軍事依存経済 宇宙編⑧ 米が阻んだ平和的発展
日本の人工衛星の平和的な発展は米国の圧力のもとで抑えつけられてきました。
威力を発揮したのは、米国が1988年に定めた包括通商法スーパー301条でした。他国に“不公正貿易国”のレッテルをはり、関税の大幅引き上げなどの制裁措置をとれるようにしたもの。自国の経済的要求を押し通すための条項です。
このスーパー301条の対象に日本政府の実用衛星を含めるよう米国が主張し、90年に合意したのです。「日米衛星調達合意」と呼ばれます。政府関連の実用衛星は国際競争入札で調達することが義務付けられました。
実用衛星は通信、放送、気象観測などを目的とした衛星です。未成熟な日本の宇宙産業は米国企業に勝つのが困難だったため、実用衛星の受注から長期にわたって締め出される結果となりました。経団連は07年の提言で振り返っています。
「(日米衛星調達合意の)締結以降、放送、通信、気象などの非研究開発衛星はほとんど米国企業が受注する結果となり、成長途上にあったわが国の宇宙産業は大打撃を受けた」(07年7月17日「宇宙新時代の幕開けと宇宙産業の国際競争力強化を目指して」)
準天頂衛星「みちびき」が赤道上空付近を通過中に撮影した画像(JAXAのホームページから)
軍事衛星に活路
日本の宇宙産業界にとって活路となったのが、軍事の分野でした。「安全保障」目的の衛星であれば、国際競争入札の適用除外とされるからです。実際に03年から累計12機打ち上げられた軍事スパイ衛星(情報収集衛星)はすべて、米国企業ではなく日本の三菱電機が受注しました。情報収集衛星への政府支出は、開発費や地上施設整備費を含め、14年度までで合計1兆円を超えています。
議員立法での宇宙基本法制定を主導した自民党の河村建夫衆院議員は12年、JAXA(宇宙航空研究開発機構)法改定の審議の際、軍事衛星なら日本企業が受注できることを政府に念押ししました。
「安全保障および公共の安全のために必要となる衛星はWTO(世界貿易機関)ルールに従って国際調達の適用除外とする。このような認識でよいか」
政府答弁は「委員の認識の通り」というものでした(12年6月14日、衆院内閣委員会)。
そこで河村氏が「急ぐ必要がある」と強調したのは、軍事に使える準天頂衛星の整備でした。
「アメリカが世界に展開しているGPS(全地球測位システム)の、アジア、オセァニア地域を日本が補完する重要な役割も持つ」と迫ったのです。
加えて、JAXA法改定で「防衛省関連の業務をJAXAが行うことができる」ようになるので、「安全保障分野における宇宙政策を内閣府と密接に連携して積極的に進めていくべきだ」とも主張。「宇宙産業の振興」に「軸を移して(JAXAの)事業を進める方針が必要」だと述べました。
実用衛星の受注に困難がつきまとう中、米国が望む軍事衛星の製造にまい進し、JAXAの事業を軍需産業育成の目的に従属させる思惑が現れています。
JAXA道連れ
15年1月9日に安倍政権が決定した宇宙基本計画も、同じ路線に沿うものでした。
このとき、三菱電機の下村節宏相談役は「政府の推進体制の強化」を求めました。安倍首相を本部長とする宇宙開発戦略本部の「司令塔機能の発揮」により、「JAXAは、防衛省との連携強化による安全保障分野の宇宙利用の推進や、産業振興に向けた技術的支援を行うべきである」(月刊『経団連』15年1月号)というのです。
具体的に要求したのも軍事分野の大幅な増強でした。▽情報収集衛星を4機体制から10機体制に強化する▽弾道ミサイルの発射を探知する早期警戒システムを整備する▽光学センサーやレーダーを利用する宇宙状況監視システムや海洋状況把握システムを構築する▽準天頂衛星の7機体制を20年代初頭に実現する―ことです。
軍事依存にどっぷりはまり込み、JAXAをも軍事偏重の道連れにして、宇宙産業界は事業「強化」を成し遂げようとしています。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月19日付掲載
悪名高きアメリカのスーパー301条項。日本の実用衛星(商業衛星)の市場を解放せよと…。
日本企業は軍事衛星に活路を見出す。日本政府との思惑が一致した結果です。
