アメリカ最高裁は非常に重大な役割を担っている。そのことはよく知っているけど、さすがに裁判官の名前までは知らなかった。ところが最近、「RBG 最強の85歳」と「ビリーブ 未来への大逆転」という2本の映画が公開されて、ルース・ベイダー・ギンズバーグ(Ruth Bader Ginsburg、1933~)という人の名前を覚えた。当然ながらアメリカではすごく有名で、ある種大衆的な人気を誇っているらしい。テレビ番組でモノマネされるぐらい。保守化が進む最高裁の中でリベラル派を代表する存在である。
「RBG」はドキュメンタリー、「ビリーブ」は劇映画だが、どちらもギンズバーグ判事が若い頃から性差別と闘ってきて、法体系の中に「性差別」という概念を確立させた業績を描いている。トランプ時代の危機感を背景にして、アメリカでもギンズバーグ判事への注目が高まっていることがよく判る。もちろん両方見る方がよく判るが、「社会問題」に関心がある人には「RBG」、カップルで見ても楽しめて勉強になるのが「ビリーブ」かな。「法廷もの」としてもドラマチックである。
ギンズバーグ判事は父がウクライナ系、母がオーストリア系のユダヤ人で、コーネル大からハーバードのロースクールに進学した。500人ほどの学生の中で女性はたった9人だったという。ここで夫のマーティンと知り合う。結婚、出産に加え、マーティンが若年性のガンで闘病生活になる。そこで多くの人は諦めると思うが、ルースは夫の支えで勉学を続けた。このマーティンという人の素晴らしさが印象的だ。ルースが生真面目な頑張り屋なのに対し、マーティンは冗談好きで社交性が高い。料理も上手で、子どもたちは父の料理を望んだという。病気から回復したマーティンは、ニューヨークで一番の税務弁護士になる。しかし、性差別を扱う妻の歴史的意義を理解して支え続けた。
若い頃のルースはとびきりの美人だけど、なんとも素晴らしいカップルが生まれたもんだ。同時代の男性としては信じられないぐらいだ。60歳を超えて年齢的に最高裁は遠ざかったと思われていたルースだが、「RBG」を見るとマーティンの奔走が最高裁判事候補に押し上げたらしい。クリントンはルースと面談してすぐに能力を認めたという。共和党のほとんども賛成して、96対3で承認された。(アメリカの最高裁は9人の裁判官が終身で務める。大統領が指名し、上院の同意が必要。本人から辞めない限り定年はないので、長く影響力を残すため40代、50代前半ぐらいの候補者が多い。)
ところで「ビリーブ」を見ると、最初の「性差別」判例は「独身男性が母を介護しても、福祉手当が支給されない」という問題だった。この話は「RBG」に出てこない。「妻が死んで子どもを育てている男性に育児手当が支給されない」というのは出てくる。しかし「空軍で女性には住居手当が支給されない」ケースが、「RBG」で最初に出てくる。男性が育児、介護するケースが想定されず(あるいは再婚すれば良いと思われて)、福祉の対象にならないというのはもちろんおかしい。最初のケースとして「男性に対する性差別」を取り上げた戦略も重要だ。(「ビリーブ」は強調し過ぎかもしれない。)
ルースは優秀な成績でロースクールを卒業したが、ニューヨークで雇ってくれる法律事務所がなかった。(マーティンがニューヨークで仕事を始めたため、ルースもハーバードからコロンビア大学に移っていた。)そんなバカなという感じだが、それほど法曹界は男の仕事場だったことに驚く。そこでルースはラトガース大学で教職についた。そして自由人権協会で多くの性差別事件を扱って知られるようになっていった。そこら辺の詳しいことは、どちらの映画でも扱われている。「ビリーブ」は人生の途中までを描くが、「RBG」は今の時点で作られたドキュメンタリーだから、最高裁時代が詳しい。ニュースなどの映像も豊富で興味深い。最高裁では当初は合意を目指していたが、最近は保守派が優勢なので「反対意見」を公にすることが多い。それが非常に注目される原因だ。
これらの映画を見て判ることは、「闘った先人がいて現在がある」ということだ。あるいは「闘って敗北した先人がいて、現在の惨状がある」とも言えるか。日本だって同じである。日本でも産休もなかった時代に闘った女性労働者がいた。妊娠して解雇されたり、男女で定年年齢が異なったり、賃金で差別されたり。女性だけでなく、外国人、障害者などが差別に対する裁判闘争を起こした。今はもう当たり前になりすぎて、昔裁判で闘った過去を知らない人が多い。日本でもこういう映画やテレビドラマが欲しい。記録映画は時々あるけれど、多くの人が見るには劇映画の方がいい。学校などでの鑑賞もおすすめ。特に「BRG」は英語の勉強にもなると思う。
