初の絵本『「じぶん」のはなし』 人間も自然の一部 足元見て生きる
ベストセラー『バカの壁』で知られる解剖学者の養老孟司さんが、初めての絵本『「じぶん」のはなし』(絵・よこやまかんた)を刊行しました。鎌倉の自宅を訪ねました。
金子徹記者
撮影:野間あきら記者
解剖学者 養老孟司さん
ようろう・たけし=1937年鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。89年、『からだの見方』でサントリー学芸賞、2003年、『バカの壁』で毎日出版文化賞
ロシアの侵略懸念 国も自然も腕力で思い通りにはならない
『「じぶん」のはなし』は、自然や生き物と人間のかかわりを考えるヒントが盛り込まれた絵本です。
「この題材は出版社が選びました。私が書きたかったことというわけじゃない。でも、私は抵抗しないものですから(笑)」
過度な都市化
詩のようでもある言葉が並びます。
〈まわりのしぜんと、じぶん。なにがちがうんだろう。じぶんはしぜんでできている。そうでしょ?〉
「昔は当たり前だった感覚でしょう。いまさら言うことじゃなかった。
いまは都市化で“自然なんて関係ない”というばかりです。でも、誰だって死ななくてはならないから自然にかえる。意識では死ぬつもりはなくても、いつの間にか死んでいる。イヤでも自然にかえります。こんな話をすると、お坊さんのようだけど(笑)」
行き過ぎた都市化を懸念します。
「ある文化会館へ行ったら、中庭が舗装してありプランターが置いてあった。むき出しの地面の存在が許されないんですね。あれは現代病の“文化”の象徴でした。全国の田んぼの側溝のコンクリート化によって、メダカをはじめとする淡水の生物は絶滅に近い状態です」
若い人の自殺
近年は、子どもたちが心配だと発言しています。
「気になるのは、若い人の自殺が多いことです。10代、20代、30代の死因のトップは自殺です。高校生くらいの人に自殺はいけないと話すと、ムッとした顔をします。自分の命は自分のもの、死ぬ権利があるという感じです。モノが十分にあれば満足するという考え方は間違っていた。『じぶん』は自然の一部で自然とつながっているという感覚が切れてしまった」
ライフワークはゾウムシの分類研究です。
「いまも虫捕りをやっています。もう、いいかげん、やめなきゃいけないと思っているんだけど(笑)。虫捕りでスリランカなどの小乗仏教の国へ行くと、殺生だから嫌がられます。ラオスは虫を食べる文化があるので大丈夫だからよく行くんですが、虫捕りはぼちぼち引退しようかな」
防衛力強化より災害対策
戦中に育ち、いまも数多くの軍歌を覚えています。ロシアのウクライナ侵略には―。
「なんで腕力で人を思い通りにしようとするんだろう。アスファルトで地面を固める発想と同じだと思います。人も自然も、それぞれのいきさつがあっていまのようになっているのだから、思うようになるものではない。それが許せないというやり方は、私には理解できません」
『超バカの壁』(2006年)では「私が憲法九条改正に反対する理由」について「後ろめたさもなく軍隊を動かされてたまるかと思う」と記しました。
「後ろめたさを感じない人は怖いですから。岸田(文雄)首相が防衛力強化と言った時、すぐに思ったのは何を防衛するのかということです。近い将来、日本では東南海地震が予想されています。大地震への備えと復興の力はあるのか。足元の方がよっぽど危ないじゃないか。災害対策も環境問題の一環の重要な政治的課題です。脚下照顧(きゃっかしょうこ)、足元を見なさいと。そのためにも、若い人は自然に親しみ、自分たちで生き抜く力をつけてほしい」
「しんぶん赤旗」日曜版 2022年8月21日付掲載
『「じぶん」のはなし』は、自然や生き物と人間のかかわりを考えるヒントが盛り込まれた絵本。
〈まわりのしぜんと、じぶん。なにがちがうんだろう。じぶんはしぜんでできている。そうでしょ?〉
昔は当たり前だった感覚でしょう。いまさら言うことじゃなかった。
いまは都市化で“自然なんて関係ない”というばかりです。でも、誰だって死ななくてはならないから自然にかえる。意識では死ぬつもりはなくても、いつの間にか死んでいる。イヤでも自然にかえります。こんな話をすると、お坊さんのようだけど(笑)
岸田(文雄)首相が防衛力強化と言った時、すぐに思ったのは何を防衛するのかということです。近い将来、日本では東南海地震が予想されています。大地震への備えと復興の力はあるのか。足元の方がよっぽど危ないじゃないか。
