尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

トランプ政権の「日米安保論議」をどう考えるか

2017年01月11日 23時19分49秒 |  〃  (国際問題)
 トランプ政権の問題続き。トランプ氏が選挙戦中に、日本の防衛問題にも問題ツイートを連発した。アメリカにただ乗りしているとか、日米安保を見直すとか、日本も核武装すればいい(と受け取れる)ような話が相次いだ。「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ政権では、日米安保条約はどうなるのだろうか。日本国内では、なんだか左右両勢力ともに、日本はこの際「自立」する好機ではないかなどと内心で喜んでいるような人がかなりいるようである。

 もちろん、左は「アメリカ従属を離れて、より中立的になるチャンス」と受け取り、右は「日本の防衛力を格段に増強し、あわよくば核武装まで行くチャンス」と受け取っているのかなと思う。僕はそういう政策的選択以前に、そもそも現状理解が正しいのかどうかに疑問がある。はっきり言えば、日本人の戦略的思考力が試されているし、あまりにもナイーブな世界認識では困ってしまうと思う。
 
 確かに「アメリカ一強」という時代は終わりつつあるだろう。その意味では、今後何十年か「弱いアメリカとどう向き合うか」という問題に日本は直面する。なぜ弱くなったのか。トランプ支持者は、オバマ政権の弱腰がアメリカを弱体化したと非難するだろう。一方、オバマ支持者は、ブッシュ政権のイラク戦争やリーマンショックがアメリカを弱体化したと非難するだろう。そういう問題もあるかもしれないが、もちろん70年代、80年代頃から長期的に下落しているんだし、個々の政権の政策だけでなく、もっと長いスパンで考えるべき文明史的問題を指摘するべきだ。

 まあ、ちょっと大きな問題はさておき、当面のトランプ政権は何を考えているのだろうか。実録ヤクザ映画風にたとえ話を考えてみると、こんな感じになるのではないか。「大組織アメリカ組の新親分」が、「俺たちの組も大変なんだ」と言い出しているのは確か。「今後の抗争(でいり)の時も、それほど助けに行けないかもな」とも確かに言ったんだと思う。それを聞いた「アメリカ組傘下の日本組」には、「これを潮時にカタギになろうか」とか、「アメリカ親分の跡目争いに日本も乗り出そう」とかいう人がいる。

 でも、アメリカ新親分の真意はどこにあるか。日本組は俺の子分のくせして、こそこそ汚い稼ぎをしてるだろ。(メキシコに工場を作るとか。)だから、今後は「もっと上納金を持って来いや」。これが新親分の真意であって、親分は自立を求めているなどと勘違いして、独自の動きでもしようものなら、おいお前ら勘違いするなと他の子分に声を掛けて、さっそくつぶされるだろう。

 実際に抗争(でいり)が起こったら、確かに今後「アメリカ組」は日本組を十分に助けにこないかもしれない。でも日本組が勝手に突っ走っても後ろから弾を打たれる。他の組と独自に手打ちしても、露骨に嫌がらせされる。要するに、新組長の求めるものは、もっともっと熱心に下働きして文句も言わずに金だけ上納することなのだ。やがてはっきりすると思うけど、僕はそういうことだと思っている。

 ということで、トランプの求めるものは、日本の自立ではなくて「より一層の従属」であるだろう。そう思わないといけない。では、核兵器発言は何なのか。もちろん、条約上も国民感情からも、日本の核武装は空想の域であり、拙劣な思いつきにしか過ぎない。多分、トランプもそんなに深く考えず、思いつきで発したんだと思う。イギリスは国連常任理事国であり、核兵器も持つが、米軍とともにイラク侵攻に参加した。日本が核兵器を少しぐらい持ったとしても、アメリカに従属する立場は変わらない。今後アメリカが助けに行かないこともある、それが心配で仕方ないんだったら、核兵器の一発や二発持たせてやればいいじゃないか。その程度の思いつきなんだろうと思っている。

 アメリカ・ファーストといっても、言うまでもなくアメリカの権益は世界中に存在する。都合のいい時だけ、アメリカ・ファーストと「引きこもり」を決め込むだけで、今後も基本的には世界に関わらざるを得ない。アジア方面では、日本の米軍基地ほど使い勝手がいい場所はないんだから、軍人出身者が権力を握るトランプ政権で、日米安保が変わるなどと「希望」あるいは「心配」するわけにはいかない。

 もうすでに「思いやり予算」をたくさん支出しているではないか。と言っても、それを露骨に持ち出せば、いかに世界をビジネスでとらえているらしいトランプと言えど、逆手に取ってくるだろう。日本はお金でアメリカの若者の血を買うのかなどと。日米安保の表面上の意味は、日本に対する侵略を米軍が守るということなんだから、保守政治家が言い返すことは難しい。「オバマはだませたかもしれないが、私はだませない。日本人はやはり卑怯者だ」などとツイートされるのがオチである。

 2017年は中国共産党大会がある年だ。そして、弾劾問題がどうなろうと、韓国大統領選も行われる。そういう年には、歴史問題や領土問題が敏感になりやすい。そこに、トランプ新政権の出方が不明なこともあり、今年の東アジア情勢は不透明な点が多い。トランプの真意を確かめるために、中国は尖閣諸島や南シナ海での軍事的存在を高めるだろうという予測もある。でも、「一つの中国」問題や「為替不正国」問題をめぐり、党大会を控えた中国指導部がアメリカと「火遊び」する余裕はないという考えもありうる。そこらへんは僕にはなんとも予測はできない。

 しかし、いま言えることは、安易な希望は慎んだ方がいいということである。トランプ政権は日米安保に懐疑的だから、沖縄の基地問題を解決するチャンスだ…などというのは妄想に過ぎないだろう。もう一つは、為政者が賢くふるまう重要性が今以上に高まるということである。安倍政権の対応は、そこが一番心配なところで、トランプ政権発足を前に日韓の関係を悪化させているとしか思えない。

 そして、最後に。政治は取引、世界はビジネスと思っているらしいトランプ大統領にたいして、いますぐ目に見える成果に結びつかないとしても、「平和主義」の市民運動が絶対に必要だということである。日本でも、沖縄の反基地運動はお金をもらってやっているなどといった「フェイクニュース」をばらまく手合いがいるらしい。身銭を切って、平和や人権に取り組む人がいるということが信じられないのかもしれない。だからこそ取引ではない「正義の世界」があるということを示す意味がある。そこにこそ違った世界観の人が存在するというデモンストレーションになる。
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