軍事依存経済 宇宙編⑨ 次の“真珠湾”恐れる米
米国の人工衛星編隊は「天空の基地」として「戦争の神経系統」の役割を果たしていると、立命館大学の藤岡惇教授は話します。
軍事スパイ衛星や通信衛星、GPS(全地球測位システム)衛星を利用すれば、地球上のあらゆる場所への接触が可能です。航空機では不可能な他国領域の偵察、遠隔地からの情報通信、兵器の誘導も行えます。宇宙の支配が陸・海・空の軍事作戦での優位を支えるという構造です。
「米国の戦争はドローン(無人機)戦争の段階に至り、人工衛星が殺人システムになる『半宇宙戦争』という性格をいよいよ強めました。宇宙の軍事利用に歯止めをかけなければ、宇宙そのものが戦場になる本格的な宇宙戦争の危険性が高まりかねません」
2001年に発足した米国のブッシュ政権は、国家宇宙政策(06年8月)で「宇宙能力は国益にとって死活的」だと宣言しました。「米国の国家安全保障は宇宙での活動能力に決定的に依存しており、この依存は今後増大する」との認識を示したのです。米国の優位を保つため、「敵対勢力に宇宙での行動の自由を与えない能力、計画、選択肢をつくりあげる」任務を掲げました。
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ミサイル防衛用の迎撃ミサイルを発射する日米共同訓練=2015年6月、米国カリフォルニア州(防衛省のホームページから)
ぜい弱性を強調
宇宙システムは、攻撃に対しては極めてぜい弱です。ブッシュ政権下で06年まで国防長官を務めたラムズフェルド氏が中心になって策定した報告書は、こう強調しました。
「米国は“宇宙の真珠湾”の魅力的な候補になっている」(01年1月「米国の安全保障のために宇宙の管理と組織のあり方を評価する委員会報告書」)
敵襲にもろい「宇宙資産」は、真珠湾攻撃のような奇襲に見舞われる恐れがあるというのです。
そこで、報告書は「宇宙資産」を防衛する体制の構築を喫緊の課題にあげました。宇宙空間に防衛・攻撃用の兵器を配備することにまで言及しました。
オバマ政権の国家宇宙政策(10年6月)も「宇宙における米国のリーダーシップの強化」を方針としてきました。宇宙システムへの攻撃を「抑止し、防御し、必要に応じて無効化する技術の開発」を推進しています。
「近未来の宇宙戦争を想定し、衛星が攻撃されても活動がストップしない能力を確保するのが米国の戦略なのです」と、藤岡教授は指摘します。
「重大なのは、安倍政権が米国に従って『宇宙戦争仕様』を備えることを政策目標に据えたことです」
防衛省が14年8月に策定した「宇宙開発利用に関する基本方針」は、「人工衛星システムが、価値の高い攻撃目標として認識される可能性がある」と主張しました。「対衛星兵器などの宇宙物体の精確な動きを把握する宇宙監視機能を新たに保持する」方針を打ち出し、「必要なセンサーや解析システム」を整備する目標を掲げました。
対衛星兵器が使われる事態。まさに宇宙戦争を想定しているのです。衛星への攻撃で「宇宙利用が阻害されるような状況」を見越して、「代替衛星としても利用し得る即応型小型衛星」の研究を進めることまで決めました。
時代遅れの思想
藤岡教授は、「あくまでも力で相手を抑え込む、という19世紀の軍事思想にとらわれている」と批判します。
宇宙の「防御」に頭を抱えるのは、軍事的な優位性を保つために宇宙の利用を進めるほど、アキレス腱(けん)である衛星が狙われやすくなるからです。米国では、衛星軌道の近くで核爆発を起こされれば、大多数の衛星に障害が生じるとの研究も行われてきました。
「GPS衛星は生活に不可欠のインフラともなっており、機能が停止すければ文明が破壊されます。自分でつくりだした技術が自分に跳ね返ってくるのが戦争です。技術が高度化した現代において、戦争で紛争を解決するというのは完全に時代遅れで危険な考え方になっているのです」
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月20日付掲載
確かに、人工衛星はミサイル発射システムや防御シールドを搭載しているわけではありません。撃ち落とそうと思えば、できないことはないでしょう。
でも、それを言い出せばまさにイタチごっこ。時代遅れの思想です。
