岩波新書の7月新刊、梯久美子『戦争ミュージアムー記憶の回路をつなぐ』は重いテーマを取り扱いながらも、とても読みやすい。題名通り日本各地にある戦争ミュージアムを訪れて紹介する本だが、「通販生活」に連載されたという成り立ちから一編が長くない。簡潔にまとまっていて、すぐに読めるのである。どこから読んでも良いし、旅行のガイドにもなる。14箇所の施設が紹介されているが、多分全部行ってる人はほとんどいないだろう。北は稚内から、南は石垣島まであって、近年に出来た施設も多いからだ。まずは読んでみて、夏休みに近くにあるところに足を運んでみては? 「自由研究」や「研修」にも役立つ本だろう。
梯久美子(かけはし・くみこ、1961~)はノンフィクション作家で、『散るぞ悲しき―硫黄島総指揮官・栗林忠道』(2006)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。その後、大著『狂うひと─「死の棘」の妻・島尾ミホ』(2016)が高く評価され、読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞などを受けた(文庫版を持ってるけど、あまりに分厚くてまだ読んでない)。戦争に関する本が多いようだが、近代文学に関する本もある。また『廃線紀行―もうひとつの鉄道旅』(2015)という本もある。
(梯久美子氏)
この本に出ている14箇所の施設の中で、行ってるところは5箇所しかなかった。結構行ってるつもりだったが、長崎、舞鶴などその町に行ったことがないんだからやむを得ない。行ってるのは(掲載順で)、予科練平和記念館、戦没画学生慰霊美術館 無言館、東京大空襲・戦災資料センター、原爆の図丸木美術館、都立第五福竜丸展示館である。それらは東京、または関東近辺にあり訪れやすい。無言館や丸木美術館などは何度か行っている。単なる「戦争ミュージアム」というより、ある種「聖地」みたいな重みがある場所になっている。これらは名前を挙げるだけにしておきたい。
(回天記念館)
この本には恐らく日本でもっとも知られた戦争ミュージアムが出てない。「広島平和記念資料館」「ひめゆり平和祈念資料館」「沖縄平和祈念資料館」である。広島に関しては関連書籍も多く、ホームページも充実しているからあえて取り上げていないと「あとがき」にある。沖縄も恐らく同じような事情だろう。これらは僕も行ったことがあるが、確かに本書を読む人なら、行ってなくても名前は知ってるだろう。それよりあまり知られていない施設を取り上げるのが、この本の特徴だ。例えば、山口県周南市にある「回天記念館」は、生還を全く想定しない恐るべき「特攻魚雷」である「回天」基地があった島にある施設である。1968年に出来ているが、フェリーで行くしかない瀬戸内海の島にあるので、なかなか行きにくい。
(満蒙開拓平和記念館)
長野県南部の阿智村に2013年に出来たのが「満蒙開拓平和記念館」である。開館時には報道されたので、僕も存在は知っていた。長野県はかつて「満州国」に多くの移民を送り出した県で、ソ連軍の侵攻、引き揚げ時に大きな犠牲を出した。「満蒙開拓」は当時の国策だが、実は「開拓」ではなく中国農民の土地を奪って与えられたものだった。そのような「加害」と「被害」をともに記憶して伝えようというのが、この施設の特徴だ。僕も一度行ってみたいと思いながら、信州の観光ルートから外れる場所にあってなかなか行くチャンスがない。非常に大切な記念館だと思う。
(舞鶴引揚記念館)
その外地からの引き揚げに関しては、多くの人の帰還港となった京都府舞鶴市に「舞鶴引揚記念館」が1988年に作られた。この地域(若狭湾沿岸一帯)には行ったことがなく、日本三景の天橋立も見てない。正直言うと、こういう施設があることもこの本で知った。何でもシベリア抑留に関する収蔵品は、2015年に世界記憶遺産に登録されたという。ここも元気なら一度は訪れたい場所である。また石垣島にある「八重山平和記念館」はいわゆる「戦争マラリヤ」を記憶する施設である。戦争マラリヤが軍命令に基づき「有病地帯」へ住民が移動させられた「国策」によるものだったことを僕はこの本を読むまで知らなかった。
(八重山平和記念館)
沖縄に関しては、撃沈された疎開船である「対馬丸記念館」(2004年開館)も掲載されている。冒頭にあるのは「大久野島毒ガス資料館」で、広島県の瀬戸内海にある大久野島に作られた毒ガス製造工場の資料館である。ここも前から一度行きたいと思っているのだが、東京からはなかなか遠い。今では「休暇村大久野島」が作られウサギの島として世界に知られている。他にも「象山地下壕(松代大本営地下壕)」「長崎原爆資料館」「稚内樺太記念館」が載っている。日本の北から南まで、それぞれの地で異なった戦争の記憶が継承されていることがよく判る。ここで取り上げた場所に他意はないが、自分もあまり知らなかった場所を中心にした。
最後にここで取り上げられていない施設を紹介しておきたい。最初は「しょうけい館 戦傷病者史料館」である。ここは地下鉄九段下駅近くにあったが、再開発にともない近くに移転して2023年10月にリニューアルオープンした。厚生労働省が設置した施設で無料で観覧できる。戦傷病者という今では忘れられている(少なくとも取り上げられることが少ない)テーマに特化して、戦争に関して重大な視点を提示している。今でも世界に戦争が絶えない中で、決して忘れてはいけない重みがある施設だ。
