尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画『至福のレストラン 三つ星トロワグロ』、F・ワイズマン94歳の傑作

2024年09月04日 21時47分55秒 |  〃  (新作外国映画)
 アメリカのドキュメンタリー映画監督フレデリック・ワイズマンは何と94歳である。ワイズマンの映画はとにかく長いので、2022年に『ボストン市庁舎』を見たのが最初だったが、それから2年。今度はフランスへ行って有名なレストラン「トロワグロ」のすべてに密着する映画『至福のレストラン 三つ星トロワグロ』を作った。それがまた240分もあるのだが、真ん中に休憩があるので『オッペンハイマー』や『キラーズ・オブ・フラワームーン』なんかよりは楽。それに劇映画でもないのに、なぜか見入ってしまって時間を忘れるような傑作だった。時間を恐れず機会があれば見るべきだが、ちょっと満腹し過ぎるかもしれない。

 「トロワグロ」は「親子三代55年間ミシュランの三つ星を持ちつづけ」ているフランス最高のレストランだとチラシに出ている。日本との関係も深く、新宿に系列店がある。映画内でも日本への言及が多く、それも興味深い。フレデリック・ワイズマンの映画は、幾つものカットを細かく積み重ねるスタイルで、「ノーナレ」で進行するのが特徴。だから当初はよく判らないことが多い。この映画でも最初に地図ぐらい出して欲しかった気もする。後で調べたら、フランス中部ロアンヌ(リヨンから電車で1時間)の近くにある。元は街中にあったが、2017年に郊外のウーシュという村に移転して話題となったという。
(フレデリック・ワイズマン)
 そこは田園地帯にあって、近くに農園や牧場もある。究極の「地産地消」をめざし、環境上の配慮もあっての移転らしい。もっともあまりにも美しい風景を見て、オーナーシェフ3代目のミッシェルが古民家を買いたくなったのである。2012年に権利を獲得し、5年間整備して宿泊施設もあるレストランにした。長男が店を手伝い、次男は30分ほど離れた場所にあるもう一つの店のシェフ、娘が宿泊部門の予約や事務の責任者といううらやましいような家族経営である。映画では冒頭から料理の材料やソーズについてミッシェルが確認している。その微妙なさじ加減の味覚には驚くばかり。
(厨房のようす)
 映画は厨房の調理の様子を細かく見ていく。恐らくこのレストランで働く人も、映画を見て初めて知ったことが多いと思う。「町中華」じゃないので、一人で全部は担当しない。肉、魚、ソース、スイーツなどいくつかの専門があるようで、皆自分の仕事で手一杯。それからフロア部門に映像が移る。このレストランではフロアスタッフの持つ意味が非常に大きい。料理の説明だけでなく、常連の好み、ワイン選び、世界中から来る客との会話、アレルギーの確認などやることがたくさん。コースだけでなくアラカルトもあるので、客席ごとに出す料理が細かく違っていく。それを見事にさばいて行くスタッフいてこそのトロワグロである。
(田園風景を望める店内)
 中継を挟んで、チーズ工房やブドウ畑など関連施設も紹介する。ここも非常に興味深い。日本関連では冒頭からソースの材料に「醤油」が使われ、もう定番調味料になってる感じ。さらに「活け締め」(イケジメ)は日本語のまま使われ、「ジャポネのハーブ」紫蘇も使われる。ミッシェルは若い頃に日本料理に触れて大きな影響を受けた。白くて丸いスイーツの命名に困っていたら、日本人客が真珠のネックレスをしていたのを見て「ミキモト」と名付けたとか。このように日本の影響も大きいのだが、やはり基本は肉食で塩やバターが多く使われている感じがした。塩分や脂肪分の含有量を教えて欲しいという気もしてきた。
(チーズ工房)
 飽きない映像が続くが、次第に映画内の料理には飽きてくるかも。やはりベースがフランス料理なので、逆に宿坊に泊まって精進料理を食べたくなってくる。グルメの劇映画はかなり多く、最近ではフランスの『ポトフ 美食家と料理人』が面白かった。劇映画だと登場人物のドラマが並行して描かれる。しかし、この映画は料理関連のみで、あるレストランのすべてに迫るという目的で作られている。それにしても90過ぎて異国で大長編を作るフレデリック・ワイズマンには驚くしかない。(まあフランスは『パリ・オペラ座のすべて』『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』など今までも縁があった国だが。)
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