「経済の好循環」に背を向ける 経団連「経労委報告」を読む① 搾取強化のイデオロギー
経団連が1月19日に発表した、春闘の経営側指針である「経営労働政策特別委員会報告」について、労働運動総合研究所(労働総研)顧問の牧野富夫さんに分析を寄せてもらいました。
労働総研顧問 牧野富夫さん
先般、経団連の春闘方針=「経営労働政策特別委員会報告」(以下「報告」)が公表されました。副題は「人口減少下での経済の好循環と企業の持続的成長の実現」となっています。人口減少という厳しい情勢下で、なんとしても「経済の好循環」を回し、企業の持続的成長を実現させたい、これが副題の含意でしょう。
政財の蜜月時代
安倍政権の「新3本の矢」の一つである「GDP600兆円」が、その先に想定されていることは、つぎの経団連会長の発言からも明らかです。
経団連の榊原定征会長は「報告」の序文で、「政府が達成しようとしている日本の将来の姿は、経団連ビジョン(「『豊かで活力ある日本』の再生」2015年1月1日発表)で提示した、2030年までに目指すべき国家像と多くの面で一致して(いる)」と述べています。安倍政権の「新3本の矢」は、基本的に経団連ビジョンのコピーですから、それを経団連が高く評価すると自画自賛になってしまいます。
「報告」は3章構成です。第1章のタイトルは「多様な人材の活躍と働き方改革によるイノベーションの創出」です。安倍政権の「1億総活躍社会」と重なります。企業を成長させるには労働力の「量」と「質」の両面からの確保・維持が不可欠だとして、女性・若者・高齢者・障害者・外国人など「多様な人材の活躍推進」が不可欠だとされています。戦時下の「国家総動員法」を想起させます。
第2章は「雇用・労働における政策的な課題」です。「働き方・休み方の改革推進」に役立つ労働基準法「改正」案や、「改正」労働者派遣法への対応が示されています。残業代ゼロ制度導入をにらんで、「労働時間と成果とが必ずしも比例しない仕事が増加するなか、労働時間に比例して成果も上がる労働を前提とした現行の労働時間規制に替わる新たな仕組みが求められている」としています。いずれも「生産性向上の基盤整備」に収斂(しゅうれん)する問題です。
第3章は「2016年春季労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢」であり、「労使パートナーシップ対話」促進の重要性が強調されています。この章のテーマは春闘賃上げですから、次回(中)、くわしく論評します。
「パイの理論」で
以上からこの「報告」は、「GDP600兆円」という経団連と安倍政権の「共同目標」を展望し、「経済の好循環」と「企業の持続的成長」を実現するには今春闘で何をなすべきか、という中長期の視点で作成されていると読み取れます。そうであっても、基本=「哲学」は日経連時代の「報告」いらい一貫しています。ベースに「パイの理論」が鎮座しています。
この「理論」は、労使が協調して生産性を上げれば、パイ(付加価値)が大きくなり、パイの労使への分配も増え、労使ウイン-ウインの関係となる、というものです。ゆえに、この「理論」は生産性向上に貢献し、労使協調主義を培養し、搾取強化に役立つイデオロギーです。
この「理論」は、労使がたたかうこと=春闘は生産性向上に有害なもの・阻害要因として排除されます。ですから、「報告」に春闘という表現・言葉は一つもありません。すべて「春季労使交渉・協議」と言い換えられています。言葉を忌避しているだけではありません。経団連は、たたかう労働組合・ナショナルセンターも忌避し、忌み嫌います。忌避されるのはまともな労働組合の証しであり、名誉なことです。
ふり返って、労働者・労働組合がストをかまえ意気高くたたかっていた時代には春闘で大幅賃上げが続きました。労働運動の一潮流が財界と仲良くなってからは「管理春闘」が支配し、労働側の連敗が続いています。歴史の教えは明快です。(つづく、3回連載)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月4日付掲載
「多様な人材の活躍と働き方」と聞くと良い様に聞こえますが、要は派遣労働と高齢者などの安価な労働力の活用。
