軍事依存経済 宇宙編⑥ 軍需産業が乗っ取った
「設備増強計画を立て始めた企業もある」
安倍政権の宇宙基本計画(2015年1月)で、日本の産業界がいかに活気付いたか。内閣府宇宙戦略室の小宮義則室長は熱を込めて話します。
「すごいよ、これは。政府の衛星がいつ何発上がるか見えたので、設備や技術開発や人に投資できるようになったと聞いています」
10年間で5兆円
宇宙基本計画は「今後20年程度を見据えた10年間の長期整備計画」です。前回計画(13年1月)が10年先を視野に入れた5年計画だったのに対し、期間を2倍に延ばしたのです。理由は「産業界の投資の『予見可能性』を高め、産業基盤を強化するため」です。
しかも「宇宙産業基盤」の「強化」が「喫緊の課題」である理由として、「我が国の安全保障上の宇宙の重要性が著しく増大している」ことをあげました。軍需産業の強化をめざす思惑があらわです。
さらには、「我が国の宇宙機器産業の事業規模として10年間で官民合わせて累計5兆円」をめざすと強調。前回計画時に宇宙関係予算が毎年度約3千億円の「横ばいで推移」していたのに対し、民需を含めて年平均5千億円規模へと拡大する目標を掲げました。
宇宙政策の進展は「安倍首相のイニシアチブ(主導権)による部分が大きい」。小宮氏は実感を語ります。
具体的なプロジェクトにも宇宙軍拡を進める姿勢がはっきりと現れています。宇宙基本計画の工程表に掲げられた九つのプロジェクトのうち、八つまでもが軍事に関わる内容なのです(別項)。安倍政権は15年12月8日に工程表を改定し、「宇宙協力を通じた日米同盟等の強化」などの目的を明記しました。
「宇宙は軍事に乗っ取られたといっても過言ではありません」
名古屋大学の池内了名誉教授は日本の宇宙開発の歴史を振り返って警鐘を鳴らします。
人工衛星やロケット開発を行う目的で科学技術庁に宇宙開発推進本部がつくられたのは1964年です。米国の技術供与を受けてロケット開発を行うために宇宙開発事業団(NASDA)が発足したのは69年でした。
宇宙開発事業団法の第1条は「平和の目的に限り」宇宙を利用すると明記していました。同年5月9日、衆院本会議も「平和の目的に限り」宇宙を利用すると決議。審議の中で政府は、「平和」とは「非軍事という解釈」だと答弁しました。「防衛目的」を掲げても平和利用原則に抵触することを確認したのです。
ところが政府は85年、米国の軍事スパイ衛星の情報を海上自衛隊が利用することを、“一般的に利用される衛星と同様の機能の衛星だから”という統一見解で合理化しました。2003年には同じ理屈で日本初の軍事スパイ衛星(情報収集衛星)を打ち上げました。
日本最大のロケット発射場である種子島宇宙センター=鹿児島県南種子町(JAXAのホームページから)
宇宙基本計画工程表のプロジェクト
①衛星測位 準天頂衛星の7機体制整備
②衛星リモートセンシング 軍事スパイ衛星の増強
③衛星通信・衛星放送 Xバンド衛星通信の軍事利用
④宇宙輸送システム 既存ロケットの軍事利用や新型ロケット開発
⑤宇宙状況把握 米軍との連携に向けた体制構築
⑥海洋状況把握 米国との連携を含め検討
⑦早期警戒機能 ミサイル防衛のための衛星開発を検討
⑧宇宙システム全体の抗たん性強化 敵の攻撃に耐える能力強化
⑨宇宙科学・探査および有人宇宙活動
平和目的を削除
「宇宙の平和利用」の精神を葬り去った決定打は、宇宙基本法の制定(08年)でした。宇宙開発利用の目的として「我が国の安全保障に資する」ことを盛り込んだのです。さらにJAXA(宇宙航空研究開発機構=NASDAの後継法人)法の改定(12年)では、「平和の目的に限り」業務を行うという規定が削除されました。・池内名誉教授は話します。「『防衛目的』といえばどんな兵器でも持てるようになり、軍事衛星が次々に開発・生産されてきました。特に安倍政権は露骨です。内閣府を司令塔とし、JAXAを下請け機関として、トップ・ダウンで宇宙の軍事利用を進めています。政治的には日米安全保障のため、経済的には軍需産業援助のためです」
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月17日付掲載
「はやぶさ2」や先日はブラックホールなどの観測をめざす観測衛星「ひとみ」が打ち上げているH2Aロケット。
「ひとみ」の打ち上げで、早30回目だとか。「はやぶさ2」や「ひとみ」の影で軍事衛星が打ち上げられているって事ですね。
