「経済の好循環」に背を向ける 経団連「経労委報告」を読む③ 内部留保 社会的活用を
労働総研顧問 牧野富夫さん
大企業は2年続けて史上最高の利益を上げへ内部留保がここ3年で38兆円も増え、ついに300兆円を超えました。労働者・労働組合などが内部留保の一部(数パーセント)を社会保障や賃上げに回すように要求していますが、企業はそうした要求に耳を貸さず、ひたすらその積み上げを増大させています。
無見識の総本山
利潤の極大化を本質とする個別企業・個別資本ならいざ知らず、企業とくに大企業・財界の総本山である経団連は、日本経済の全体を見渡し高い立場から物事を判断し個別企業を指南するなど総資本としての見識・矜持(きょうじ)を有する存在のはずです。
一般論ではなく、経団連は「報告」でも「経済の好循環」を強く求めています。そうであれば、大幅賃上げと社会保障の拡充という対策が待ったなしです。労働者の生活が直接賃金(企業などが支払う賃金)と間接賃金(社会保障などの公的サービス)の二つで支えられているからです。
ここを温めれば、必ず内需が増えます。内需が増えれば、企業の投資も増えます。投資が増えれば雇用も増え、賃金も増えるという「経済の好循環」が回りだすのは必定です。
このような好循環を予見して、経団連が傘下の企業その他に内部留保の活用を強いリーダーシップを発揮して呼びかけるべきです。それでこそ経団連です。そう思うだけに「報告」での言説には驚きを禁じえません。引用します。
「わが国企業全体の内部留保が増加していることを捉えて、それを原資とした賃金引上げを求める主張がある…企業経営者は、内部留保が持続的成長・競争力の強化に不可欠な『成長投資』のための貴重な原資であることを積極的に発信することで、内部留保をめぐる誤解を解くとともに、正しい理解を求める努力を一層行っていく必要がある」
これを読むと、膨大な内部留保を正当化したうえ、労働組合などが内部留保のすべてを賃金の引き上げなどに回せ、と要求しているかのようにゆがめています。そのような要求・提言をした労働組合や政党はありません。ありもしない要求を捏造(ねつぞう)し、それを口実に正当で控えめな要求を退ける経団連に財界の総本山としての役割を期待することはできません。
経団連が「報告」を公表した翌日(1月20日)、労働総研(労働運動総合研究所)が提言を発表しています。それは「これ以上内部留保を増やさないだけで月額5万9000円の賃上げが可能」というものです。
その提言は、安倍政権で悪化した生活を、それ以前に戻すには6・13%(1万9224円)の賃上げが必要だとして、それには内部留保を取り崩すまでもなく、これ以上内部留保を増やさない経営にするだけで、月5万9000円の賃上げが可能になると算定している。
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経団連会館に向かいシュプレヒコールする16春闘闘争宣言行動の参加者=1月13日、東京都千代田区
新しい国民春闘
かたくなな経団連を相手に、内部留保の活用に関する交渉をしてもらちが明かないことがはっきりしました。いままさに春闘の真っただ中です。ここを舞台に、内部留保活用の一点共闘を起こし、これを市民運動としても発展させ、労働運動も参加していく、ということになれば「新しい国民春闘」の実質的なスタートになるでしょう。
「新しい国民春闘」は市民参加の文字通りの国民春闘なのです。ここに内部留保の活用を要求として掲げるとすれば、直接賃金でなく、社会保障・教育関連など間接賃金にウエイトをおくべきでしょう。
将来的に拡充すべきは直接賃金以上に間接賃金であること(労働力の再生産費の社会化)、また企業規模でも差が大きい内部留保の直接賃金への還元には困難が多いことからも間接賃金重点で追求すべきでしょう。
こうした問題はなおこれから深めるとして、異常なまでに積み上げられた内部留保の社会的活用の問題は、国民的なたたかいのテーマに十分なりうるはずですし、意識的に追求すべきです。頑迷な経団連や安倍政権を動かすことができるのは反戦争法で燃え上がっているような大きな社会的なパワーだと思います。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月6日付掲載
経団連が傘下の企業その他に内部留保の活用を強いリーダーシップを発揮して呼びかけるべき。
日本経済の全体を見渡し高い立場から物事を判断し個別企業を指南するなど総資本としての見識・矜持(きょうじ)を有する存在のはず。
そういう見方をしたことはありませんでしたが…。国民と労働者の闘いで、そうせざるをえないようにさせていきましょう。