もう一つが「アクティブ・ミュージアム 女たちの戦争と平和資料館」(wam)で、いわゆる「日本軍慰安婦」に関する展示と活動を行っている。西早稲田のビル内にあって金土日月の週4日しか開館していない。しかし、今もつぶれずに存続していることが貴重だ。こっちは有料だが、是非一度は訪れて欲しい施設である。ここも是非紹介して欲しかった場所だ。
梯久美子(かけはし・くみこ、1961~)はノンフィクション作家で、『散るぞ悲しき―硫黄島総指揮官・栗林忠道』(2006)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。その後、大著『狂うひと─「死の棘」の妻・島尾ミホ』(2016)が高く評価され、読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞などを受けた(文庫版を持ってるけど、あまりに分厚くてまだ読んでない)。戦争に関する本が多いようだが、近代文学に関する本もある。また『廃線紀行―もうひとつの鉄道旅』(2015)という本もある。
(梯久美子氏)
この本に出ている14箇所の施設の中で、行ってるところは5箇所しかなかった。結構行ってるつもりだったが、長崎、舞鶴などその町に行ったことがないんだからやむを得ない。行ってるのは(掲載順で)、予科練平和記念館、戦没画学生慰霊美術館 無言館、東京大空襲・戦災資料センター、原爆の図丸木美術館、都立第五福竜丸展示館である。それらは東京、または関東近辺にあり訪れやすい。無言館や丸木美術館などは何度か行っている。単なる「戦争ミュージアム」というより、ある種「聖地」みたいな重みがある場所になっている。これらは名前を挙げるだけにしておきたい。
(回天記念館)
この本には恐らく日本でもっとも知られた戦争ミュージアムが出てない。「広島平和記念資料館」「ひめゆり平和祈念資料館」「沖縄平和祈念資料館」である。広島に関しては関連書籍も多く、ホームページも充実しているからあえて取り上げていないと「あとがき」にある。沖縄も恐らく同じような事情だろう。これらは僕も行ったことがあるが、確かに本書を読む人なら、行ってなくても名前は知ってるだろう。それよりあまり知られていない施設を取り上げるのが、この本の特徴だ。例えば、山口県周南市にある「回天記念館」は、生還を全く想定しない恐るべき「特攻魚雷」である「回天」基地があった島にある施設である。1968年に出来ているが、フェリーで行くしかない瀬戸内海の島にあるので、なかなか行きにくい。
(満蒙開拓平和記念館)
長野県南部の阿智村に2013年に出来たのが「満蒙開拓平和記念館」である。開館時には報道されたので、僕も存在は知っていた。長野県はかつて「満州国」に多くの移民を送り出した県で、ソ連軍の侵攻、引き揚げ時に大きな犠牲を出した。「満蒙開拓」は当時の国策だが、実は「開拓」ではなく中国農民の土地を奪って与えられたものだった。そのような「加害」と「被害」をともに記憶して伝えようというのが、この施設の特徴だ。僕も一度行ってみたいと思いながら、信州の観光ルートから外れる場所にあってなかなか行くチャンスがない。非常に大切な記念館だと思う。
(舞鶴引揚記念館)
その外地からの引き揚げに関しては、多くの人の帰還港となった京都府舞鶴市に「舞鶴引揚記念館」が1988年に作られた。この地域(若狭湾沿岸一帯)には行ったことがなく、日本三景の天橋立も見てない。正直言うと、こういう施設があることもこの本で知った。何でもシベリア抑留に関する収蔵品は、2015年に世界記憶遺産に登録されたという。ここも元気なら一度は訪れたい場所である。また石垣島にある「八重山平和記念館」はいわゆる「戦争マラリヤ」を記憶する施設である。戦争マラリヤが軍命令に基づき「有病地帯」へ住民が移動させられた「国策」によるものだったことを僕はこの本を読むまで知らなかった。
(八重山平和記念館)
沖縄に関しては、撃沈された疎開船である「対馬丸記念館」(2004年開館)も掲載されている。冒頭にあるのは「大久野島毒ガス資料館」で、広島県の瀬戸内海にある大久野島に作られた毒ガス製造工場の資料館である。ここも前から一度行きたいと思っているのだが、東京からはなかなか遠い。今では「休暇村大久野島」が作られウサギの島として世界に知られている。他にも「象山地下壕(松代大本営地下壕)」「長崎原爆資料館」「稚内樺太記念館」が載っている。日本の北から南まで、それぞれの地で異なった戦争の記憶が継承されていることがよく判る。ここで取り上げた場所に他意はないが、自分もあまり知らなかった場所を中心にした。
最後にここで取り上げられていない施設を紹介しておきたい。最初は「しょうけい館 戦傷病者史料館」である。ここは地下鉄九段下駅近くにあったが、再開発にともない近くに移転して2023年10月にリニューアルオープンした。厚生労働省が設置した施設で無料で観覧できる。戦傷病者という今では忘れられている(少なくとも取り上げられることが少ない)テーマに特化して、戦争に関して重大な視点を提示している。今でも世界に戦争が絶えない中で、決して忘れてはいけない重みがある施設だ。
もう一つが「アクティブ・ミュージアム 女たちの戦争と平和資料館」(wam)で、いわゆる「日本軍慰安婦」に関する展示と活動を行っている。西早稲田のビル内にあって金土日月の週4日しか開館していない。しかし、今もつぶれずに存続していることが貴重だ。こっちは有料だが、是非一度は訪れて欲しい施設である。ここも是非紹介して欲しかった場所だ。
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