尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

劇団民藝「時を接ぐ」-満映で働いた女性編集者

2018年09月29日 21時15分23秒 | 演劇
 劇団民藝の「時を接ぐ」(つぐ)を見た。10月7日まで。新宿の紀伊国屋サザンシアター。岸富美子・石井妙子「満映とわたし」(文藝春秋刊)の舞台化で、黒川陽子作、丹野郁弓演出。石井妙子は「おそめ」や「原節子の真実」を書いたノンフィクション・ライターで、その本は満映で働いた経験を持つ岸富美子の話をまとめたもの。まあ読んでないけど。

 あらすじをコピーすると、「東洋一とうたわれた映画撮影所、満洲映画協会〝満映″。戦中、日本から大陸へとわたった多くの映画人たちは、1945年8月15日の敗戦を境に過酷な運命をしいられることとなる。「編集」という映画製作では、もっとも地味でかつ重要な仕事を担うひとりの女性技師。逆境のなかで、彼女は、技術者としての確かな腕と誇りで、自らの人生を切り拓いていくのだった……。」ということになる。満映の理事長は関東大震災後に大杉栄、伊藤野枝らを虐殺した甘粕正彦。満映が生んだ大スターが「李香蘭」で、「満州人」とされたが実は日本人の山口淑子

 甘粕の話はちょっと出てくるが、話は淡々と進む。主人公の家は貧しく、兄が映画会社に勤めた。やがて「満映」に行って妹も勤めることになるが、何せ「編集」という仕事だから見栄えはない。自伝の舞台化だから、時間軸に沿って進むが、いつのまにか日本も敗色濃厚になっている。マジメで浮いた話もない主人公に周りが縁談を世話して、お見合いらしいお見合いもなく結婚したのは昭和20年8月11日(だったかな)。そこで休憩になって、二幕目に入ると主人公一家は炭鉱で働いている。そこで夜は政治集会があり、主人公も自己批判を要求されたりする。

 その後、満映の撮影所は「東北電影」となり、主人公は呼び戻されて編集の仕事を中国人助手に教えることになる。そして革命後の中国映画の代表作と言われた「白毛女」の編集にも実質的に携わることとなった。と話は進むけど、舞台の上は不思議な感じで進行する。装置を作り直しつつ、多くの俳優が舞台上で主人公たちの演技を見ている。それは「中国人民衆」でもあるだろうが、映画に出ている俳優たちでもある。彼らが俳優として自在に舞台上を動くことで、「編集」の仕事がよく判る。そんな風に進んできて、本の元になった記録を読んでいた主人公の娘がツッコミを入れる。書いてない時期がある。お母さんはなんか怒っているけど、それは何故?

 主人公は「満映」で仕事をしていたが、それは「日本帝国主義」のために働いていたのか。敗戦後は中国革命後の「東北電影」で働くが、「編集」という仕事は脚本や監督の意図をよりよく生かすための「技術」でしかないと思っていたのだ。しかし仲良くしていた(と思ってた)中国人監督は家族を日本軍に虐殺された過去があったが、主人公は全然知らなかったし、初めは信じられなかった。単なる「技術」なんてものはないんだとそこで気づいた。自分は自分に怒っていたのだと語る。そして単にフィルムをつなぐだけでなく、歴史の記憶を次の世代につないでいくのが大切なんだと。

 ということで最後になると、この劇が何を言いたいのかがよく判るんだけど、そこまでが淡々と進み過ぎる。せっかく「満映」を舞台にしながらも、あまりドラマがないまま進んで行く。前半は特にそんな感じで、疲れていたから眠くなってしまった。やはり劇というのは、もう少し「劇的」な展開が必要なんじゃないか。これほどの題材をもとにしながらも、なんだか淡彩なイメージで残念。「満映」や「満州国」がどのように映画かれているのかという関心から見たいと思ったんだけど…。主人公の岸冨美江役は日色ともゑの熱演。役者もいっぱい出ていて頑張ってるんだけど、どうも淡白な舞台になるのが最近の「新劇」かな。
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2 コメント

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同感です (ogata)
2018-10-01 22:55:00
 点数的には同じような感じですね。「事実」と言っても、「満映」に関心があって「ぜひ見てみよう」という客は今ではかなり少ないと思います。だから、思い切って脚色した方が作劇上よいと思いました。テーマが立ち上がってこない感じがしたわけです。まあ原作を読んでないので、それ以上は触れませんが。
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私も見ましたが (さすらい日乗)
2018-10-01 07:53:50
厳しく言えば、60点くらいでしょうか。
原作は非常に興味深いもので、満映で牧野満男が左遷された後、閉鎖された元松竹京都の連中が来て多数派になったこと。戦後、加藤泰らが帰国した経緯、内田吐夢や木村壮十二らと長春から奥地に行った理由。
さらに、帰国しても入る会社はなく、独立プロで働かざるえなかったことなど。
鈴木忠志的に言えば、劇そのものにではなく、事実に感動するのは邪道だそうですが。
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