労働総研顧問 牧野富夫さん
大企業は2年続けて史上最高の利益を上げへ内部留保がここ3年で38兆円も増え、ついに300兆円を超えました。労働者・労働組合などが内部留保の一部(数パーセント)を社会保障や賃上げに回すように要求していますが、企業はそうした要求に耳を貸さず、ひたすらその積み上げを増大させています。
無見識の総本山
利潤の極大化を本質とする個別企業・個別資本ならいざ知らず、企業とくに大企業・財界の総本山である経団連は、日本経済の全体を見渡し高い立場から物事を判断し個別企業を指南するなど総資本としての見識・矜持(きょうじ)を有する存在のはずです。
一般論ではなく、経団連は「報告」でも「経済の好循環」を強く求めています。そうであれば、大幅賃上げと社会保障の拡充という対策が待ったなしです。労働者の生活が直接賃金(企業などが支払う賃金)と間接賃金(社会保障などの公的サービス)の二つで支えられているからです。
ここを温めれば、必ず内需が増えます。内需が増えれば、企業の投資も増えます。投資が増えれば雇用も増え、賃金も増えるという「経済の好循環」が回りだすのは必定です。
このような好循環を予見して、経団連が傘下の企業その他に内部留保の活用を強いリーダーシップを発揮して呼びかけるべきです。それでこそ経団連です。そう思うだけに「報告」での言説には驚きを禁じえません。引用します。
「わが国企業全体の内部留保が増加していることを捉えて、それを原資とした賃金引上げを求める主張がある…企業経営者は、内部留保が持続的成長・競争力の強化に不可欠な『成長投資』のための貴重な原資であることを積極的に発信することで、内部留保をめぐる誤解を解くとともに、正しい理解を求める努力を一層行っていく必要がある」
これを読むと、膨大な内部留保を正当化したうえ、労働組合などが内部留保のすべてを賃金の引き上げなどに回せ、と要求しているかのようにゆがめています。そのような要求・提言をした労働組合や政党はありません。ありもしない要求を捏造(ねつぞう)し、それを口実に正当で控えめな要求を退ける経団連に財界の総本山としての役割を期待することはできません。
経団連が「報告」を公表した翌日(1月20日)、労働総研(労働運動総合研究所)が提言を発表しています。それは「これ以上内部留保を増やさないだけで月額5万9000円の賃上げが可能」というものです。
その提言は、安倍政権で悪化した生活を、それ以前に戻すには6・13%(1万9224円)の賃上げが必要だとして、それには内部留保を取り崩すまでもなく、これ以上内部留保を増やさない経営にするだけで、月5万9000円の賃上げが可能になると算定している。
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経団連会館に向かいシュプレヒコールする16春闘闘争宣言行動の参加者=1月13日、東京都千代田区
新しい国民春闘
かたくなな経団連を相手に、内部留保の活用に関する交渉をしてもらちが明かないことがはっきりしました。いままさに春闘の真っただ中です。ここを舞台に、内部留保活用の一点共闘を起こし、これを市民運動としても発展させ、労働運動も参加していく、ということになれば「新しい国民春闘」の実質的なスタートになるでしょう。
「新しい国民春闘」は市民参加の文字通りの国民春闘なのです。ここに内部留保の活用を要求として掲げるとすれば、直接賃金でなく、社会保障・教育関連など間接賃金にウエイトをおくべきでしょう。
将来的に拡充すべきは直接賃金以上に間接賃金であること(労働力の再生産費の社会化)、また企業規模でも差が大きい内部留保の直接賃金への還元には困難が多いことからも間接賃金重点で追求すべきでしょう。
こうした問題はなおこれから深めるとして、異常なまでに積み上げられた内部留保の社会的活用の問題は、国民的なたたかいのテーマに十分なりうるはずですし、意識的に追求すべきです。頑迷な経団連や安倍政権を動かすことができるのは反戦争法で燃え上がっているような大きな社会的なパワーだと思います。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月6日付掲載
経団連が傘下の企業その他に内部留保の活用を強いリーダーシップを発揮して呼びかけるべき。
日本経済の全体を見渡し高い立場から物事を判断し個別企業を指南するなど総資本としての見識・矜持(きょうじ)を有する存在のはず。
そういう見方をしたことはありませんでしたが…。国民と労働者の闘いで、そうせざるをえないようにさせていきましょう。