「ビリーブ」(原題=On the Basis of Sex)は、ミミ・レダー監督、主演はフェリシティ・ジョーンズ。「RBG」はジュリー・コーエンとベッツィ・ウェスト監督・製作で、2018年のアカデミー賞長編記録映画賞にノミネートされた。
「RBG」はドキュメンタリー、「ビリーブ」は劇映画だが、どちらもギンズバーグ判事が若い頃から性差別と闘ってきて、法体系の中に「性差別」という概念を確立させた業績を描いている。トランプ時代の危機感を背景にして、アメリカでもギンズバーグ判事への注目が高まっていることがよく判る。もちろん両方見る方がよく判るが、「社会問題」に関心がある人には「RBG」、カップルで見ても楽しめて勉強になるのが「ビリーブ」かな。「法廷もの」としてもドラマチックである。
ギンズバーグ判事は父がウクライナ系、母がオーストリア系のユダヤ人で、コーネル大からハーバードのロースクールに進学した。500人ほどの学生の中で女性はたった9人だったという。ここで夫のマーティンと知り合う。結婚、出産に加え、マーティンが若年性のガンで闘病生活になる。そこで多くの人は諦めると思うが、ルースは夫の支えで勉学を続けた。このマーティンという人の素晴らしさが印象的だ。ルースが生真面目な頑張り屋なのに対し、マーティンは冗談好きで社交性が高い。料理も上手で、子どもたちは父の料理を望んだという。病気から回復したマーティンは、ニューヨークで一番の税務弁護士になる。しかし、性差別を扱う妻の歴史的意義を理解して支え続けた。
若い頃のルースはとびきりの美人だけど、なんとも素晴らしいカップルが生まれたもんだ。同時代の男性としては信じられないぐらいだ。60歳を超えて年齢的に最高裁は遠ざかったと思われていたルースだが、「RBG」を見るとマーティンの奔走が最高裁判事候補に押し上げたらしい。クリントンはルースと面談してすぐに能力を認めたという。共和党のほとんども賛成して、96対3で承認された。(アメリカの最高裁は9人の裁判官が終身で務める。大統領が指名し、上院の同意が必要。本人から辞めない限り定年はないので、長く影響力を残すため40代、50代前半ぐらいの候補者が多い。)
ところで「ビリーブ」を見ると、最初の「性差別」判例は「独身男性が母を介護しても、福祉手当が支給されない」という問題だった。この話は「RBG」に出てこない。「妻が死んで子どもを育てている男性に育児手当が支給されない」というのは出てくる。しかし「空軍で女性には住居手当が支給されない」ケースが、「RBG」で最初に出てくる。男性が育児、介護するケースが想定されず(あるいは再婚すれば良いと思われて)、福祉の対象にならないというのはもちろんおかしい。最初のケースとして「男性に対する性差別」を取り上げた戦略も重要だ。(「ビリーブ」は強調し過ぎかもしれない。)
ルースは優秀な成績でロースクールを卒業したが、ニューヨークで雇ってくれる法律事務所がなかった。(マーティンがニューヨークで仕事を始めたため、ルースもハーバードからコロンビア大学に移っていた。)そんなバカなという感じだが、それほど法曹界は男の仕事場だったことに驚く。そこでルースはラトガース大学で教職についた。そして自由人権協会で多くの性差別事件を扱って知られるようになっていった。そこら辺の詳しいことは、どちらの映画でも扱われている。「ビリーブ」は人生の途中までを描くが、「RBG」は今の時点で作られたドキュメンタリーだから、最高裁時代が詳しい。ニュースなどの映像も豊富で興味深い。最高裁では当初は合意を目指していたが、最近は保守派が優勢なので「反対意見」を公にすることが多い。それが非常に注目される原因だ。
これらの映画を見て判ることは、「闘った先人がいて現在がある」ということだ。あるいは「闘って敗北した先人がいて、現在の惨状がある」とも言えるか。日本だって同じである。日本でも産休もなかった時代に闘った女性労働者がいた。妊娠して解雇されたり、男女で定年年齢が異なったり、賃金で差別されたり。女性だけでなく、外国人、障害者などが差別に対する裁判闘争を起こした。今はもう当たり前になりすぎて、昔裁判で闘った過去を知らない人が多い。日本でもこういう映画やテレビドラマが欲しい。記録映画は時々あるけれど、多くの人が見るには劇映画の方がいい。学校などでの鑑賞もおすすめ。特に「BRG」は英語の勉強にもなると思う。
「ビリーブ」(原題=On the Basis of Sex)は、ミミ・レダー監督、主演はフェリシティ・ジョーンズ。「RBG」はジュリー・コーエンとベッツィ・ウェスト監督・製作で、2018年のアカデミー賞長編記録映画賞にノミネートされた。