《の》 能力を引き出す能力を覗き見る
モーリス・ベジャールという偉大な踊り手&振付家が亡くなったのを知ったのは2月半ば、
たまたまチャコット(バレエ用品専門店)の書籍売り場に立ち寄った時です。
追悼集が発刊されて、多くの踊り手や芸術家が彼への感謝や愛に満ちた言葉を
贈っています。
一貫して感じるのは、ベジャールが様々な踊り手と出会った時、即座にその能力・
才能を見抜き、それらをさらに伸ばせるようなアドバイスが出来る人であったこと。
さらに素晴らしいのは、欠点も見抜き、それを個性に変えて長所に導ける洞察力を持っていた
ことです。型にはまった指導でなく、個々人に合わせた育ちあいは、ナビゲーターそのもの
です。世界中の名だたるダンサーのみならず、我が日本の玉三郎氏も追悼の言葉を寄せられ、
彼らの真摯な言葉が胸を打ちます。
一昨日ご紹介した「古武術あそび」の岡田慎一郎さんや、その師である「武術研究者」の
甲野善紀氏も素晴らしい教育者であり、ナビゲーターだと思います。自力整体の創始者、
矢上裕先生と共通するところは、「固定化されない技と発想」(古武術あそび100頁)
=<自分が伝えたことをそのまんま体得するのでなく、個々人でいろいろ工夫して自由に
どんどん展開していきなさい。>というスタンスです。
長くなりますが、以下にお二人の会話部分をそのままご紹介します。
甲野「・・・・・私自身がそうやってきましたから。昨日言ったことを今日変えるかもしれない
わけだし。例えば、今日、岡田さんと一緒に久しぶりに「小手返し」という技をやってみると、
その場でいろいろ思いつくことがあって、これはこの感覚でやるんだということが、
改めてわかったりするわけですから。
私が「段」とか、昔で言うと「切り紙」とか「目録」とか、そういうものを出さないのは、
自分自身がこれでいいとまったく思っていないからです。段級制というのは、これでいいと
思っている基準があって、そこから見てこの人はどの段階かということになるわけでしょう。
しかし、私の場合は、私自身がこれでいいと思っていない状態が続いているので、
昨日より今日が少しましかな、くらいの感じの連続ですから、とても人を評価できません。
ですから、私の技に触れたそれぞれの人が気づいて、その気づいたことをきっかけに
どんどん展開させて下さい、ということですね。」
このような甲野師範の下で学んだ岡田氏は介護の場で使える技を開発し、
介護者仲間に伝授する講演会を開催されていますが、実際に身体介護を
受けている方々も学びに来るそうです。
甲野「そういう場でどんどん具体的にやっていけば、ほかの介護技術との違いがわかるし、
この技術は介護する人ばかりが楽なだけではなく、介護を受けるほうも楽だということも
わかってくるわけで、そうなればもっと楽になるために自分も協力していこう、自らの
身体を通して自分もそうした研究に参加しようということになってくるでしょう。」
岡田「先日、脳性小児マヒの女性の方とお会いしたのですが、その方が<今までは、
介護する人にいかに負担をかけないかという協力の仕方しか考えてこなかったけれど、
古武術介護の技に出会ってから、自分たち障害者自身も身体の使い方の見直しが出来る
のではないか、もっと自分たちの感覚を引き出していけば、今までにない動きも出来る
のではないかという可能性を感じるようになった>ということをおっしゃっていましたね。」
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
さて、偉大な教育者や指導者・技の開発者の後に私が登場するのは、かなり気が
引けるのですが、あえて飛び出してしまいましょう!
