軍事依存経済 宇宙編⑦ 働きかけたのは経団連
安倍政権が定めた長期的な宇宙基本計画に、軍需産業界は色めき立ちました。三菱電機の下村節宏相談役(経団連宇宙開発利用推進委員長)は、すかさず賛辞を送りました。
「宇宙産業基盤の強化にもつながるものとして評価できる」(月刊『経団連』2015年1月号)
軍事スパイ衛星(情報収集衛星)や準天頂衛星を製造する三菱電機は、宇宙分野の中核的な軍需企業です。
下村氏は、今後10年間の宇宙事業規模を「累計5兆円」に引き上げるという安倍政権の長期計画を高く評価しました。「重要課題」の「第一」に「安全保障の強化」をあげ、「米国との宇宙協力を推進すべきである」と迫りました。
「経団連では今後とも、わが国の宇宙開発利用の推進に向けた方策を実現するため、関係各方面と連携して働きかけを行っていく」
実際、宇宙の平和利用原則を覆して軍事利用を進めるよう働きかけ、実現させてきたのは経団連でした。
情報・通信の国際展示会シーテックに出展された準天頂衛星の模型=2015年10月、千葉県幕張メッセ
産業化推進要求
バブル崩壊後の1998年に出した提言で経団連は「わが国の宇宙開発はこれまでのところ比較的順調に進展」していると胸を張り、宇宙で将来の利益を確保する戦略を打ち出しました。
「経済が低迷しているこの時期にこそ、将来への布石として技術および新産業を創出する基盤となる宇宙開発を一層推進すべきである」(7月7日「わが国の宇宙開発・利用および産業化の推進を望む」)
2001年には「準天頂衛星システムの開発着手」を提言し、「関係方面に積極的な働き掛け」を展開しました。「その結果、政府において、関連省庁・公的研究機関・産業界からなる協議会が設置され」たといいます(02年7月「『準天頂衛星システム推進検討会』の新設について」)。
ところが05年、一転して苦境を訴えます。
「予算の削減により、宇宙産業は危機的状況」「競争力の低下が憂慮される事態」(3月2日「第3期科学技術基本計画に対する要望」)
この中で前面に押し出したのが、軍事の分野でした。宇宙技術は「総合的な安全保障を確立するためにも必須の技術」だと強調し、「国の取り組みを抜本的に強化すべきである」と迫ったのです。
国会決議が障害
06年には憲法に基づく平和利用原則を激しく攻撃しました。
「安全保障への活用」の「障害の一つとなっているのが、わが国の宇宙利用を『非軍事』に限定した1969年の宇宙の平和利用に関する国会決議である」(6月20日「わが国の宇宙開発利用推進に向けた提言」)。
この障害を打破するためには「『宇宙基本法』の策定が必要である」と、新たな法律の制定まで求めました。
07年にはさらに踏み込み、「宇宙基本法に期待される最重要課題」(7月17日「宇宙新時代の幕開けと宇宙産業の国際競争力強化を目指して」)をあげました。「第一」は宇宙政策の「一元的な実施体制」の構築。「第二」は「宇宙開発のあり方を規定している国会決議の見直し」です。
こうした働きかけを受けて08年、「安全保障に資する」目的を掲げた宇宙基本法が制定されたのです。
09年以降、経団連提言の重点は軍事利用の具体策に移ります。弾道ミサイルの発射を探知する早・期警戒衛星を「開発・整備することを明確にすべきである」。準天頂衛星については「将来の7機体制の構築の実現を明確にすべきである」(5月18日「宇宙基本計画に関する意見」)といった具合です。
14年には「政府の長期的かつ具体的な宇宙開発利用の工程表がなく、産業界が投資の予見可能性を高められないことが大きな問題」(11月18日「宇宙基本計画に向けた提言」)だと注文を付けました。
「投資の予見可能性」に配慮した安倍政権の長期的な宇宙基本計画は、経団連の言葉遣いまで引き写し、軍需産業界の欲望に気前よく応えたものなのです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月18日付掲載
財界の圧力に負け、「宇宙利用を『非軍事』に限定」した国会決議さえ反故にして、「安全保障」へ道を開いた「宇宙基本法」を制定。
準天頂衛星などの軍事衛星打ち上げ。既成事実を積み上げています。
