尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

トランプ流「戦争」観、「弱者」の抵抗を認めずー「トランプ2.0」考②

2025年02月20日 21時57分29秒 |  〃  (国際問題)

 トランプ外交をどう理解するべきか。「ガザ所有論」に続き、ウクライナ戦争では「ロシア寄り」がはっきりしてきた。ごく最近には、ウクライナのゼレンスキー大統領を「独裁者」と非難し、戦争はウクライナが始めたかのような表現をしている。ヨーロッパ各国首脳を初め世界で批判されているが、トランプ大統領はどうしてこういう発言を繰り返すのだろうか。一部では「プーチン大統領を交渉の席に着かせるため」とか、「偽情報に惑わされている」という観測もあるが、僕の見るところ「トランプ流戦争観」に基づく確固とした「独自の世界観」から、本気でそう思い込んでいるんだと判断している。

(ゼレンスキー大統領を非難するトランプ大統領)

 ウクライナ戦争は、ロシアから攻撃を開始したものである。そこに至る経緯に関して、いろいろなことを言う人があるが、直接の始まりはロシアの侵攻によるものだ。だから、「ウクライナが始めた」という表現は、通常の理解としては間違っている。しかし、恐らくトランプ流世界観では、「戦争は弱者が長引かせる」のである。つまり、ウクライナが戦力で圧倒的に弱い事実を認めて「抵抗をしなければ」戦争は起こらなかったと考えるわけである。

(ウクライナ戦争を4月20日までに終わらせる)

 従って「戦争は弱者が起こす」のである。アメリカには先住民がいたが、ヨーロッパからの移民が先住民の抵抗を排除して全土を制圧した。それを「アメリカ先住民の悲劇」と見るのが現在では一般的な見方だろうが、トランプ流では「悲劇はインディアンが起こした」となるはずだ。「抵抗」しなければ良かったのである。日本との戦争でも、敗北が迫っている現実を直視して降伏しなかったから原爆を使うしかなかったと見えるだろう。そういう見方には「一面の真実」もあると思うが、非戦闘員を数万単位で殺傷することを前提とする兵器は間違いなく国際法違反である。何にせよ、すべて強いものから見るのがトランプ流である。

(トランプとプーチン)

 トランプ大統領プーチン大統領は、価値観を共有している。「伝統」を重視した権威主義体制、性的マイノリティへの敵意、「宗教保守」への依存などで、要するに「同じ極右政治家」なのである。だから相通じるものがあるのだろう。そして彼らには「弱者への軽蔑」という共通の人生観がある。弱者が「抵抗」せず、強い者の権威を承認して服従していれば、そこに「戦争」「紛争」は起きない。それが彼らの考える「平和」なんじゃないだろうか。これは今のスタンダードな考えでは「平和」とは呼ばない。「強者」が暴力で支配する「平和」、DVや体罰で維持された「何も起きない日常」は、戦争の一形態である。

(サウジアラビアでの米ロ高官協議)

 トランプ流外交とは、「強者の取引」のはずだ。だから、ウクライナにも援助するなら「レアアースの利権を寄こせ」と公然と要求している。セレンスキー政権が拒否したので、トランプにとってセレンスキー政権は守る価値がないものとなった。公になるかどうかは疑問だが、次には「密約外交」が始まる可能性がある。例えばロシアがガザやグリーンランドのアメリカ支配を承認する(異議を唱えない)代わりに、アメリカはウクライナ4州(及びクリミア)のロシア支配を承認すると言うような。

 ロシアでは1945年のヤルタ会談における密約(ソ連が対日参戦する代わりに、千島列島のソ連帰属を認める)を「大成功」と認識しているらしい。そうすると、21世紀にも同じような「外交の成果」を求めてくるだろう。僕が注目しているのは、「シリアのロシア軍基地がどうなるか」である。アサド政権崩壊後のシリアで、ロシア基地がどうなるかは中東に限らない大問題である。そして、これはトランプの「取引」にとっても大事な材料になるのではないだろうか。

 当然ながら、トランプは中東の戦争も「パレスチナが始めた」と見ているだろう。イスラエルに敗北したパレスチナ人がイスラエル建国を認めて周辺各国に移住していれば、戦争は何十年も前に終わっていた。パレスチナの「抵抗」が戦争の悲劇を呼んだと考えるのがトランプの考えだと思う。要するにロシアとイスラエルは「勝利」したのであって、それを皆が認めれば「平和」になるのである。こういう発想は19世紀の帝国主義外交に近いが、それが戻ってきたと考えるべきだろう。

 こういうトランプ理解がどこまで正しいかは僕には判断出来ない。しかし、「自分にはそう見える」ということだ。そして、そういうトランプ流戦争観は恐らく今までの生育歴の中で形成されてきたもので、もはや変えようがない確固としたものとなっている。トランプ氏は「成功した不動産業者」ということになっているが、不動産開発においては多くの労働法制や環境規制に悩まされてきた。それらは「弱者」が連邦や州政府を利用して作られた、富裕層から冨を盗む「社会主義政策」とみなす。

 だから、トランプは「盗まれたもの」を取り返そうとして、強引な手段を用いて「補助金」を獲得してきた。それがトランプ流「正義」なのである。トランプにとって、「負けたウクライナ」を支援するのは「アメリカの冨を盗む」ことである。従ってウクライナは対価としてレアアースを提供しなければならない。関税など貿易問題も同じ発想。「貿易赤字」というのは、「アメリカの冨を盗む」ことと考える。そしてアメリカ人に呼びかけるのである。あなた方の生活が苦しくなったのは、「盗まれた」からなのだ。私だけがそれを取り戻すだろう。そうか、自分たちは盗まれていたのか。この「トンデモ世界観」の根は深そうだ。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 極右トランプの「反革命クー... | トップ | 「自由の守護者」トランプ、... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

 〃  (国際問題)」カテゴリの最新記事