私もナビゲーターの一員です。
上記3人のような偉大な技はまだありませんが、伝えたいことがあって、日々実践し、
研究を続けています。そして私の母を含む、私の教室メンバーの方々にも、
「どんなに初心者でも、一日先にやれば一日分の理解があるのだから、
ミニ・ナビゲーターとして誰かに伝える努力をしてみて!」とお願いしています。
大々的な教室を開かなくても、自分の親や周囲の人で、冷えや肩凝りで苦しんでいる
人がいれば、自分でやってみて良かったことを伝えるだけで良いのです。以前にアップした
「昨日教わったことを明日教える」という言葉に通じることですが、
自分のためにもなるのです。
昨日は、ここデンマークの統合ケアセンターと高齢者アクティビティーセンターを訪問し、
ボランティアで自力整体を紹介する機会をいただきました。ほんの5分でしたが、
孝子さんの魅力的な通訳のおかげもあり、好評でした。何人かからは質問もいただき、
身体にとって気持ちの良い動きは、共通するものがあることを確認しました。
そういえば、昔(私の子供時代)は幼稚園から小学校高学年くらいまでの近所の
友達グループが年齢差を越えて楽しく遊んでいました。大きい子はボランティアで
小さい子のケアをしながら、自分の体力や知恵を認識し、教えることも楽しんで
いたのだなぁと思います。誰もが年少者や後発組に愛を持って接することで、
自分の技自身も磨いていた時代を取り戻したいものです。
付録:甲野善紀氏の面白語録
「子供というのは、特に12歳ぐらいまでは、心臓の発達を促すために、時にドキドキ
することが必要で、だから好き好んで塀の上を歩くみたいな危ないことをしたがるんだ
という説があります。そういうドキドキするということが身体に非常にためになるそうです。
子供が危ないことをしたがるというのは身体を育てるための本能だと思うんですよ。」
「今、私(甲野善紀)が子供たちの親に一番注文したいことは子供たちが生きていく
これからの時代を、本質的なところから真剣に考えてほしいということです。
いい大学に入って云々なんてことよりも、これからの国際問題や環境問題の難しさから
言えば、今の社会や価値観が全部崩壊した時でも生きていける、ただ丈夫なだけでなくて、
いろいろなことが出来る身体と身体を通した知恵が必要ではないかということです。
サッカーが上手であることよりも、モノを持てたりロープがしっかり結べたり、
薪を割ったり出来ることのほうが、これからの時代、大事だと思うんです。」
モーリス・ベジャールという偉大な踊り手&振付家が亡くなったのを知ったのは2月半ば、
たまたまチャコット(バレエ用品専門店)の書籍売り場に立ち寄った時です。
追悼集が発刊されて、多くの踊り手や芸術家が彼への感謝や愛に満ちた言葉を
贈っています。
一貫して感じるのは、ベジャールが様々な踊り手と出会った時、即座にその能力・
才能を見抜き、それらをさらに伸ばせるようなアドバイスが出来る人であったこと。
さらに素晴らしいのは、欠点も見抜き、それを個性に変えて長所に導ける洞察力を持っていた
ことです。型にはまった指導でなく、個々人に合わせた育ちあいは、ナビゲーターそのもの
です。世界中の名だたるダンサーのみならず、我が日本の玉三郎氏も追悼の言葉を寄せられ、
彼らの真摯な言葉が胸を打ちます。
一昨日ご紹介した「古武術あそび」の岡田慎一郎さんや、その師である「武術研究者」の
甲野善紀氏も素晴らしい教育者であり、ナビゲーターだと思います。自力整体の創始者、
矢上裕先生と共通するところは、「固定化されない技と発想」(古武術あそび100頁)
=<自分が伝えたことをそのまんま体得するのでなく、個々人でいろいろ工夫して自由に
どんどん展開していきなさい。>というスタンスです。
長くなりますが、以下にお二人の会話部分をそのままご紹介します。
甲野「・・・・・私自身がそうやってきましたから。昨日言ったことを今日変えるかもしれない
わけだし。例えば、今日、岡田さんと一緒に久しぶりに「小手返し」という技をやってみると、
その場でいろいろ思いつくことがあって、これはこの感覚でやるんだということが、
改めてわかったりするわけですから。
私が「段」とか、昔で言うと「切り紙」とか「目録」とか、そういうものを出さないのは、