安倍政権が定めた長期的な宇宙基本計画に、軍需産業界は色めき立ちました。三菱電機の下村節宏相談役(経団連宇宙開発利用推進委員長)は、すかさず賛辞を送りました。
「宇宙産業基盤の強化にもつながるものとして評価できる」(月刊『経団連』2015年1月号)
軍事スパイ衛星(情報収集衛星)や準天頂衛星を製造する三菱電機は、宇宙分野の中核的な軍需企業です。
下村氏は、今後10年間の宇宙事業規模を「累計5兆円」に引き上げるという安倍政権の長期計画を高く評価しました。「重要課題」の「第一」に「安全保障の強化」をあげ、「米国との宇宙協力を推進すべきである」と迫りました。
「経団連では今後とも、わが国の宇宙開発利用の推進に向けた方策を実現するため、関係各方面と連携して働きかけを行っていく」
実際、宇宙の平和利用原則を覆して軍事利用を進めるよう働きかけ、実現させてきたのは経団連でした。
情報・通信の国際展示会シーテックに出展された準天頂衛星の模型=2015年10月、千葉県幕張メッセ
産業化推進要求
バブル崩壊後の1998年に出した提言で経団連は「わが国の宇宙開発はこれまでのところ比較的順調に進展」していると胸を張り、宇宙で将来の利益を確保する戦略を打ち出しました。
「経済が低迷しているこの時期にこそ、将来への布石として技術および新産業を創出する基盤となる宇宙開発を一層推進すべきである」(7月7日「わが国の宇宙開発・利用および産業化の推進を望む」)
2001年には「準天頂衛星システムの開発着手」を提言し、「関係方面に積極的な働き掛け」を展開しました。「その結果、政府において、関連省庁・公的研究機関・産業界からなる協議会が設置され」たといいます(02年7月「『準天頂衛星システム推進検討会』の新設について」)。
ところが05年、一転して苦境を訴えます。
「予算の削減により、宇宙産業は危機的状況」「競争力の低下が憂慮される事態」(3月2日「第3期科学技術基本計画に対する要望」)
この中で前面に押し出したのが、軍事の分野でした。宇宙技術は「総合的な安全保障を確立するためにも必須の技術」だと強調し、「国の取り組みを抜本的に強化すべきである」と迫ったのです。
国会決議が障害
06年には憲法に基づく平和利用原則を激しく攻撃しました。
「安全保障への活用」の「障害の一つとなっているのが、わが国の宇宙利用を『非軍事』に限定した1969年の宇宙の平和利用に関する国会決議である」(6月20日「わが国の宇宙開発利用推進に向けた提言」)。
この障害を打破するためには「『宇宙基本法』の策定が必要である」と、新たな法律の制定まで求めました。
07年にはさらに踏み込み、「宇宙基本法に期待される最重要課題」(7月17日「宇宙新時代の幕開けと宇宙産業の国際競争力強化を目指して」)をあげました。「第一」は宇宙政策の「一元的な実施体制」の構築。「第二」は「宇宙開発のあり方を規定している国会決議の見直し」です。
こうした働きかけを受けて08年、「安全保障に資する」目的を掲げた宇宙基本法が制定されたのです。
09年以降、経団連提言の重点は軍事利用の具体策に移ります。弾道ミサイルの発射を探知する早・期警戒衛星を「開発・整備することを明確にすべきである」。準天頂衛星については「将来の7機体制の構築の実現を明確にすべきである」(5月18日「宇宙基本計画に関する意見」)といった具合です。
14年には「政府の長期的かつ具体的な宇宙開発利用の工程表がなく、産業界が投資の予見可能性を高められないことが大きな問題」(11月18日「宇宙基本計画に向けた提言」)だと注文を付けました。
「投資の予見可能性」に配慮した安倍政権の長期的な宇宙基本計画は、経団連の言葉遣いまで引き写し、軍需産業界の欲望に気前よく応えたものなのです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月18日付掲載
財界の圧力に負け、「宇宙利用を『非軍事』に限定」した国会決議さえ反故にして、「安全保障」へ道を開いた「宇宙基本法」を制定。
準天頂衛星などの軍事衛星打ち上げ。既成事実を積み上げています。