「幕末太陽傳」を見た。前に2回見てるけど、日活100年を記念したデジタル・リマスター版が公開中。1957年作品。冒頭に「日活製作再開3周年記念」と出る。見直してまず思うことは、画面が格段にきれいになった。デジタル・リマスターだから当たり前だ。このやり方で修復して欲しい映画はまだたくさんある。なお、デジタルで修復した後に35ミリネガフィルムを作っている。

この映画は、2009年に映画人が選ぶオールタイム・ベストテンを選出した時に、歴代日本映画の4位に選ばれている。「東京物語」「七人の侍」「浮雲」の次だから、ウソでしょうというような高評価である。しかし、それ以前のベストテンでも10位以内には入選している。小津や成瀬はこれ一作が決まっているが、溝口健二や今村昌平などは同程度の傑作が複数あるので票が割れてしまう。「幕末太陽傳」は、役者がはつらつとしていて演出も素晴らしい。川島雄三監督の代表作で、日本映画のベストテンに入る傑作であるのは異存ないだろう。
落語という伝統芸能はずいぶん映画でも取り上げられているが、これが代表作。「居残り佐平次」「品川心中」などを巧みにアレンジした脚本は、川島雄三と助監督の今村昌平に加え、田中啓一とクレジットされている。当時松竹在籍中だった名脚本家の山内久である。井上ひさしは「落語種を映画にして成功したのは、日本史上でこれが唯一。その意味でこれは奇蹟である。」と述べ、山田洋次は「古典落語と映画を結びつけて痛快無類の喜劇を作り上げた奇才、川島雄三監督に乾杯」と言っている。これはプログラムに載っていた言葉だが、まずは落語の脚本化が素晴らしくうまく行っている。

しかし、映画を見て思うことは、何といってもフランキー堺の存在感。八面六臂というか、縦横無尽というか、いろんな四字熟語を並べたくなる大活躍で、画面全体を飛び跳ねている。何度見てもすごいと思う。僕らの世代は喜劇人フランキーの位置がよく判らない。ジャズから映画界に入り、28歳の時のこの映画が一世一代の名演。テレビの「私は貝になりたい」の印象が強くなって、喜劇人としてのイメージが薄くなってしまった。小林信彦さんの本を読むと、当時のフランキーの重要性を感じる。そして、高杉晋作役、23歳の石原裕次郎。、実際の高杉晋作も、御殿山のイギリス公使館焼き討ち事件当時は23歳なのだ。目が素晴らしい。生き生きしている。

裕次郎は87年、フランキーは96年に死去。人気女郎を張り合う南田洋子は2009年没、左幸子は2001年没。皆亡くなっていく。そして、追悼を書いたばかりの二谷英明。幕末の志士、志道聞多(しどう・もんた=井上馨の当時の名前)役である。女郎屋の親父役の金子信雄(「仁義なき戦い」の山守組長役で有名だが、舞台、映画の他、テレビの料理番組でも活躍した)も95年没。まだ存命なのは、小沢昭一、芦川いづみ、小林旭、菅井きん位になってしまった。時の流れを感じると同時に、素晴らしい役者がなんてたくさん出ていたのだろうと思った。若い時期の伸び盛りのオーラが画面を圧倒している。
佐平次(フランキー)が金もないのに豪遊した後、女郎屋相模屋に居残りして下働きをする。女郎こはる(南田)とおそめ(左)が張り合いながら、客をあしらう。その一部屋に高杉晋作が居座り、イギリス公使館焼き討ちを計画している。様々な客や女郎の間をフランキーが駆け回る趣向で、筋は一本ではないので書きにくい。フランキーは晋作に対し、「侍がなんでえ」と言う。侍は百姓から年貢を取り立てればいいが、庶民は自分の働きで稼がなければならない、と。そして、ラスト、「地獄も極楽もあるもんけえ。俺はまだまだ生きるんでェ。」と言い放つ。これだよね、今見ることの意味は。いや、いつ見ても心に沁みるのは。50年代末の高度成長以前の映画だが、高度成長を実現させた日本、その後の沈滞する日本を見通したような素晴らしさである。
川島雄三監督は、ドライな喜劇、ブラックユーモア、風俗喜劇がたくさん作った。最近は「洲崎パラダイス 赤信号」の評価が高くなってきたが、「しとやかな獣」のブラックぶりも忘れられない。「明日は月給日」「適齢三人娘」などの初期作品はほとんど評価されなかったが、今見てみると面白くて再評価が必要だと思う。まだまだ埋もれている作品が多いのではないか。社会派や人情喜劇が昔は評価されて、ドライな喜劇が受けなかった。今見ると、ドライ派の方が面白い。川島雄三は難病持ちで、1963年に45歳で急逝した。戦前の山中貞雄と並んで、伝説の映画監督と言える存在である。「幕末太陽傳」は、そんな川島雄三監督の、生涯ただ一度のまぎれもない大傑作。何度でも見るべし。

