立憲主義考② 「個人」―「個」=「人」? 人権思想を否定する自民草案
立憲主義は形式的な政治のルールにとどまらず、「個人の尊厳」を中核とする人権保障のシステムです。
その根本思想を表すのが日本国憲法97条の「人権の永久不可侵」の宣言や、13条の「個人の尊重」原理、そして憲法前文の「わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保」という言葉です。
自民党の「憲法改正草案」
12年4月に改憲草案を発表した谷垣禎一総裁(当時)
■1字を削る
驚くべき事実があります。2012年に自民党がまとめた改憲草案です。
同改憲案では、97条を全面「削除」。同時に、「個人の尊重」を定めた13条の「個人」という言葉から、わざわざ「個」の1字を取り除き、「人として尊重される」としています。まさに立憲主義の核心を全面否定しているのです。
『自民党改憲草案Q&A』では、「人権規定も、我が国の歴史、文化、伝統を踏まえたものであることも必要」とし、「天賦人権説に基づく規定振りを全面的に見直し(た)」と宣言しています。
97条の人権思想はまさに、人が人である以上、当然に認められる権利として人権を保障するという「天賦人権説」を受け継ぐもの。自民党は97条を思想的背景とともに根こそぎ否定するのです。
13条の「個人の尊重」も、人は一人ひとり個性と固有の人格をもち、その人らしさを大事にしなければならないというものです。抽象的な「人」、猿や猫ではない“種”としての「人」として“尊重”されるというものではありません。「個人の尊重」から、平等原則、思想・良心の自由、表現の自由、移動の自由などの諸人権が派生します。
安倍政権と自民党の立憲主義破壊は、立憲主義の根本思想まで正面から否定する確信犯です。
■憲法前文は
もう一つ重大な問題があります。
憲法前文には、国民主権、人権保障、平和主義などの諸原理の宣言に続き、「(これらは)人類普遍の原理であり…われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」という一節があります。「憲法改正禁止規範」と呼ばれます。
「個人の尊厳」を中核とする憲法の根本原理=「人類普遍の原理」に反する「改正」はできない―。まさに自民党改憲案のような「改正」は許されないとしているのです。
「改正」にも限界がある。例えば「奴隷制の復活を許す」という「改正」が許されないのは当然です。憲法制定の根本目的が、「憲法改正」権を制限するとも説明されます。
立憲主義は、この点でも形式的に憲法に合致した政治にとどまらず、個人の尊重という根本原理をあらわすものです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年1月10日付掲載
「個人の尊重」から「人として尊重」へ。ただ単に「個」の一字を削ったわけではない。一人ひとりのオンリーワン、個性と人格を無視することにつながります。
立憲主義は形式的な政治のルールにとどまらず、「個人の尊厳」を中核とする人権保障のシステムです。
その根本思想を表すのが日本国憲法97条の「人権の永久不可侵」の宣言や、13条の「個人の尊重」原理、そして憲法前文の「わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保」という言葉です。
自民党の「憲法改正草案」
12年4月に改憲草案を発表した谷垣禎一総裁(当時)
■1字を削る
驚くべき事実があります。2012年に自民党がまとめた改憲草案です。
同改憲案では、97条を全面「削除」。同時に、「個人の尊重」を定めた13条の「個人」という言葉から、わざわざ「個」の1字を取り除き、「人として尊重される」としています。まさに立憲主義の核心を全面否定しているのです。
『自民党改憲草案Q&A』では、「人権規定も、我が国の歴史、文化、伝統を踏まえたものであることも必要」とし、「天賦人権説に基づく規定振りを全面的に見直し(た)」と宣言しています。
97条の人権思想はまさに、人が人である以上、当然に認められる権利として人権を保障するという「天賦人権説」を受け継ぐもの。自民党は97条を思想的背景とともに根こそぎ否定するのです。
13条の「個人の尊重」も、人は一人ひとり個性と固有の人格をもち、その人らしさを大事にしなければならないというものです。抽象的な「人」、猿や猫ではない“種”としての「人」として“尊重”されるというものではありません。「個人の尊重」から、平等原則、思想・良心の自由、表現の自由、移動の自由などの諸人権が派生します。
安倍政権と自民党の立憲主義破壊は、立憲主義の根本思想まで正面から否定する確信犯です。
■憲法前文は
もう一つ重大な問題があります。
憲法前文には、国民主権、人権保障、平和主義などの諸原理の宣言に続き、「(これらは)人類普遍の原理であり…われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」という一節があります。「憲法改正禁止規範」と呼ばれます。
「個人の尊厳」を中核とする憲法の根本原理=「人類普遍の原理」に反する「改正」はできない―。まさに自民党改憲案のような「改正」は許されないとしているのです。
「改正」にも限界がある。例えば「奴隷制の復活を許す」という「改正」が許されないのは当然です。憲法制定の根本目的が、「憲法改正」権を制限するとも説明されます。
立憲主義は、この点でも形式的に憲法に合致した政治にとどまらず、個人の尊重という根本原理をあらわすものです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年1月10日付掲載
「個人の尊重」から「人として尊重」へ。ただ単に「個」の一字を削ったわけではない。一人ひとりのオンリーワン、個性と人格を無視することにつながります。