「設備増強計画を立て始めた企業もある」
安倍政権の宇宙基本計画(2015年1月)で、日本の産業界がいかに活気付いたか。内閣府宇宙戦略室の小宮義則室長は熱を込めて話します。
「すごいよ、これは。政府の衛星がいつ何発上がるか見えたので、設備や技術開発や人に投資できるようになったと聞いています」
10年間で5兆円
宇宙基本計画は「今後20年程度を見据えた10年間の長期整備計画」です。前回計画(13年1月)が10年先を視野に入れた5年計画だったのに対し、期間を2倍に延ばしたのです。理由は「産業界の投資の『予見可能性』を高め、産業基盤を強化するため」です。
しかも「宇宙産業基盤」の「強化」が「喫緊の課題」である理由として、「我が国の安全保障上の宇宙の重要性が著しく増大している」ことをあげました。軍需産業の強化をめざす思惑があらわです。
さらには、「我が国の宇宙機器産業の事業規模として10年間で官民合わせて累計5兆円」をめざすと強調。前回計画時に宇宙関係予算が毎年度約3千億円の「横ばいで推移」していたのに対し、民需を含めて年平均5千億円規模へと拡大する目標を掲げました。
宇宙政策の進展は「安倍首相のイニシアチブ(主導権)による部分が大きい」。小宮氏は実感を語ります。
具体的なプロジェクトにも宇宙軍拡を進める姿勢がはっきりと現れています。宇宙基本計画の工程表に掲げられた九つのプロジェクトのうち、八つまでもが軍事に関わる内容なのです(別項)。安倍政権は15年12月8日に工程表を改定し、「宇宙協力を通じた日米同盟等の強化」などの目的を明記しました。
「宇宙は軍事に乗っ取られたといっても過言ではありません」
名古屋大学の池内了名誉教授は日本の宇宙開発の歴史を振り返って警鐘を鳴らします。
人工衛星やロケット開発を行う目的で科学技術庁に宇宙開発推進本部がつくられたのは1964年です。米国の技術供与を受けてロケット開発を行うために宇宙開発事業団(NASDA)が発足したのは69年でした。
宇宙開発事業団法の第1条は「平和の目的に限り」宇宙を利用すると明記していました。同年5月9日、衆院本会議も「平和の目的に限り」宇宙を利用すると決議。審議の中で政府は、「平和」とは「非軍事という解釈」だと答弁しました。「防衛目的」を掲げても平和利用原則に抵触することを確認したのです。
ところが政府は85年、米国の軍事スパイ衛星の情報を海上自衛隊が利用することを、“一般的に利用される衛星と同様の機能の衛星だから”という統一見解で合理化しました。2003年には同じ理屈で日本初の軍事スパイ衛星(情報収集衛星)を打ち上げました。
日本最大のロケット発射場である種子島宇宙センター=鹿児島県南種子町(JAXAのホームページから)
宇宙基本計画工程表のプロジェクト
①衛星測位 準天頂衛星の7機体制整備
②衛星リモートセンシング 軍事スパイ衛星の増強
③衛星通信・衛星放送 Xバンド衛星通信の軍事利用
④宇宙輸送システム 既存ロケットの軍事利用や新型ロケット開発
⑤宇宙状況把握 米軍との連携に向けた体制構築
⑥海洋状況把握 米国との連携を含め検討
⑦早期警戒機能 ミサイル防衛のための衛星開発を検討
⑧宇宙システム全体の抗たん性強化 敵の攻撃に耐える能力強化
⑨宇宙科学・探査および有人宇宙活動
平和目的を削除
「宇宙の平和利用」の精神を葬り去った決定打は、宇宙基本法の制定(08年)でした。宇宙開発利用の目的として「我が国の安全保障に資する」ことを盛り込んだのです。さらにJAXA(宇宙航空研究開発機構=NASDAの後継法人)法の改定(12年)では、「平和の目的に限り」業務を行うという規定が削除されました。・池内名誉教授は話します。「『防衛目的』といえばどんな兵器でも持てるようになり、軍事衛星が次々に開発・生産されてきました。特に安倍政権は露骨です。内閣府を司令塔とし、JAXAを下請け機関として、トップ・ダウンで宇宙の軍事利用を進めています。政治的には日米安全保障のため、経済的には軍需産業援助のためです」
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月17日付掲載
「はやぶさ2」や先日はブラックホールなどの観測をめざす観測衛星「ひとみ」が打ち上げているH2Aロケット。
「ひとみ」の打ち上げで、早30回目だとか。「はやぶさ2」や「ひとみ」の影で軍事衛星が打ち上げられているって事ですね。