自分自身がこれでいいとまったく思っていないからです。段級制というのは、これでいいと
思っている基準があって、そこから見てこの人はどの段階かということになるわけでしょう。
しかし、私の場合は、私自身がこれでいいと思っていない状態が続いているので、
昨日より今日が少しましかな、くらいの感じの連続ですから、とても人を評価できません。
ですから、私の技に触れたそれぞれの人が気づいて、その気づいたことをきっかけに
どんどん展開させて下さい、ということですね。」
このような甲野師範の下で学んだ岡田氏は介護の場で使える技を開発し、
介護者仲間に伝授する講演会を開催されていますが、実際に身体介護を
受けている方々も学びに来るそうです。
甲野「そういう場でどんどん具体的にやっていけば、ほかの介護技術との違いがわかるし、
この技術は介護する人ばかりが楽なだけではなく、介護を受けるほうも楽だということも
わかってくるわけで、そうなればもっと楽になるために自分も協力していこう、自らの
身体を通して自分もそうした研究に参加しようということになってくるでしょう。」
岡田「先日、脳性小児マヒの女性の方とお会いしたのですが、その方が<今までは、
介護する人にいかに負担をかけないかという協力の仕方しか考えてこなかったけれど、
古武術介護の技に出会ってから、自分たち障害者自身も身体の使い方の見直しが出来る
のではないか、もっと自分たちの感覚を引き出していけば、今までにない動きも出来る
のではないかという可能性を感じるようになった>ということをおっしゃっていましたね。」
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
さて、偉大な教育者や指導者・技の開発者の後に私が登場するのは、かなり気が
引けるのですが、あえて飛び出してしまいましょう!
私もナビゲーターの一員です。
上記3人のような偉大な技はまだありませんが、伝えたいことがあって、日々実践し、
研究を続けています。そして私の母を含む、私の教室メンバーの方々にも、
「どんなに初心者でも、一日先にやれば一日分の理解があるのだから、
ミニ・ナビゲーターとして誰かに伝える努力をしてみて!」とお願いしています。
大々的な教室を開かなくても、自分の親や周囲の人で、冷えや肩凝りで苦しんでいる
人がいれば、自分でやってみて良かったことを伝えるだけで良いのです。以前にアップした
「昨日教わったことを明日教える」という言葉に通じることですが、
自分のためにもなるのです。
昨日は、ここデンマークの統合ケアセンターと高齢者アクティビティーセンターを訪問し、
ボランティアで自力整体を紹介する機会をいただきました。ほんの5分でしたが、
孝子さんの魅力的な通訳のおかげもあり、好評でした。何人かからは質問もいただき、
身体にとって気持ちの良い動きは、共通するものがあることを確認しました。
そういえば、昔(私の子供時代)は幼稚園から小学校高学年くらいまでの近所の
友達グループが年齢差を越えて楽しく遊んでいました。大きい子はボランティアで
小さい子のケアをしながら、自分の体力や知恵を認識し、教えることも楽しんで
いたのだなぁと思います。誰もが年少者や後発組に愛を持って接することで、
自分の技自身も磨いていた時代を取り戻したいものです。
付録:甲野善紀氏の面白語録
「子供というのは、特に12歳ぐらいまでは、心臓の発達を促すために、時にドキドキ
することが必要で、だから好き好んで塀の上を歩くみたいな危ないことをしたがるんだ
という説があります。そういうドキドキするということが身体に非常にためになるそうです。
子供が危ないことをしたがるというのは身体を育てるための本能だと思うんですよ。」
「今、私(甲野善紀)が子供たちの親に一番注文したいことは子供たちが生きていく
これからの時代を、本質的なところから真剣に考えてほしいということです。
いい大学に入って云々なんてことよりも、これからの国際問題や環境問題の難しさから
言えば、今の社会や価値観が全部崩壊した時でも生きていける、ただ丈夫なだけでなくて、
いろいろなことが出来る身体と身体を通した知恵が必要ではないかということです。
サッカーが上手であることよりも、モノを持てたりロープがしっかり結べたり、
薪を割ったり出来ることのほうが、これからの時代、大事だと思うんです。」