日本の人工衛星の平和的な発展は米国の圧力のもとで抑えつけられてきました。
威力を発揮したのは、米国が1988年に定めた包括通商法スーパー301条でした。他国に“不公正貿易国”のレッテルをはり、関税の大幅引き上げなどの制裁措置をとれるようにしたもの。自国の経済的要求を押し通すための条項です。
このスーパー301条の対象に日本政府の実用衛星を含めるよう米国が主張し、90年に合意したのです。「日米衛星調達合意」と呼ばれます。政府関連の実用衛星は国際競争入札で調達することが義務付けられました。
実用衛星は通信、放送、気象観測などを目的とした衛星です。未成熟な日本の宇宙産業は米国企業に勝つのが困難だったため、実用衛星の受注から長期にわたって締め出される結果となりました。経団連は07年の提言で振り返っています。
「(日米衛星調達合意の)締結以降、放送、通信、気象などの非研究開発衛星はほとんど米国企業が受注する結果となり、成長途上にあったわが国の宇宙産業は大打撃を受けた」(07年7月17日「宇宙新時代の幕開けと宇宙産業の国際競争力強化を目指して」)
準天頂衛星「みちびき」が赤道上空付近を通過中に撮影した画像(JAXAのホームページから)
軍事衛星に活路
日本の宇宙産業界にとって活路となったのが、軍事の分野でした。「安全保障」目的の衛星であれば、国際競争入札の適用除外とされるからです。実際に03年から累計12機打ち上げられた軍事スパイ衛星(情報収集衛星)はすべて、米国企業ではなく日本の三菱電機が受注しました。情報収集衛星への政府支出は、開発費や地上施設整備費を含め、14年度までで合計1兆円を超えています。
議員立法での宇宙基本法制定を主導した自民党の河村建夫衆院議員は12年、JAXA(宇宙航空研究開発機構)法改定の審議の際、軍事衛星なら日本企業が受注できることを政府に念押ししました。
「安全保障および公共の安全のために必要となる衛星はWTO(世界貿易機関)ルールに従って国際調達の適用除外とする。このような認識でよいか」
政府答弁は「委員の認識の通り」というものでした(12年6月14日、衆院内閣委員会)。
そこで河村氏が「急ぐ必要がある」と強調したのは、軍事に使える準天頂衛星の整備でした。
「アメリカが世界に展開しているGPS(全地球測位システム)の、アジア、オセァニア地域を日本が補完する重要な役割も持つ」と迫ったのです。
加えて、JAXA法改定で「防衛省関連の業務をJAXAが行うことができる」ようになるので、「安全保障分野における宇宙政策を内閣府と密接に連携して積極的に進めていくべきだ」とも主張。「宇宙産業の振興」に「軸を移して(JAXAの)事業を進める方針が必要」だと述べました。
実用衛星の受注に困難がつきまとう中、米国が望む軍事衛星の製造にまい進し、JAXAの事業を軍需産業育成の目的に従属させる思惑が現れています。
JAXA道連れ
15年1月9日に安倍政権が決定した宇宙基本計画も、同じ路線に沿うものでした。
このとき、三菱電機の下村節宏相談役は「政府の推進体制の強化」を求めました。安倍首相を本部長とする宇宙開発戦略本部の「司令塔機能の発揮」により、「JAXAは、防衛省との連携強化による安全保障分野の宇宙利用の推進や、産業振興に向けた技術的支援を行うべきである」(月刊『経団連』15年1月号)というのです。
具体的に要求したのも軍事分野の大幅な増強でした。▽情報収集衛星を4機体制から10機体制に強化する▽弾道ミサイルの発射を探知する早期警戒システムを整備する▽光学センサーやレーダーを利用する宇宙状況監視システムや海洋状況把握システムを構築する▽準天頂衛星の7機体制を20年代初頭に実現する―ことです。
軍事依存にどっぷりはまり込み、JAXAをも軍事偏重の道連れにして、宇宙産業界は事業「強化」を成し遂げようとしています。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月19日付掲載
悪名高きアメリカのスーパー301条項。日本の実用衛星(商業衛星)の市場を解放せよと…。
日本企業は軍事衛星に活路を見出す。日本政府との思惑が一致した結果です。