そして、現役労働者には、昔ながらの「パイの理論」で賃金の押さえつけ。
経団連が1月19日に発表した、春闘の経営側指針である「経営労働政策特別委員会報告」について、労働運動総合研究所(労働総研)顧問の牧野富夫さんに分析を寄せてもらいました。
労働総研顧問 牧野富夫さん
先般、経団連の春闘方針=「経営労働政策特別委員会報告」(以下「報告」)が公表されました。副題は「人口減少下での経済の好循環と企業の持続的成長の実現」となっています。人口減少という厳しい情勢下で、なんとしても「経済の好循環」を回し、企業の持続的成長を実現させたい、これが副題の含意でしょう。
政財の蜜月時代
安倍政権の「新3本の矢」の一つである「GDP600兆円」が、その先に想定されていることは、つぎの経団連会長の発言からも明らかです。
経団連の榊原定征会長は「報告」の序文で、「政府が達成しようとしている日本の将来の姿は、経団連ビジョン(「『豊かで活力ある日本』の再生」2015年1月1日発表)で提示した、2030年までに目指すべき国家像と多くの面で一致して(いる)」と述べています。安倍政権の「新3本の矢」は、基本的に経団連ビジョンのコピーですから、それを経団連が高く評価すると自画自賛になってしまいます。
「報告」は3章構成です。第1章のタイトルは「多様な人材の活躍と働き方改革によるイノベーションの創出」です。安倍政権の「1億総活躍社会」と重なります。企業を成長させるには労働力の「量」と「質」の両面からの確保・維持が不可欠だとして、女性・若者・高齢者・障害者・外国人など「多様な人材の活躍推進」が不可欠だとされています。戦時下の「国家総動員法」を想起させます。
第2章は「雇用・労働における政策的な課題」です。「働き方・休み方の改革推進」に役立つ労働基準法「改正」案や、「改正」労働者派遣法への対応が示されています。残業代ゼロ制度導入をにらんで、「労働時間と成果とが必ずしも比例しない仕事が増加するなか、労働時間に比例して成果も上がる労働を前提とした現行の労働時間規制に替わる新たな仕組みが求められている」としています。いずれも「生産性向上の基盤整備」に収斂(しゅうれん)する問題です。
第3章は「2016年春季労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢」であり、「労使パートナーシップ対話」促進の重要性が強調されています。この章のテーマは春闘賃上げですから、次回(中)、くわしく論評します。
「パイの理論」で
以上からこの「報告」は、「GDP600兆円」という経団連と安倍政権の「共同目標」を展望し、「経済の好循環」と「企業の持続的成長」を実現するには今春闘で何をなすべきか、という中長期の視点で作成されていると読み取れます。そうであっても、基本=「哲学」は日経連時代の「報告」いらい一貫しています。ベースに「パイの理論」が鎮座しています。
この「理論」は、労使が協調して生産性を上げれば、パイ(付加価値)が大きくなり、パイの労使への分配も増え、労使ウイン-ウインの関係となる、というものです。ゆえに、この「理論」は生産性向上に貢献し、労使協調主義を培養し、搾取強化に役立つイデオロギーです。
この「理論」は、労使がたたかうこと=春闘は生産性向上に有害なもの・阻害要因として排除されます。ですから、「報告」に春闘という表現・言葉は一つもありません。すべて「春季労使交渉・協議」と言い換えられています。言葉を忌避しているだけではありません。経団連は、たたかう労働組合・ナショナルセンターも忌避し、忌み嫌います。忌避されるのはまともな労働組合の証しであり、名誉なことです。
ふり返って、労働者・労働組合がストをかまえ意気高くたたかっていた時代には春闘で大幅賃上げが続きました。労働運動の一潮流が財界と仲良くなってからは「管理春闘」が支配し、労働側の連敗が続いています。歴史の教えは明快です。(つづく、3回連載)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月4日付掲載
「多様な人材の活躍と働き方」と聞くと良い様に聞こえますが、要は派遣労働と高齢者などの安価な労働力の活用。
そして、現役労働者には、昔ながらの「パイの理論」で賃金の押さえつけ。