
以下、著者が看取りを終えてのエピローグです。
p.302 人間は元来「精神の生き物」です。
病院はボロボロになって死にそうな身体をあの手
この手で長持ちさせようと手を尽くしてくれます。
ありがたいことではあります。けれどもいかにして
最後まで「幸せに満ち足りて」生きるかまでは考えて
くれません。
死を目前にした患者が生きる意欲をなくし、不安と
恐怖におののいたとしても、それらを癒す妙薬を処方
してくれるわけではないのです。
もちろんそれは個人個人の問題であって、医療者に
期待すべきものではないでしょう。
不治の病が進行し、積極的な治療をしないと決め、
医療の出番が少なくなるにつれ、より一層あらわに
なってくるのは「心模様」でした。
共に生き、共に目の前に迫る死を見つめる。今生の別れが
いかに悲哀に満ちたものであるか、そこに至るまでの道のりが
いかに苦しみに満ちたものであるか。
その時間をともに過ごし、夫と手をつないでいる手を時に
強く握りしめてあげることがどれほど大切なことか。
死の看取りとは自分と相手の心を深く見つめるかけがえのない
時間だったと思います。