悪。これ以降、地上勤務の希望を無視した無給休職の命令が乱発されるようになりました。休職中は、勤続年数にも反映されず、社員寮や社宅を利用している場合は退去となるなどの不利益があります。
整列して入廷する日航マタハラ裁判原告の神野さん(中央)と支援する人たち=2015年9月2日、東京地裁前
提訴で職場変化
神野さんが昨年8月に妊娠を確認して地上勤務を希望すると、会社は「空いているポストがない」として無給休職を命じました。泣き寝入りせずに提訴したことで職場に変化が起こりました。
9月、マタハラ是正裁判の第1回口頭弁論の直後、CCU組合員の藤原真美さん(40)が妊娠しました。藤原さんは「私も無給休職を命令されたら、神野さんに続いて追加提訴しよう」と覚悟を決めていました。しかし、会社は藤原さんのために新しいポジションをつくって、地上勤務を受け入れました。
仕事内容は、客室乗務員がフライト前の打ち合わせに使う机やいすの整理などです。
さらに、機内食で子ども用やアレルギー、宗教上の理由などによる特別食を区別するためのチェックシールをつくる仕事をはじめました。このシールは、1便に100件以上必要な場合もあり、客室乗務員が事実上のサービス残業でつくっていました。フライトに向かう客室乗務員が、藤原さんに「ありがとうございます」と感謝していきます。
藤原さんは、生活面でも助かっているといいます。「成田空港近くの社宅に住んでいます。妊娠直後の体が不安定な時期に、無給休職とあわせて社宅退去による引っ越しを強いられたら、本当に困るところでした」藤原さんのケースで、妊娠しても必要とされる仕事があることが明らかになりました。08年の制度改悪前に地上勤務を経験した客室乗務員によると、航空機の客室の設備を使いやすくする知恵出し会議など、体に負担の少ないさまざまな仕事がありました。パイロットや整備の職場の事務作業を手伝った人もいます。
働き続けられる
40代の客室乗務員は「稲盛和夫前会長が、部門別採算性を導入したために、パイロットや整備の職場などで、妊娠した客室乗務員の仕事を探す努力をしなくなったのではないでしょうか」といいます。利益最優先の稲盛経営哲学が、空の安全を脅かすだけでなく、女性にも冷たい職場をつくっているのではないか、と疑問を投げかけます。
かつては女性客室乗務員に対して、結婚退職制度や30歳定年制がありました。日航客室乗務員組合(現CCU)が空の安全には長年働いて経験を大切にする必要があるとたたかい、これらを廃止させてきました。
妊娠しても組合員が退職せずにたたかい抜き、1981年、日本初の「ママさん客室乗務員」が誕生しました。このとき、産前地上勤務制度はつくられました。
こうしたたたかいの先頭に立ってきたCCUのベテラン組合員たちは、2010年12月31日にパイロットとともに解雇されました。
国際労働機関(ILO)は昨年11月、会社と日本政府に対して、解雇者の復職に向けて「意義ある協議」を行うよう3次勧告を出しました。
CCUは、正社員化とともにマタハラと解雇事件の解決を訴え、女性が正社員として雇用され、妊娠、出産、育児をへて、定年になるまで働き続けられる職場をめざしています。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年1月8日付掲載
「結婚退職制度」や「30歳定年制」の時代から比べると、隔世の感ですね。
妊娠中に、地上勤務の仕事を用意する。わざわざつくってあげるのではなくって、もともと必要な仕事がある。
客室乗務員がフライト前の打ち合わせに使う机やいすの整理、機内食で子ども用やアレルギー、宗教上の理由などによる特別食を区別するためのチェックシールをつくる仕事。
闘いの中でこそ勝ち取った成果。
日本航空キャビンクルーユニオン(CCU)は、客室乗務員の全員正社員化という20年来のたたかいを実らせて年明けを迎えました。マタニティーハラスメントを是正する取り組みも、裁判を起こし、職場で前進が生まれています。今年こそは解雇されたベテラン労働者を復職させ、空の安全を守り、女性が働き続けられる職場をつくろうと決意に燃えています。(田代正則)
空の安全を守り、女性が働き続けられる職場にするため奮闘するCCU組合員たち=東京・羽田空港
4月から、日航は、客室乗務職の契約社員制度を廃止し、採用者を正社員として雇用します。在籍する契約制客室乗務員(約1100人)も正社員になります。
昨年12月15日、午後4時の報道発表を前に、会社担当者がCCU事務所に正社員化の提案文書を持ってきました。組合掲示板に、さっそく「正社員化決定!」とニュースを張り出しました。契約制客室乗務員からは「私もすぐ正社員になれるんでしょうか」と問い合わせが相次ぎました。
CCUは、航空各社が1994年に、3年で雇い止めにする契約社員制度を提案したときから、航空会社の枠を超えて連携する客室乗務員連絡会とともに、空の安全と女性が働き続けられる職場を守るために運動を起こしました。このたたかいで、契約社員を3年で正社員に転換する制度に変えました。
2013年に全日空が全員正社員化を決断し、このたび、日航でも実現しました。
現在在籍している客室乗務員は、8割が採用時に契約社員でした。3年間働いて、正社員になることで、やっと正式な入社式が行われます。契約社員時代の3年は、勤続年数から除外されます。
