尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

タヴィアーニ兄弟の映画を見る

2019年05月01日 23時15分00秒 |  〃  (旧作外国映画)
 毎年ゴールデンウィークの期間に、イタリア映画の新作を紹介するイタリア映画祭が開かれる。調べてみると2001年から続いている。最初の頃はけっこう行ってたんだけど、最近は行かなくなってしまった。ここで上映された後で正式に公開される映画も多くなって、そのときに見ればシニア料金。出来映えが中程度の映画なら、早く見てもすぐに忘れてしまうから、まあいいじゃないかとなる。一時は公開されるイタリア映画は全部見ようと思ってたけど、最近は多すぎてもう無理だ。

 しかし、今年は新作じゃなくて旧作をイタリア映画祭で見た。タヴィアーニ兄弟の2本の映画である。世界には兄弟で映画を作っている監督がいて、ベルギーのタルデンヌ兄弟やアメリカのコーエン兄弟などが有名。イタリアのタヴィアーニ兄弟は中でも早くから活躍してきたが、弟のパオロ・タヴィアーニが2018年に亡くなった。そこで同じく物故したエルマンノ・オルミとともに追悼上映が行われた。
 (ベルリン映画祭で金熊賞を受けるタヴィアーニ兄弟)
 兄弟監督にもいろんなタイプがあるが、タヴィアーニ兄弟は兄のヴィットリオと弟のパオロが脚本と演出を共同で担当する。脚本には第三者が加わることもあるが、演出はシーンごとに交互に行っているという。共同脚本の段階でイメージが共有されているからだろうが、映像上の違和感はどこにも感じられない。60年代から活躍してきたが、日本で初めて公開されたのは、1982年の「父 パードレ・パドローネ」(1977年カンヌ映画祭パルムドール)だった。その後、1987年の「グッドモーニング・バビロン」はキネ旬ベストワン。2012年の「塀の中のジュリアス・シーザー」はベルリン映画祭金熊賞。

 今回見たのは、まず30日夜に「ひばり農園」(2007)、そして1日に「サン★ロレンツォの夜」(1982年カンヌ映画祭グランプリ)の2本。前者は後回しにして、「サン★ロレンツォの夜」から。イタリアでは8月10日がサン・ロレンツォの日だそうで、その日は「流れ星に願いをかける」という。ペルセウス座流星群の季節で、日本でも流星が見られる時期である。この映画は1944年の8月10日を描く。第二次大戦末期、イタリアでは米軍が南から進攻する一方、北イタリアでは一時は失脚したムッソリーニがナチス・ドイツの援助で復権し、パルチザン部隊との間にし烈な戦いが起こっていた。
 (サン★ロレンツォの夜)
 ナチスが村を破壊すると脅して、村人に聖堂に集合せよと通知する。一部の人々はナチスを信用できず、他の村へ逃げようという。村人が二つに分かれたが、どちらを選択しても過酷な現実が待っていた。その逃避行を描くのが「サン★ロレンツォの夜」で、トスカーナの美しい農村地帯を舞台になっている。当時6歳の女の子の目を通して描かれるが、子どもからすればナチスによる町の爆破も一種の楽しみ。戦闘も古代ギリシャの戦闘みたい。子どもの目にはファンタジーのような戦争だが、実は凄惨な内戦だという現実。その対照が非常に興味深く、また感銘深い。戦時中のレジスタンスが同じ村の知り合い同士による残虐な殺し合いだったという苦い認識に重みがある。公開当時に見たときからすごく好きな映画で、もう一回見られて良かった。

 一方、「ひばり農園」は第一次大戦中のオスマン帝国によるアルメニア人大虐殺を正面から描く作品だった。これは映画祭上映のみで、正式には公開されていない。日本ではテーマになじみがないと思われたのだろうが、これほどの力作が埋もれてしまうのはもったいない。原作はイタリアで書かれた小説らしいが、映画の展開はかなり類型的なパターンになっている。町ではトルコ軍とアルメニア人の関係は悪くない。アルメニア人の有力者一家には、トルコ人軍人と恋仲の娘もいる。しかし、軍中央から来た特命部隊が子どもも見逃さず男は全員虐殺してゆく。
 (ひばり農園)
 女たちは捕えられ長い苦難の行軍を強いられる。逃避行を描くことで2本の映画は共通しているが、「ひばり農園」の逃避行は監視付きである。演出力で人物がうまく描き分けられて一気に見られるが、確かに「告発映画」に止まる感じもする。アルメニア系カナダ人のアトム・エゴヤン監督の「アララトの聖母」(2002)のような映画もあるが、まだまだ世界的には知られていない。問題の大きさから、この映画も意味があると思う。若くしてイタリアへ移民した一族の兄が一家を救おうとして奔走する。そのときにトルコ人の「乞食組合」のネットワークが活かされる。アラブ人の「乞食組合」もあって、金はかかるが協力は得られる。そのような下層民の描き方が興味深かった。 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする