尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「お友だち政権」どころじゃないトランプ政権

2017年01月10日 23時50分27秒 |  〃  (国際問題)
 トランプ政権の人事がだんだん決まっていく中で、これはあまりにひどすぎるだろうという感じになってきた。ついには長女の夫であるクシュナー氏が大統領上級顧問になるという。当初は国務長官に、前回の共和党大統領候補ロムニー氏という声が高かった。それが実現していれば、「オール共和党」で出発するんだという形は取れたかもしれない。しかし、陣営内部にロムニー氏の大統領選挙時の対応を批判する声が高くてつぶれたという。「根に持つタイプ」なのである。

 結局、今のところ候補の多くがウォール街や軍人出身になってしまっている。国務長官や国防長官も、政治的能力が不明な人物ばかりである。今後、上院で承認が必要になるが、公聴会で失言やスキャンダルが出ないとは言えない。共和党が多数を占めているとはいえ、52議席だから数人が造反すれば承認されない。アメリカは党議拘束が緩いから、最初の最初からもめる可能性も高い。

 ぼくは昨年11月の当選直後に「トランプ大統領はどうなるか」を書き、「お友だち政権」になるだろうと書いた。今のところ、それどころではない「側近政治」になりつつある。かつてのラテンアメリカや東南アジアみたいな感じを思い浮かべると近いのではないか。その時に、石原や橋下がいた日本だからわかることがあるとも書いた。つまり、いずれ「暴言」が連発するだろうと思ったんだけど、どうせなら「維新」のようにツイッターで問題を起こすだろうと書けば大当たりだった。でも、さすがにそれは当選後は控えるだろうと思っていたのである。ちょっと甘かった。

 ところで、大統領選挙の最終得票だけど、ヒラリー・クリントン=65,844,610票(48.1%)、ドナルド・トランプ=62,979,636票(46.0%)になっている。286万票以上の差である。選挙制度の問題で結果は違ったが、ここまでの大差がついていると、米国民の多数によって選ばれたという正統性に明らかに疑問がある。トランプがツイッターで居丈高に批判を繰り返すのも、自分が米国民の多数によって選ばれていないという不安や自信のなさが背景にあるのではないか。

 例えば、ゴールデングローブ賞の授賞式でメリル・ストリープがトランプ(の名前は出していないが)を批判したという出来事がある。それに対して、トランプは「メリル・ストリープはハリウッドで最も過大評価されている女優の一人だ。(略)彼女は大負けしたヒラリーの取り巻きだ」などと「反撃」した。この「大負けしたヒラリー」などという言い方に、自分が300万票近く負けていることを意識している感じがうかがわれる。それにメリル・ストリープを「過大評価」などというのも、口が滑ったでは済まない人間性のレベルが露呈している。(批判のもとになった障害がある記者のモノマネも品がない。)

 なんでもトランプは、批判されると「倍返し」するタイプなんだそうだ。いま世界中のリーダーは、これらのやり取りを注意深く見つめて分析しているだろう。小国はいかにトランプを怒らせないかを探るために。一方、いくつかの大国は「いかにトランプを怒らせて、自分の方が冷静な指導者だと内外に見せつけられるか」を探るために。特に、ロシアや中国はどう対応するか。この問題は別に考えたいが、ロシアが米大統領選を左右した可能性は、どこまで信じられるかは別にして今後考慮しておいた方がいいだろう。一説にはロシアは共和党陣営もハッキングしたがリークしなかったという。そうなると、ロシアはトランプに(表立っては言えないけれど)大きな貸しがあることになる。

 僕は当初は「トランポノミクス」が注目されるかもしれないが、いずれ外交上の混乱に加え、親族や側近などの内紛、それに伴ってビジネスなどの利益相反、利益誘導などが問題視されることは予測できる。そうなると、トランプは一期で終わるか、それどころか韓国のように弾劾問題が浮上する可能性さえ考えておいたほうがいい。単に、右派や保守派が政権に就いたという「政策上の問題」に留まらない混乱を予想しておく方がいい。だから、世界も日本も、今後はトランプだなどとついていかずに、嵐が過ぎ去るのを待つ方は賢明だと思う。
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トランプのトヨタ批判をどう考えるか