空の安全を守る重要な役割を果たしながら、“正社員になるまでは本当の社員ではない”と言わんばかりの扱い。雇用不安を感じながら、仕事をしなければなりませんでした。
上司からパワハラによる退職強要と雇い止めも行われ、CCUに加入した契約社員が起こした裁判で、2012年に東京高裁で日航のパワハラが認定されました。
正社員になっても初任給から再スタートとなるなど、契約社員制度が処遇を押し下げていました。日航の客室乗務員の平均年収は10年間で250万円下がり、400万円台になりました。
CCUには、これらの職場環境改善にも期待が寄せられています。
妊娠中仕事につけた 日航 マタハラ是正でも前進
日本航空の正社員化提案文書は、「育児をしながら働き続けることを支援する制度を整えるなど女性活躍を推進してきました」と会社の取り組みを説明しています。
ところが実際には、妊娠した客室乗務員に対し、無給休職を命令するというマタハラ事件を起こしています。
この間題でも、日本航空キャビンクルーユニオン(CCU)組合員の神野知子さん(40)がマタハラ是正裁判をたたかい、職場に変化をつくりだしています。
神野さんが東京地裁に提訴したのは、昨年6月でした。
客室乗務員は妊娠すると、母性保護のため、乗務することができません。日航には、妊娠中に休職するか、地上勤務に転換するかを選択できる「産前地上勤務制度」があります。
しかし、2008年、会社は「生産性の向上」を口実に、地上勤務は「会社が認める場合に限る」と規定を改悪。これ以降、地上勤務の希望を無視した無給休職の命令が乱発されるようになりました。休職中は、勤続年数にも反映されず、社員寮や社宅を利用している場合は退去となるなどの不利益があります。
整列して入廷する日航マタハラ裁判原告の神野さん(中央)と支援する人たち=2015年9月2日、東京地裁前
提訴で職場変化
神野さんが昨年8月に妊娠を確認して地上勤務を希望すると、会社は「空いているポストがない」として無給休職を命じました。泣き寝入りせずに提訴したことで職場に変化が起こりました。
9月、マタハラ是正裁判の第1回口頭弁論の直後、CCU組合員の藤原真美さん(40)が妊娠しました。藤原さんは「私も無給休職を命令されたら、神野さんに続いて追加提訴しよう」と覚悟を決めていました。しかし、会社は藤原さんのために新しいポジションをつくって、地上勤務を受け入れました。
仕事内容は、客室乗務員がフライト前の打ち合わせに使う机やいすの整理などです。
さらに、機内食で子ども用やアレルギー、宗教上の理由などによる特別食を区別するためのチェックシールをつくる仕事をはじめました。このシールは、1便に100件以上必要な場合もあり、客室乗務員が事実上のサービス残業でつくっていました。フライトに向かう客室乗務員が、藤原さんに「ありがとうございます」と感謝していきます。
藤原さんは、生活面でも助かっているといいます。「成田空港近くの社宅に住んでいます。妊娠直後の体が不安定な時期に、無給休職とあわせて社宅退去による引っ越しを強いられたら、本当に困るところでした」藤原さんのケースで、妊娠しても必要とされる仕事があることが明らかになりました。08年の制度改悪前に地上勤務を経験した客室乗務員によると、航空機の客室の設備を使いやすくする知恵出し会議など、体に負担の少ないさまざまな仕事がありました。パイロットや整備の職場の事務作業を手伝った人もいます。
働き続けられる
40代の客室乗務員は「稲盛和夫前会長が、部門別採算性を導入したために、パイロットや整備の職場などで、妊娠した客室乗務員の仕事を探す努力をしなくなったのではないでしょうか」といいます。利益最優先の稲盛経営哲学が、空の安全を脅かすだけでなく、女性にも冷たい職場をつくっているのではないか、と疑問を投げかけます。
かつては女性客室乗務員に対して、結婚退職制度や30歳定年制がありました。日航客室乗務員組合(現CCU)が空の安全には長年働いて経験を大切にする必要があるとたたかい、これらを廃止させてきました。
妊娠しても組合員が退職せずにたたかい抜き、1981年、日本初の「ママさん客室乗務員」が誕生しました。このとき、産前地上勤務制度はつくられました。
こうしたたたかいの先頭に立ってきたCCUのベテラン組合員たちは、2010年12月31日にパイロットとともに解雇されました。
国際労働機関(ILO)は昨年11月、会社と日本政府に対して、解雇者の復職に向けて「意義ある協議」を行うよう3次勧告を出しました。
CCUは、正社員化とともにマタハラと解雇事件の解決を訴え、女性が正社員として雇用され、妊娠、出産、育児をへて、定年になるまで働き続けられる職場をめざしています。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年1月8日付掲載
「結婚退職制度」や「30歳定年制」の時代から比べると、隔世の感ですね。
妊娠中に、地上勤務の仕事を用意する。わざわざつくってあげるのではなくって、もともと必要な仕事がある。
客室乗務員がフライト前の打ち合わせに使う机やいすの整理、機内食で子ども用やアレルギー、宗教上の理由などによる特別食を区別するためのチェックシールをつくる仕事。
闘いの中でこそ勝ち取った成果。