さて、選挙制度論に戻ってあと数回。その後「18歳選挙権」問題も書きたいと思っている。現実政治の諸課題や選挙情勢と同じぐらい「選挙制度」というものもに関心があるもので。さて、3回目に、もし「比例代表制」だけだったら、日本の政治はどうなっていたかということを見た。そうすると、「郵政選挙」の小泉首相は確かに勝ったが、圧勝というほどでもなく、同様に2009年の民主党圧勝もなかった。また、2012年に至っては、自公連立政権が復活するかどうかわからなかった。「衆参のねじれ」というのも実際には起こらなかったかもしれないということになる。
もちろん実際には違っていたかもしれない。小選挙区では自民党有力議員に長年投票するが、決して自民党支持ではなく、比例区では別に投票する人もいるだろう。また、小選挙区で現職が圧倒的に強いから、投票に行かなかった人もいるだろう。比例代表だけになると、安定政権をつくるために小党に浮気せず、与党に票を集中させる動きも起こる。一方、もう大勢が決まっているから行かなかった「弱い安倍批判票」が比例代表なら行くかもしれない。自民党にとってプラス効果もマイナス効果も予想されるので、やってみないと判らない。
比例代表制度の良い点としては、各党の当選者数が国民が投票した割合の通りになるということに尽きる。だから、国民に選挙結果の不満が起きない。もっとも実際の投票では、きれいに割り切れる得票にならないから、いくつかの決め方がある。それによって多少の増減はある。(日本はドント式という決め方をしている。)だけど、誰が当選するのかという点に関しては、不満が起きることがある。各党があらかじめ順番を決めておく(拘束名簿式=1983年から98年まで6回の参議院選挙のやり方)方式だと、自民党とか民主党など大政党の1番目や2番目の候補が落選するわけがなく、候補者も国民に訴えるより、党内で順番を上げてもらうことの方に熱中しやすい。
そこで候補者の名前を書いてもらい(党名でもいい)、個人票の順番に当選を決める「非拘束名簿式」に2001年から変わった。それなら問題はないだろうというと、そうでもない。大組織に支援された候補がズラッと上位に並ぶことに毎回なっている。あるいは人気のあるタレント的候補を立てると、その候補の人気で弱小候補も救済されることになる。一方、個人票を多く獲得しても当選できないこともある。前回も緑の党から出た三宅洋平が176,970票を獲得し、個人票の順番では27位(48人が当選)だったが、他候補や党名得票が少なく、緑の党全部合わせて0.86%だったので落選になった。
そういう問題もあるけど、一番大きな問題は「多数派を形成しにくい」ということである。もちろん、それでいいという考えもあるだろうが、選挙前に「政権の枠組み」を決めて選挙をしても、どの党も多数を取れないことが起こりうる。そうすると、選挙前の公約と違って、議席を見ての裏交渉で政権が決まることになりやすい。1993年の衆議院選挙は、いわゆる「中選挙区」最後の選挙だったが、選挙前に「新生党」(小沢一郎らのグループ)や「新党さきがけ」(武村正義や鳩山由紀夫らのグループ)が自民党を離党したために、自民党が過半数を割り込んだ。そこで、社会党、新生党、公明党、民社党らが、選挙前にはどちらに付くと明言していなかった「日本新党」(細川護熙らのグループ)や「新党さきがけ」と協議し、少数派の細川護熙を首相に推すことで連立交渉がまとまった。非自民政権成立で人気が出たが、選挙前の公約にない枠組みだった。比例代表だと、毎回そうなるかもしれない。
外国の例を挙げると、ベルギーでは非常に長期間にわたって政権が作られなかったことがある。ベルギーは北部のオランダ語圏と南部のフランス語圏の対立という特殊事情があるが、比例代表制のため2010年6月の選挙では12の党が議席を獲得し、政権の枠組みがなかなか決まらなかった。次の政権が発足したのは、2011年12月となり、なんと541日も政権ができなかった。(その間は前政権が政治の実務を担当した。)日本では憲法で、衆議院選挙後の特別国会を30日以内に召集すると決められ、内閣総理大臣指名選挙で過半数獲得者がいない場合は上位2人の決選投票が行われる。だから、こんなに次期総理大臣が決まらないことがあり得ないが、衆議院の過半数を持たない「少数内閣」ができることはある。1994年に、前年に成立した細川内閣の後を受けた羽田孜内閣が、成立後に与党第1党の社会党が連立を離脱して「少数内閣」となったことがある。(不信任案が出れば成立するので、それを待たずに自発的に総辞職した。次が社会・さきがけに自民が乗った村山内閣。)
またイスラエルの国会(クネセト)も完全な比例代表制を取っている。その結果、全120議席を10の政党で分け合うことになり、ここのところずっと首相を出している右派政党リクードだが、30議席しか持っていない。小党をいくつか束ねて連立内閣を構成することになる。今の連立与党は「61議席」なので、宗教的に強硬な主張を持つ小党が離脱すると政権は崩壊しかねない。イスラエルの右派政権がパレスチナ問題などで柔軟な対応ができない理由の一つは、このような政治体制にある。だけど、宗教的な少数派保護のため、比例代表制を変えることはできないだろう。今までイスラエルの選挙でどこかの党が勝半数を制した事は一回もない。それもまた、ちょっと極端で困ったことではないだろうか。