2017年01月10日 12時37分28秒 |  〃  (国際問題)
 そろそろトランプ政権のことを書いておこうかと思ったら、昨日はブログに接続できなかった。(gooブログすべてに対して。) さて、本格的に書く前に、トランプ米国次期大統領のトヨタ批判について考えてみたい。トヨタがメキシコに工場を建設することを、5日にツイッターで批判したわけである。これは「絶対に許されないこと」だと思う。普通の常識で考えて、大統領になろうとするものが行うことではない。

 その結果、日本市場でトヨタの株が急落した。前日の終値が7049円だったものが、一時は6830円に下がった。終値は多少持ち直して、6930円になったが、119円の下げを記録した。(連休明けの10日午前終値は、6940円。なお、トヨタ株の単元数は100株。前年度の配当は一株当たり210円。)

 何も僕はトヨタをことさらに擁護しようというわけじゃない。トヨタという会社の経営のあり方には、今まで多くの批判を持ってきた。でも、トヨタの経営方針を決めるのはトヨタの役員会であって、株主総会以外の場で権力者が経営のあり方に口をはさむというのは、どう考えても納得できない。

 トヨタがメキシコに工場を建設しても、アメリカの工場を閉鎖するわけではない。だから、直接にはアメリカ政府に何の関係もないことである。もちろん、NAFTA(北米自由貿易協定)がある以上、メキシコで生産された自動車はアメリカに輸出しやすい。その協定そのものを批判するのは政治家の自由である。その結果、株価に変動があっても、それはやむを得ざる政治リスクというもんだろう。

 でも、いまは現にNAFTAというものがある以上、メキシコに工場を作るというのは、合理的な経営方針であるというしかない。トヨタ以前にフォードやGMも同様な批判を受けている。それを受けて、フォードはメキシコ工場建設を中止した。それもおかしな話だと思うんだけど、フォードやGMはアメリカを代表する会社で、誰しも名前を知っている。ある意味では仕方ないというか、有名税みたいなところがある。

 それでも、経営者が政治家に言われて方針転換するのは、株主訴訟リスクが存在するはずだ。会社の利潤を最大化するのが経営者の最大の仕事だと考えるなら、経営的合理性を欠いた判断には、株主が経営陣を訴えるリスクがある。でも、その場合今度はその株主や担当弁護士が、大統領から口汚く批判されるだろう。だから、予想される恫喝に、事前に屈してしまう可能性が高いわけである。

 ところで、トランプは「トヨタがバハにカローラを生産する新工場を作る」と書き込んだ。バハというのは、カリフォルニア州の南のバハ・カリフォルニア州のことである。厳密に言えば、これは事実に反するという。2015年4月に、メキシコ中部のグアナファト州にカローラ工場を新設すると発表した。一方、バハにはすでに工場があり、ピックアップトラックを作っている。

 そんなことはちょっと調べればわかると思うが、要するに「聞きかじり」でちゃんと確認もせずに批判しているのだろう。メキシコに作ることは同じだから、トランプにとっては「ささいなこと」なんだろうと思う。だけど、これは非常に重要な事実を示唆していると思う。それは「トランプの思い込み」で、世界的に重要な企業の株価が大影響を受けるということである。

 これでは「インサイダー取引の温床」となりうる。僕がこの問題を書いているのも、トヨタとか他の自動車企業の問題ということではなく、権力者が個別企業の批判をしてはならないと思うからである。これでは、次にトランプがどこを標的にするか、事前に判れば大儲けができることになってしまう。だから、大国の指導者が個別企業をあれこれ、ちゃんと調べもしないで批判したりはしないものである。

 トヨタの株主構成を調べてみると、日本の金融機関が30.65%、外国法人が26.85%、日本の個人株主が21.1%となっている。(2016年3月末現在。)つまり、トヨタの4分の1以上が外資である。トランプはともかく、関連の財団、あるいは支持者の関係する法人などには、トヨタ株を持っているところもあるはずだ。批判を事前に知れば、売り払うとか空売りするとかができる。そういうことが可能になるわけだから、「李下に冠を正さず」で個別株に影響を与える発言はしないものだろう。

 トランプ本人にそういう意図がなくても、やがてトランプに影響をあたえうる側近や有力者の中には、その地位を蓄財に利用する人々が出てくるだろうと思う。そうして、その人々に群れる人も出てくる。だから、誰も信用できなくなると、親族の重用になる。早くもそうなりつつある。そういうことが予測できるという意味で、トヨタ批判問題は興味深いし、取り上げてみたわけである。まあ、「瓜田に履を納れず、李下に冠を正さず」という言葉こそ、トランプに無縁のものもないのだろう。
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