濱口竜介監督の5時間17分に及ぶ「ハッピーアワー」(Happy Hour)が12月から公開されている。時間が時間だけになかなか見るチャンスがなかったけど、ようやく見た。間違いなく昨年公開の日本映画で最も面白い何本かに入る傑作である。(キネマ旬報ベストテン3位に選出。)ロカルノ映画祭で、4人の女優に主演女優賞が贈られた。なかなか見るチャンスもないかと思うが、ぜひ時間を作ってみて欲しい映画。長さの心配は全くしないでいい。面白くて時間を忘れて見られる。(東京では1月22日まで、シアター・イメージフォーラムで上映。)
今映像を載せたチラシの写真には、ケーブルカーに乗る4人の女性が映っている。どこだろうと思うと、神戸の六甲山のケーブルカーだと会話で判る。この4人の女性が主人公で、友だち同士である。37歳で、全員が結婚したことがあり、一人は中学生の子があり、一人は離婚した看護師で、後の二人は結婚継続中だが子どもはいない。それで友だち同士だから、どこかの大学の同級生かななどと思うが、二人が中学からの友人、後の二人は30過ぎてからの知り合いだという。最初の六甲ピクニックだけ見ると、和気藹々として、今度は有馬温泉に行こうなどと盛り上がっている。それで幸せそうな会話がずっと続くハッピーな映画になるかというと、もちろんそんなことはない。
この4人の女性は、全員がアマチュアの俳優がやっている。非常に存在感があり、最初はどんな人だろうと思っているわけだが、皆それぞれ抱えているものがあると判ってくる。俳優の知名度で売る映画ではないから、この4人の素晴らしい「女優」はここでは書かないことにする。第一部で「重心を聞く」というワークショップの場面がまず面白い。アートセンターみたいなところの職員(プログラムには「キュレーター」とある)がいて、参加者が少ないから来てと誘うのである。その日は鵜飼という人が来て、まず会場の椅子を立ててみせる。いやあ、これはちょっとビックリである。震災ボランティアで東北へ行き、流れ着くガレキを立てていたら、「からだの重心」という感覚を得たらしい。それ以来、「重心」をテーマにした身体活動を行っているという。その後、さまざまな身体のレッスンを行う。それで終わるかと思うと、そこで語られた「身体の声を聞く」ということが、後々の展開を予告していた。そして、鵜飼という人物も、意外な形で最後に関わりが出てくる。
第2部が「怒涛の展開」で、いやあ、それはそれはの連続。まず、離婚裁判から始まり、4人組にも亀裂が入り始める。有馬温泉では修復された幸福な時間が流れるように思うが、もうそこには「二度とない」ものが始まっていたのである。これから見る人のために詳しい展開は書かないが、4人の女性を「観察」することで、日本社会があぶりだされてくるのが素晴らしい。ドキュメント的な感じの作りかと予想するが、実はとても「劇映画」的な手法を駆使して、流れるような時間感覚をうまく演出している。
第3部になり、亀裂は様々に深まりゆくが、同時に「人が誰かを好きになるとはどういうことか」という大きな問いに立ちすくむような思いがしてくる。30代後半といえば、それなりの「恋愛経験」があある時期だけど、だからこそそれぞれの人間の本質が見えてくる。仕事や家庭でもいろいろある時期だし。夫婦や親子だけを見つめたベルイマンの映画などもあるが、この映画はさまざまな人々のさまざまなエピソードを描きわけ、全体として「現代日本」が見えてくる。けっして「ハッピー」ではない時間が。この映画は現実の日本人より、ワークショップなどで人々が「語っている」と思う。ここまで現実の日本人は会話できない感じはする。その意味では、「言葉の力」を「身体の力」と同じように使いこなした映画といえる。(だけど、アマチュア俳優がほとんどということから、俳優の顔や身体(の歪みも含めて)がかつてなく観察されている映画だと思う。)
濱口竜介(1978~)って誰だっけという感じだが、東日本大震災の被災者インタビューを撮った「なみのおと」「なみのこえ」を作った人(酒井耕との共同監督)。それ以前に「PASSION」(2008)が東京フィルメックスなどに出品、日韓合作の「THE DEPTHS」(2010)、4時間を超える「親密さ」(2012)など、劇映画を作り続けている。神奈川生まれだが、今は神戸を拠点に活動中という。映画中でワークショップや朗読会を行うセンターがあるが、そこは「神戸KIITO」というクリエイティヴ・デザインセンターだという。濱口監督はそこで演技のワークショップをしていて、主演の女優はその中から選ばれた。そういう映画の作り方も含めて、新しい才能が花開いた感じで、素晴らしい成果だと思う。