ベストセラー『バカの壁』で知られる解剖学者の養老孟司さんが、初めての絵本『「じぶん」のはなし』(絵・よこやまかんた)を刊行しました。鎌倉の自宅を訪ねました。
金子徹記者
撮影:野間あきら記者
解剖学者 養老孟司さん
ようろう・たけし=1937年鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。89年、『からだの見方』でサントリー学芸賞、2003年、『バカの壁』で毎日出版文化賞
ロシアの侵略懸念 国も自然も腕力で思い通りにはならない
『「じぶん」のはなし』は、自然や生き物と人間のかかわりを考えるヒントが盛り込まれた絵本です。
「この題材は出版社が選びました。私が書きたかったことというわけじゃない。でも、私は抵抗しないものですから(笑)」
過度な都市化
詩のようでもある言葉が並びます。
〈まわりのしぜんと、じぶん。なにがちがうんだろう。じぶんはしぜんでできている。そうでしょ?〉
「昔は当たり前だった感覚でしょう。いまさら言うことじゃなかった。
いまは都市化で“自然なんて関係ない”というばかりです。でも、誰だって死ななくてはならないから自然にかえる。意識では死ぬつもりはなくても、いつの間にか死んでいる。イヤでも自然にかえります。こんな話をすると、お坊さんのようだけど(笑)」
行き過ぎた都市化を懸念します。
「ある文化会館へ行ったら、中庭が舗装してありプランターが置いてあった。むき出しの地面の存在が許されないんですね。あれは現代病の“文化”の象徴でした。全国の田んぼの側溝のコンクリート化によって、メダカをはじめとする淡水の生物は絶滅に近い状態です」
若い人の自殺
近年は、子どもたちが心配だと発言しています。
「気になるのは、若い人の自殺が多いことです。10代、20代、30代の死因のトップは自殺です。高校生くらいの人に自殺はいけないと話すと、ムッとした顔をします。自分の命は自分のもの、死ぬ権利があるという感じです。モノが十分にあれば満足するという考え方は間違っていた。『じぶん』は自然の一部で自然とつながっているという感覚が切れてしまった」
ライフワークはゾウムシの分類研究です。
「いまも虫捕りをやっています。もう、いいかげん、やめなきゃいけないと思っているんだけど(笑)。虫捕りでスリランカなどの小乗仏教の国へ行くと、殺生だから嫌がられます。ラオスは虫を食べる文化があるので大丈夫だからよく行くんですが、虫捕りはぼちぼち引退しようかな」
防衛力強化より災害対策
戦中に育ち、いまも数多くの軍歌を覚えています。ロシアのウクライナ侵略には―。
「なんで腕力で人を思い通りにしようとするんだろう。アスファルトで地面を固める発想と同じだと思います。人も自然も、それぞれのいきさつがあっていまのようになっているのだから、思うようになるものではない。それが許せないというやり方は、私には理解できません」
『超バカの壁』(2006年)では「私が憲法九条改正に反対する理由」について「後ろめたさもなく軍隊を動かされてたまるかと思う」と記しました。
「後ろめたさを感じない人は怖いですから。岸田(文雄)首相が防衛力強化と言った時、すぐに思ったのは何を防衛するのかということです。近い将来、日本では東南海地震が予想されています。大地震への備えと復興の力はあるのか。足元の方がよっぽど危ないじゃないか。災害対策も環境問題の一環の重要な政治的課題です。脚下照顧(きゃっかしょうこ)、足元を見なさいと。そのためにも、若い人は自然に親しみ、自分たちで生き抜く力をつけてほしい」
「しんぶん赤旗」日曜版 2022年8月21日付掲載
『「じぶん」のはなし』は、自然や生き物と人間のかかわりを考えるヒントが盛り込まれた絵本。
〈まわりのしぜんと、じぶん。なにがちがうんだろう。じぶんはしぜんでできている。そうでしょ?〉
昔は当たり前だった感覚でしょう。いまさら言うことじゃなかった。
いまは都市化で“自然なんて関係ない”というばかりです。でも、誰だって死ななくてはならないから自然にかえる。意識では死ぬつもりはなくても、いつの間にか死んでいる。イヤでも自然にかえります。こんな話をすると、お坊さんのようだけど(笑)
岸田(文雄)首相が防衛力強化と言った時、すぐに思ったのは何を防衛するのかということです。近い将来、日本では東南海地震が予想されています。大地震への備えと復興の力はあるのか。足元の方がよっぽど危ないじゃないか。