尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画『この星は、私の星じゃない』と上野千鶴子トーク

2024年09月17日 21時50分23秒 |  〃  (旧作日本映画)
 8月7日に亡くなった田中美津さんを主人公にしたドキュメンタリー映画『この星は、私の星じゃない』(吉峯美和監督)の追悼上映を見て来た。アップリンク吉祥寺。今日は上野千鶴子さんのトークがあって、きっとすぐ一杯になるだろうと思ってチケット発売開始直後にネット予約した。そうしたら会員にならないと前売り券を買えなくなっていて、その手続きをする間にもどんどん席が埋まっていた。観客には高齢女性も多く見られたが、知り合いに取って貰ったりしたようだった。

 映画は2019年に公開されたが、その時は渋谷ユーロスペースのモーニングショーだったので見なかった。今回見たらとても面白い記録映画で、田中美津という「社会運動家」「鍼灸師」の生き方を見事に映し出していた。主に3つの側面から描かれるが、それは「今までの人生」「鍼灸師としての生活(子どもとの関わりを含め)」「沖縄・辺野古」である。田中美津は日本の「ウーマンリブ」の「伝説的リーダー」として知られるが、その生育歴に幼児の「性被害」があった。そのことを撮影当時も考え続けている。一方、沖縄で轢殺された女児の写真に衝撃を受け、辺野古への基地移転反対運動に通うようになる。沖縄へ通い「自分ももうすぐニライカナイへ行く」と語るのである。そのような姿が等身大で浮かび上がる。
(田中美津)
 一方で鍼灸師としての活動も描かれている。上野千鶴子も患者だと言っていたが、非常に実力のある鍼灸師だがとても辛い治療だという。「長鍼」を使っていて、見ていても痛そうだし患者さんも痛いと言ってる。だが上野さんによれば劇的に効くらしい。田中美津はリブ運動に行き詰まりを感じ、1975年にメキシコに出掛けたまま4年間帰って来なかった。その間に恋に落ち子どもが生まれたが、パートナーとは別れて帰国して、鍼灸学校に通ったのである。その子ども(男性)は40歳前後になっているが、映画撮影期間に鍼灸師の資格を取ったことが出て来る。家庭の領域が記録されているのは貴重だし、人間の諸相を考えさせられる。
(上野千鶴子)
 上野千鶴子さんは1948年生まれ、田中美津さんは1943年生まれで、5歳の差がある。100年後の人から見れば「同時代の女性運動家」に見えるだろうけど、戦争と高度成長、60年代反乱の激動の時代にあっては、この5年の違いは大きい。上野さんは京都大学に通ったので、まさに「大学反乱」の真っ最中である。しかし、大学へ行ってない田中美津さんは60年代初頭にはもう働き始めているたである。「ウーマンリブ」創世記には上野千鶴子はまだ学生なので関わっていない。しかし「後から来た者」の「特権」で、上野千鶴子は「日本のウーマンリブは、1970年10月21日(国際反戦デー)の女だけのデモで、田中美津が書いたチラシ「便所からの解放」を配布した時を以て始まる」と規定した。外来思想ではなく、日本の現実から出て来たとみなすのである。

 もっとも上野さんによれば、「田中さんは嫌な人」だという。田中美津いわく、「お尻をなでてくる男」がいたとして、「ウーマンリブは顔をたたき返す」「フェミニズムはそれってセクハラですよと言う」と言ったらしい。まあ、何となく言いたいことは判る気がするけど。そして上野千鶴子さんは吉峯監督にも聞きたいことがあるという。沖縄へ通うようになって、「聖地」と言われる久高島を訪れガイドを務める人から話を聞く。その時のガイドの言葉は上野さんによれば、ありきたりのもので「田中さんは霊的に筋が良い」とかは誰にでも言ってるに違いないという。そういう場面が必要なのかと問うのだが、監督は実はその時田中美津さんは説明を聞きながら寝てしまった、それが面白くて映像を残したというのである。

 僕も寝てるのかなと思ったが、上野さんは深く沈み込んで熟考していると捉えたらしい。やはり聞いてみるべきだと語っていたが、しかし田中さんが「せいふぁうたき(斎場御嶽)」も訪ねているし、久高島も訪れている。沖縄にスピリチュアルな関心を抱いていたのも確かだろう。そういう方向性と「鍼灸師」として「身体」に関心を寄せたことはつながっているのか。まあ、きちんとメモを取らず聞いていただけだが、「田中美津」という人間の魅力とフシギが後世に遺されて良かったなと思った。どのカテゴリーにするか迷ったが一応「旧作日本映画」にしておきたい。

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