今映像を載せたチラシの写真には、ケーブルカーに乗る4人の女性が映っている。どこだろうと思うと、神戸の六甲山のケーブルカーだと会話で判る。この4人の女性が主人公で、友だち同士である。37歳で、全員が結婚したことがあり、一人は中学生の子があり、一人は離婚した看護師で、後の二人は結婚継続中だが子どもはいない。それで友だち同士だから、どこかの大学の同級生かななどと思うが、二人が中学からの友人、後の二人は30過ぎてからの知り合いだという。最初の六甲ピクニックだけ見ると、和気藹々として、今度は有馬温泉に行こうなどと盛り上がっている。それで幸せそうな会話がずっと続くハッピーな映画になるかというと、もちろんそんなことはない。
この4人の女性は、全員がアマチュアの俳優がやっている。非常に存在感があり、最初はどんな人だろうと思っているわけだが、皆それぞれ抱えているものがあると判ってくる。俳優の知名度で売る映画ではないから、この4人の素晴らしい「女優」はここでは書かないことにする。第一部で「重心を聞く」というワークショップの場面がまず面白い。アートセンターみたいなところの職員(プログラムには「キュレーター」とある)がいて、参加者が少ないから来てと誘うのである。その日は鵜飼という人が来て、まず会場の椅子を立ててみせる。いやあ、これはちょっとビックリである。震災ボランティアで東北へ行き、流れ着くガレキを立てていたら、「からだの重心」という感覚を得たらしい。それ以来、「重心」をテーマにした身体活動を行っているという。その後、さまざまな身体のレッスンを行う。それで終わるかと思うと、そこで語られた「身体の声を聞く」ということが、後々の展開を予告していた。そして、鵜飼という人物も、意外な形で最後に関わりが出てくる。
第2部が「怒涛の展開」で、いやあ、それはそれはの連続。まず、離婚裁判から始まり、4人組にも亀裂が入り始める。有馬温泉では修復された幸福な時間が流れるように思うが、もうそこには「二度とない」ものが始まっていたのである。これから見る人のために詳しい展開は書かないが、4人の女性を「観察」することで、日本社会があぶりだされてくるのが素晴らしい。ドキュメント的な感じの作りかと予想するが、実はとても「劇映画」的な手法を駆使して、流れるような時間感覚をうまく演出している。
第3部になり、亀裂は様々に深まりゆくが、同時に「人が誰かを好きになるとはどういうことか」という大きな問いに立ちすくむような思いがしてくる。30代後半といえば、それなりの「恋愛経験」があある時期だけど、だからこそそれぞれの人間の本質が見えてくる。仕事や家庭でもいろいろある時期だし。夫婦や親子だけを見つめたベルイマンの映画などもあるが、この映画はさまざまな人々のさまざまなエピソードを描きわけ、全体として「現代日本」が見えてくる。けっして「ハッピー」ではない時間が。この映画は現実の日本人より、ワークショップなどで人々が「語っている」と思う。ここまで現実の日本人は会話できない感じはする。その意味では、「言葉の力」を「身体の力」と同じように使いこなした映画といえる。(だけど、アマチュア俳優がほとんどということから、俳優の顔や身体(の歪みも含めて)がかつてなく観察されている映画だと思う。)
濱口竜介(1978~)って誰だっけという感じだが、東日本大震災の被災者インタビューを撮った「なみのおと」「なみのこえ」を作った人(酒井耕との共同監督)。それ以前に「PASSION」(2008)が東京フィルメックスなどに出品、日韓合作の「THE DEPTHS」(2010)、4時間を超える「親密さ」(2012)など、劇映画を作り続けている。神奈川生まれだが、今は神戸を拠点に活動中という。映画中でワークショップや朗読会を行うセンターがあるが、そこは「神戸KIITO」というクリエイティヴ・デザインセンターだという。濱口監督はそこで演技のワークショップをしていて、主演の女優はその中から選ばれた。そういう映画の作り方も含めて、新しい才能が花開いた感じで、素晴らしい成果だと思う。