こういう風に、一票の格差、少数勢力でも議席を獲得できる(多くの国民を議会政治に包摂できる)など、比例代表制の長所は大きいけど、同時に弱点もあるということである。じゃあ、小選挙区と比例代表を組み合わせればいいんじゃないかという発想になり、日本のような「並立制」もできた。でも、これはこれで多くの人が感じているようにさまざまな問題がある。理念的に完全な選挙制度は存在しないけど、ではどういう制度が「より良い」んだろうか。次はそういう問題を。
もちろん実際には違っていたかもしれない。小選挙区では自民党有力議員に長年投票するが、決して自民党支持ではなく、比例区では別に投票する人もいるだろう。また、小選挙区で現職が圧倒的に強いから、投票に行かなかった人もいるだろう。比例代表だけになると、安定政権をつくるために小党に浮気せず、与党に票を集中させる動きも起こる。一方、もう大勢が決まっているから行かなかった「弱い安倍批判票」が比例代表なら行くかもしれない。自民党にとってプラス効果もマイナス効果も予想されるので、やってみないと判らない。
比例代表制度の良い点としては、各党の当選者数が国民が投票した割合の通りになるということに尽きる。だから、国民に選挙結果の不満が起きない。もっとも実際の投票では、きれいに割り切れる得票にならないから、いくつかの決め方がある。それによって多少の増減はある。(日本はドント式という決め方をしている。)だけど、誰が当選するのかという点に関しては、不満が起きることがある。各党があらかじめ順番を決めておく(拘束名簿式=1983年から98年まで6回の参議院選挙のやり方)方式だと、自民党とか民主党など大政党の1番目や2番目の候補が落選するわけがなく、候補者も国民に訴えるより、党内で順番を上げてもらうことの方に熱中しやすい。
そこで候補者の名前を書いてもらい(党名でもいい)、個人票の順番に当選を決める「非拘束名簿式」に2001年から変わった。それなら問題はないだろうというと、そうでもない。大組織に支援された候補がズラッと上位に並ぶことに毎回なっている。あるいは人気のあるタレント的候補を立てると、その候補の人気で弱小候補も救済されることになる。一方、個人票を多く獲得しても当選できないこともある。前回も緑の党から出た三宅洋平が176,970票を獲得し、個人票の順番では27位(48人が当選)だったが、他候補や党名得票が少なく、緑の党全部合わせて0.86%だったので落選になった。
そういう問題もあるけど、一番大きな問題は「多数派を形成しにくい」ということである。もちろん、それでいいという考えもあるだろうが、選挙前に「政権の枠組み」を決めて選挙をしても、どの党も多数を取れないことが起こりうる。そうすると、選挙前の公約と違って、議席を見ての裏交渉で政権が決まることになりやすい。1993年の衆議院選挙は、いわゆる「中選挙区」最後の選挙だったが、選挙前に「新生党」(小沢一郎らのグループ)や「新党さきがけ」(武村正義や鳩山由紀夫らのグループ)が自民党を離党したために、自民党が過半数を割り込んだ。そこで、社会党、新生党、公明党、民社党らが、選挙前にはどちらに付くと明言していなかった「日本新党」(細川護熙らのグループ)や「新党さきがけ」と協議し、少数派の細川護熙を首相に推すことで連立交渉がまとまった。非自民政権成立で人気が出たが、選挙前の公約にない枠組みだった。比例代表だと、毎回そうなるかもしれない。
外国の例を挙げると、ベルギーでは非常に長期間にわたって政権が作られなかったことがある。ベルギーは北部のオランダ語圏と南部のフランス語圏の対立という特殊事情があるが、比例代表制のため2010年6月の選挙では12の党が議席を獲得し、政権の枠組みがなかなか決まらなかった。次の政権が発足したのは、2011年12月となり、なんと541日も政権ができなかった。(その間は前政権が政治の実務を担当した。)日本では憲法で、衆議院選挙後の特別国会を30日以内に召集すると決められ、内閣総理大臣指名選挙で過半数獲得者がいない場合は上位2人の決選投票が行われる。だから、こんなに次期総理大臣が決まらないことがあり得ないが、衆議院の過半数を持たない「少数内閣」ができることはある。1994年に、前年に成立した細川内閣の後を受けた羽田孜内閣が、成立後に与党第1党の社会党が連立を離脱して「少数内閣」となったことがある。(不信任案が出れば成立するので、それを待たずに自発的に総辞職した。次が社会・さきがけに自民が乗った村山内閣。)
またイスラエルの国会(クネセト)も完全な比例代表制を取っている。その結果、全120議席を10の政党で分け合うことになり、ここのところずっと首相を出している右派政党リクードだが、30議席しか持っていない。小党をいくつか束ねて連立内閣を構成することになる。今の連立与党は「61議席」なので、宗教的に強硬な主張を持つ小党が離脱すると政権は崩壊しかねない。イスラエルの右派政権がパレスチナ問題などで柔軟な対応ができない理由の一つは、このような政治体制にある。だけど、宗教的な少数派保護のため、比例代表制を変えることはできないだろう。今までイスラエルの選挙でどこかの党が勝半数を制した事は一回もない。それもまた、ちょっと極端で困ったことではないだろうか。
こういう風に、一票の格差、少数勢力でも議席を獲得できる(多くの国民を議会政治に包摂できる)など、比例代表制の長所は大きいけど、同時に弱点もあるということである。じゃあ、小選挙区と比例代表を組み合わせればいいんじゃないかという発想になり、日本のような「並立制」もできた。でも、これはこれで多くの人が感じているようにさまざまな問題がある。理念的に完全な選挙制度は存在しないけど、ではどういう制度が「より良い」んだろうか。次はそういう問題を。