この映画は、2009年に映画人が選ぶオールタイム・ベストテンを選出した時に、歴代日本映画の4位に選ばれている。「東京物語」「七人の侍」「浮雲」の次だから、ウソでしょうというような高評価である。しかし、それ以前のベストテンでも10位以内には入選している。小津や成瀬はこれ一作が決まっているが、溝口健二や今村昌平などは同程度の傑作が複数あるので票が割れてしまう。「幕末太陽傳」は、役者がはつらつとしていて演出も素晴らしい。川島雄三監督の代表作で、日本映画のベストテンに入る傑作であるのは異存ないだろう。
落語という伝統芸能はずいぶん映画でも取り上げられているが、これが代表作。「居残り佐平次」「品川心中」などを巧みにアレンジした脚本は、川島雄三と助監督の今村昌平に加え、田中啓一とクレジットされている。当時松竹在籍中だった名脚本家の山内久である。井上ひさしは「落語種を映画にして成功したのは、日本史上でこれが唯一。その意味でこれは奇蹟である。」と述べ、山田洋次は「古典落語と映画を結びつけて痛快無類の喜劇を作り上げた奇才、川島雄三監督に乾杯」と言っている。これはプログラムに載っていた言葉だが、まずは落語の脚本化が素晴らしくうまく行っている。

しかし、映画を見て思うことは、何といってもフランキー堺の存在感。八面六臂というか、縦横無尽というか、いろんな四字熟語を並べたくなる大活躍で、画面全体を飛び跳ねている。何度見てもすごいと思う。僕らの世代は喜劇人フランキーの位置がよく判らない。ジャズから映画界に入り、28歳の時のこの映画が一世一代の名演。テレビの「私は貝になりたい」の印象が強くなって、喜劇人としてのイメージが薄くなってしまった。小林信彦さんの本を読むと、当時のフランキーの重要性を感じる。そして、高杉晋作役、23歳の石原裕次郎。、実際の高杉晋作も、御殿山のイギリス公使館焼き討ち事件当時は23歳なのだ。目が素晴らしい。生き生きしている。

裕次郎は87年、フランキーは96年に死去。人気女郎を張り合う南田洋子は2009年没、左幸子は2001年没。皆亡くなっていく。そして、追悼を書いたばかりの二谷英明。幕末の志士、志道聞多(しどう・もんた=井上馨の当時の名前)役である。女郎屋の親父役の金子信雄(「仁義なき戦い」の山守組長役で有名だが、舞台、映画の他、テレビの料理番組でも活躍した)も95年没。まだ存命なのは、小沢昭一、芦川いづみ、小林旭、菅井きん位になってしまった。時の流れを感じると同時に、素晴らしい役者がなんてたくさん出ていたのだろうと思った。若い時期の伸び盛りのオーラが画面を圧倒している。
佐平次(フランキー)が金もないのに豪遊した後、女郎屋相模屋に居残りして下働きをする。女郎こはる(南田)とおそめ(左)が張り合いながら、客をあしらう。その一部屋に高杉晋作が居座り、イギリス公使館焼き討ちを計画している。様々な客や女郎の間をフランキーが駆け回る趣向で、筋は一本ではないので書きにくい。フランキーは晋作に対し、「侍がなんでえ」と言う。侍は百姓から年貢を取り立てればいいが、庶民は自分の働きで稼がなければならない、と。そして、ラスト、「地獄も極楽もあるもんけえ。俺はまだまだ生きるんでェ。」と言い放つ。これだよね、今見ることの意味は。いや、いつ見ても心に沁みるのは。50年代末の高度成長以前の映画だが、高度成長を実現させた日本、その後の沈滞する日本を見通したような素晴らしさである。
川島雄三監督は、ドライな喜劇、ブラックユーモア、風俗喜劇がたくさん作った。最近は「洲崎パラダイス 赤信号」の評価が高くなってきたが、「しとやかな獣」のブラックぶりも忘れられない。「明日は月給日」「適齢三人娘」などの初期作品はほとんど評価されなかったが、今見てみると面白くて再評価が必要だと思う。まだまだ埋もれている作品が多いのではないか。社会派や人情喜劇が昔は評価されて、ドライな喜劇が受けなかった。今見ると、ドライ派の方が面白い。川島雄三は難病持ちで、1963年に45歳で急逝した。戦前の山中貞雄と並んで、伝説の映画監督と言える存在である。「幕末太陽傳」は、そんな川島雄三監督の、生涯ただ一度のまぎれもない大傑作。何度でも見るべし。