米国の人工衛星編隊は「天空の基地」として「戦争の神経系統」の役割を果たしていると、立命館大学の藤岡惇教授は話します。
軍事スパイ衛星や通信衛星、GPS(全地球測位システム)衛星を利用すれば、地球上のあらゆる場所への接触が可能です。航空機では不可能な他国領域の偵察、遠隔地からの情報通信、兵器の誘導も行えます。宇宙の支配が陸・海・空の軍事作戦での優位を支えるという構造です。
「米国の戦争はドローン(無人機)戦争の段階に至り、人工衛星が殺人システムになる『半宇宙戦争』という性格をいよいよ強めました。宇宙の軍事利用に歯止めをかけなければ、宇宙そのものが戦場になる本格的な宇宙戦争の危険性が高まりかねません」
2001年に発足した米国のブッシュ政権は、国家宇宙政策(06年8月)で「宇宙能力は国益にとって死活的」だと宣言しました。「米国の国家安全保障は宇宙での活動能力に決定的に依存しており、この依存は今後増大する」との認識を示したのです。米国の優位を保つため、「敵対勢力に宇宙での行動の自由を与えない能力、計画、選択肢をつくりあげる」任務を掲げました。
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ミサイル防衛用の迎撃ミサイルを発射する日米共同訓練=2015年6月、米国カリフォルニア州(防衛省のホームページから)
ぜい弱性を強調
宇宙システムは、攻撃に対しては極めてぜい弱です。ブッシュ政権下で06年まで国防長官を務めたラムズフェルド氏が中心になって策定した報告書は、こう強調しました。
「米国は“宇宙の真珠湾”の魅力的な候補になっている」(01年1月「米国の安全保障のために宇宙の管理と組織のあり方を評価する委員会報告書」)
敵襲にもろい「宇宙資産」は、真珠湾攻撃のような奇襲に見舞われる恐れがあるというのです。
そこで、報告書は「宇宙資産」を防衛する体制の構築を喫緊の課題にあげました。宇宙空間に防衛・攻撃用の兵器を配備することにまで言及しました。
オバマ政権の国家宇宙政策(10年6月)も「宇宙における米国のリーダーシップの強化」を方針としてきました。宇宙システムへの攻撃を「抑止し、防御し、必要に応じて無効化する技術の開発」を推進しています。
「近未来の宇宙戦争を想定し、衛星が攻撃されても活動がストップしない能力を確保するのが米国の戦略なのです」と、藤岡教授は指摘します。
「重大なのは、安倍政権が米国に従って『宇宙戦争仕様』を備えることを政策目標に据えたことです」
防衛省が14年8月に策定した「宇宙開発利用に関する基本方針」は、「人工衛星システムが、価値の高い攻撃目標として認識される可能性がある」と主張しました。「対衛星兵器などの宇宙物体の精確な動きを把握する宇宙監視機能を新たに保持する」方針を打ち出し、「必要なセンサーや解析システム」を整備する目標を掲げました。
対衛星兵器が使われる事態。まさに宇宙戦争を想定しているのです。衛星への攻撃で「宇宙利用が阻害されるような状況」を見越して、「代替衛星としても利用し得る即応型小型衛星」の研究を進めることまで決めました。
時代遅れの思想
藤岡教授は、「あくまでも力で相手を抑え込む、という19世紀の軍事思想にとらわれている」と批判します。
宇宙の「防御」に頭を抱えるのは、軍事的な優位性を保つために宇宙の利用を進めるほど、アキレス腱(けん)である衛星が狙われやすくなるからです。米国では、衛星軌道の近くで核爆発を起こされれば、大多数の衛星に障害が生じるとの研究も行われてきました。
「GPS衛星は生活に不可欠のインフラともなっており、機能が停止すければ文明が破壊されます。自分でつくりだした技術が自分に跳ね返ってくるのが戦争です。技術が高度化した現代において、戦争で紛争を解決するというのは完全に時代遅れで危険な考え方になっているのです」
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月20日付掲載
確かに、人工衛星はミサイル発射システムや防御シールドを搭載しているわけではありません。撃ち落とそうと思えば、できないことはないでしょう。
でも、それを言い出せばまさにイタチごっこ。時代遅れの思想です。